昭和のクルマ好きと未来のエンスージアスト、ともに納得の1台──新型マクラーレン・アルトゥーラ試乗記

マクラーレンの新型「アルトゥーラ」は、異次元のスーパーカーだった! 軽井沢で試乗したサトータケシが綴る。
昭和のクルマ好きと未来のエンスージアスト、ともに納得の1台──新型マクラーレン・アルトゥーラ試乗記
Motosuke Fujii

現在・過去・未来

「このクルマはタイムマシンみたいだ……」

マクラーレンのプラグイン・ハイブリッド(PHEV)のスーパースポーツ、アルトゥーラのハンドルを初めて握って頭に浮かんだのは、こんな感想だった。

ハイブリッドシステムを起動すると、ドライブモードはデフォルトで「Eモード」が選ばれ、モーターの駆動力で粛々と走り出す。つまりEV走行で、ほぼ無音、無振動のまま、スムーズに加速する様子は、未来のスポーツカーだ。

新型アルトゥーラは、ガソリン・エンジンとモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド・システムを搭載する。

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インパネに設置された縦型の8インチ・タッチスクリーンがドライバーズシート側に向けられた。

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「Eモード」「Comfort」「Sport」「Track」の4つのパワートレインのドライブモードから「Sport」を選ぶ。低回転域ではこの領域を得意とするモーターがアシスト、高回転域ではエンジンが主役となって、絶妙のコンビネーションを見せて、あらゆる速度域で気持ちよく加速する。ここでのモーターとエンジンの連携は、近未来っぽい。

そして「Track」モードでフルスロットルを与えると、このクルマのために開発された3.0リッターのV型6気筒ツインターボは8200rpmまでまわり、ハ行の濁音と半濁音のちょうど中間のような排気音が鼓膜を震わせる。これは懐かしの1980年代だ。

といった具合に、このクルマは過去と未来を自在に行ったり来たりできる。

インフォテインメントシステムは、スマートフォンとの連携機能が強化されたほか、ナビゲーションマップのデザインが新しくなった。

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マクラーレンによれば「身長193cmのドライバーでも膝周辺の空間やレッグルームに余裕があります」とのこと。

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魅力的なエンジン

過去と未来を行ったり来たりできるのは、パワートレインだけではない。シャシーもまた、おなじような印象を与える。

シャシーのセッティングは、「Comfort」「Sport」「Track」の3つのハンドリングモードから選ぶことができる。ここで「Comfort」を選んで市街地を走ると、「スポーツカーとしては」というエクスキューズを抜きにして、快適な乗り心地を味わうことができる。

ドアは、マクラーレン特有のディヘドラルタイプを採用。

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フラットな姿勢を保つ引き締まった乗り心地でありながら滑らかに走るという、いままでに体験したことのないような乗り心地は、未来のスポーツカーだ。

いっぽう、「Track」を選ぶと、びしっとダンピングが効く。そして、ドライバーを中心にクルッとまわるような小気味良いハンドリングの虜になった。この軽快感は、往年のライトウェイトスポーツカーを彷彿とさせる。

で、こうした昭和のクルマ好きと未来のエンスージアストの両方を納得させる性能が実現した理由は、マクラーレン独自の技術力にほかならない。

ボディは全長×全幅×全高=4539×1976×1193mmで、ホイールベースは2640mm。

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トランスミッションは新開発のデュアルクラッチシステムの8AT。

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まずパワートレインでは、このPHEVのために新たにV6エンジンを開発した。従来のV8エンジンに比べて50kg軽い、160kgという軽さがウリで、サイズも大幅にコンパクトになっている。

もうひとつ、このV6エンジンのマニアックな点として、120°というバンク角にこだわっていることがあげられる。このバンク角だと回転フィールがよくなるほか、低重心に寄与し、さらに高強度のクランクシャフトが使えることで8200rpm、瞬間的には8500rpmまでまわるエンジンとなった。

この魅力的なエンジンに小型で電力密度の高いモーターを組み合わせることで、電動スーパースポーツの可能性と、エンジンの魅力が矛盾することなく両立している。新たに開発したツインクラッチ式の8段ATが黒子となって、シームレスな変速を実現していることも見逃せない。

灯火類はフルLED。

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唯一無二のスーパースポーツ

シャシー性能もまた、マクラーレンらしい尖った技術の賜物だ。

まず、カーボンモノコックを基本骨格とする新しいボディ構造によって、車重は1.5t以下に抑えられた。システム最高出力680psのスーパースポーツとしては、超軽量といっても過言ではないだろう。

外部からの給電(普通充電)によって、約2時間30分で、80%まで充電出来るという。

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カーボンモノコックというと十把一絡げにしてしまいがちであるけれど、マクラーレンのカーボンは年季が違う。1981年のマクラーレン「MP4/1」で、「F1」の世界に初めてカーボンモノコックを持ち込み、以来、自社にファクトリーを構えて研鑽を重ねているのだ。

路面の不整を乗り越えてもミシリとも言わない堅牢さ、ドライバーを中心にクルマが動いていると実感できる重量配分など、40年以上かけて積み上げてきたノウハウがあるからこそ実現できたボディ構造だ。

組み合わされるモーターは70kW/225Nmを発揮する。重量は15.4kgだ。モーターのみで最高130km/hを叩き出し、最長30km走行出来るという。

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乗り心地と好ハンドリングを両立しているのは、マクラーレン・プロアクティブ・ダンピング・コントロール(PDC)というシステムによるところが大きい。

一般に、乗り心地をゆったりさせるとハンドリングはユルくなり、ハンドリングをビシッとさせると乗り心地がキツくなる、という二律背反がある。これを解消するのがPDCで、簡単に説明するとセンサーからの情報によって、ドライビングや路面コンディションに合わせた最適のハンドリングと乗り心地を提供するシステムだ。

Bowers&Wilkinsの12スピーカー・システムも選べる。

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タイヤ4本には加速度センサーが備わり、ボディには3つの加速度計、ほかにもステアリングの操舵角や車速、横Gなどの要素を瞬時に処理して、足回りのセッティングを最適化する。

アップデートされた電子制御と、軽くて強いボディの組み合わせが、新しいドライブフィールをもたらしている。

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エンジンにしてもシャシーにしても、新しいテクノロジーと、レーシングファクトリーとして培ってきた知見が見事に融合されている。だからほかとは明らかに違う、唯一無二のスーパースポーツが生まれたのだろう。

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文・サトータケシ 編集・稲垣邦康(GQ)