素材の生産と加工がファッション業界のカーボンフットプリントの大半を占めることを考えると、近年、業界全体が新素材の開発に注力しているのは当然と言える。ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)は今年、キノコの根から作られた代替レザー、Myloを使用したバッグ第一弾を発表し、ザラ(ZARA)はLanzaTechの炭素捕捉素材を使用した初の製品を販売。また、グッチ(GUCCI)などを傘下に収めるケリング(KERING)は、培養レザーのスタートアップ、VitroLabsへ投資するなど、さまざまな動きが見られた。
今年10周年を迎えるFuture Fabrics Expoの創設者であるニーナ・マレンツィは、「10年前は、環境への影響が少ない素材がそもそもなぜ必要なのか、理解されていませんでした」と語る。
「けれど今は多くの企業が、積極的にこの議論に加わりパートナーシップを確立しなければ取り残されてしまうことを知っています」
畜産業が世界全体の温室効果ガス排出量の14.5%を占めていることを考えると、従来のレザーに代わる素材は、もっとも活発にイノベーションが起こっている分野の一つ。MyloやMycoWorksといった菌糸を使った素材や、Mirumのようなプラスチックフリーの素材がその先駆け。マレンツィは、「リアルレザーの使用を止めるなら、何をその代替とするのかをきちんと見極める必要があります。プラスチックの人工レザーなど言語道断です」と指摘する。
業界にとっての悲願は、消費財廃棄物を利用したリサイクル素材の開発だ。これまでもさまざまな試みが行なわれてきたが、突破口を見つけられずにいた(ファッションに使用されるリサイクル素材は製造業の廃棄物や他の産業からのものが多く、ペットボトルはその代表例だ)。マレンツィはこう語る。
「5年ほど前に繊維から繊維のリサイクルが話題になったとき、大半の人がその実用化など夢のまた夢と考えていました。しかし、先駆的な実験の例を見せた上で実現可能であることを示せば、実際にスケールできるのです」
一方、天然繊維を高機能素材に変えるClarusや、トウモロコシを原料とした完全生分解性ポリエステルのKintraなど、合成繊維に代わるバイオベースの素材も次々と生まれている。ここからは、今知っておくべき最もエキサイティングな未来の素材12種を紹介しよう。
【エコレザー】
1.Mylo
ステラ マッカートニーやアディダス(ADIDAS)、ケリング、ルルレモン(LULULEMON)が支援するMyloは、菌糸体、つまり菌類の根から作られたレザーの代替素材。菌類の細胞でできたふわふわの大きなシートを、動物の皮革に適用されるなめし工程を経て完成される。Myloはバイオ素材ではあるものの、現状は完全にプラスチックフリーというわけではない。今後、合成物質を完全に排除するという目標を掲げている。
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2. Reishi
MycoWorksのReishiは、Mylo同様、農業廃棄物を餌に特殊な方法で培養された菌糸から作られたシート。このシートはクロムフリーのなめし加工が施されており、合成素材は一切含まない。同社は昨年、エルメス(HERMES)から最初の製品を発売し、今年1月には、さらなる成長のために1億2500万ドルの資金調達を行った。
3. Mirum
Natural Fiber Welding社が開発したMirumは、植物と鉱物から作られるプラスチックフリーのレザー代替素材。同社によると、この素材は無限にリサイクル可能な完全なる循環型素材とのこと。オールバーズ(ALLBIRDS)とパンガイア(PANGAIA)がMirumを採用した最初のブランドであり、ラルフローレン(RALPH LAUREN)も出資している。
4. Piñatex
パイナップルの廃棄物から作られるPiñatexは、最初に登場した代替レザーのひとつで、エイチアンドエム(H&M)からヒューゴ ボス(HUGO BOSS)まで、幅広いブランドに採用されている。ピーニャテックスは現状、生物由来のプラスチックであるPLAを含み、耐久性を高めるためにPUコーティングされている。
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5. Vegea
Vegeaは、ワイン産業から出るブドウの廃棄物を原料にした植物由来レザー。2017年にエイチアンドエム財団のグローバルチェンジアワードを受賞して以来、この素材は、ガニー(GANNI)やパンガイア、カルバン クライン(CALVIN KLEIN)などが使用している。
6. VitroLabs
年初に4600万ドルの資金調達を行ったVitroLabsの培養レザーは、従来のレザーの見た目と質感を見事に再現。わずかな動物細胞から生産されるこの素材にはケリングも出資しており、注目度の高さがうかがえる。
【リサイクル生地】
7. Circulose
Renewcell社のCirculoseは、100%廃棄衣服から作られたリサイクル素材。再生可能エネルギーを使って衣料品から綿を分離し、これを木材パルプに溶かしてビスコースの一種にする。エイチアンドエムは2020年にCirculoseを用いた製品を発売した最初のブランドであり、リーバイス(LEVI'S)は今年初めに、同社のアイコンである501をCirculoseで作った。
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8. NuCycl
同じく、100%リサイクル素材であるEvrnuのNuCyclも、主に消費者から集めた廃棄衣服の綿ゴミから作られている。この完全にリサイクル可能な素材は、すでにステラ マッカートニーなどが採用しており、2019年にはアディダスと共同でInfinite Hoodieを発表した。
【バイオ素材】
9. Kintra
ポリエステルやナイロンなどの合成繊維に代わる100%バイオ素材を見つけることは、今後の業界にとって重要な課題だ。Kintraはまさに、その一つの解となり得る新しいイノベーション。パンガイアによる支援を得て、トウモロコシと小麦から抽出した糖分を使用し、従来のポリエステルに代わる生分解性繊維の開発・製造を目指す。
10. Clarus
綿、麻、ウールなどの天然繊維を合成繊維と同じ特性を持つ高性能なテキスタイルに変えるのが、Natural Fiber Welding社のClarus技術だ。ラルフローレンは今年初め、この革新的な繊維を使用した初のポロシャツを発売した。
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【カーボンネガティブ素材】
11. AirCarbon
ニューライト・テクノロジーズのAirCarbonは、大気中の二酸化炭素を吸収するカーボンニュートラルな素材。この代替レザーは、海洋生物がメタンと二酸化炭素を分子に変換し、それを溶かすという自然界のプロセスを再現して作られている。昨年、ナイキ(NIKE)がAirCarbonの採用を発表し、さらに期待が高まっている。
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12. LanzaTech
製鉄所から排出されるCO2をエタノールに変換し、それをポリエステル糸に変える技術を開発したのはLanzaTech社。ている。ザラは今年、この技術を使った初の服(その20%は炭素排出物から作られ、残りは従来のポリエステルに含まれるPTA)を発売し、ルルレモンは2021年に同社と提携している。
Text: Emily Chan
from VOGUE UK