LIFESTYLE / TRAVEL

旅先でしか味わえない、唯一無二の食体験ができる宿3軒【美味しいオーベルジュ旅 vol.1】

日本で初めて美食の宿・オーベルジュが生まれたのは30年以上も前のことだが、近年、その進化が目覚ましい。世界のガストロノミー界で活躍する一流のシェフたちが、地方の豊かな食材を活かして創り上げる、その地でしか得られない食が体験できるのだ。この秋訪れたい、3軒をピックアップ。

【L’evo】富山に惚れ込んだシェフが行きついた山合いの理想郷。

富山の伝統料理「イカの黒作り」のソースを塗って熟成させた真鱈。皿は釋永岳の作品。

富山市内で、フレンチレストラン「L’evo(レヴォ)」を営んでいたシェフ・谷口英司が岐阜県との県境に近い南砺市利賀村に居を移してから、まもなく2年を迎える。1,000m級の山々に囲まれた、人口わずか500名余りの山村にオーベルジュを開くというチャレンジにもかかわらず、今年3月発表の「ゴ・エ・ミヨ2022」では、全国でただ1人「今年のシェフ賞」を受賞するなど、きわめて順風満帆だ。

3棟ある貸切コテージのインテリアには、村内の空き家の建具をアップサイクル。

周囲の山々で採れる山菜やキノコ、地元猟師から仕入れるジビエなど、利賀村は食の宝庫。さらに自社農園で種から育てた健全な野菜、富山湾から運ばれる海の幸も加わる。富山歴10年、富山の食材の魅力を知り尽くした谷口シェフはこれらを縦横無尽に使いこなす。南砺の五箇山赤カブや砺波の大門素麺は定番のスペシャリテとなり、ゲストから熱い支持を受けている。

約7500㎡の敷地に、レストラン、コテージ、サウナ小屋、パン小屋など6つの建物が点在し、館内は、富山市内の木工ユニット「Shimoo Design」のテーブル、ガラス作家・ピーター・アイビーの照明、陶芸家・釋永岳の器など、“富山尽くし”で満たされている。レヴォの存在は、地域を変えていく原動力にさえなっているのだ。

L’evo(レヴォ)
富山県南砺市利賀村大勘場田島100
Tel./0763-68-2115
料金/料金/食事:ディナー22,000円、朝食3,850円、宿泊:1室1泊44,000円~ ※2022年9月現在
https://levo.toyama.jp/

【SOWER】近江の自然・風土と世界一のレストランのDNAを受け継ぐ作り手との出会い。

壁面の青い信楽焼のタイルが印象的なオープンキッチン。Photo:Max Houtzager

「ロテル・デュ・ラク」は、琵琶湖の北側の約4万坪の敷地に建つ、客室数15の小さなホテルだ。そのレストラン「SOWER(ソウアー)」で腕を振るうのは、コールマン・グリフィン。かの「ノーマ」とパートナーシップを結び、ミシュラン2つ星を獲得しながらも、昨年惜しまつつ閉店した東京・飯田橋の「イヌア」で副料理長を務めた人物だ。新しい店のオープンにあたって、こだわったのは、この土地の食材を掘り下げ、伝統食の鮒ずしや漬物、味噌、日本酒などの発酵食品をはじめとする近江の食文化を伝えていくことだ。

鮎で作ったガルムを塗りながらふわっと炭火で焼き上げた「琵琶湖の鮎の炭火焼」。Photo:Max Houtzager

琵琶湖産の天然の鮎、近江牛や近江海老などの地産の食材に、庭に咲いた桜や裏山の朴葉(ほうば)など、森の恵みを加え、さらに、いしる、水キムチ、自然発酵のサワードゥなど、発酵のエッセンスを絡めた皿は、ノーマのDNAを受け継ぐシェフが、近江の風土、文化と出合ったことによって生まれたイノベーティブな料理だ。

空間・アートディレクションを担当したのは、プロダクトからインテリアまで、幅広い分野で世界的に活躍するデザイナーの柳原照弘。信楽焼の陶板、安曇川の土など、地元の建築素材を使った空間が、食事の時間をさらに豊かにしてくれる。

SOWER(ソウアー)
滋賀県長浜市西浅井町大浦2064 ロテル・デュ・ラク内
料金/食事のみ:16,500円~、宿泊(ロテル・デュ・ラク):1人1泊(2食付・2名1室)38,500円~ ※2022年9月現在
https://restaurantsower.com/
https://www.lhotel-du-lac.com/

【オーベルジュ オーフ】地域に根差した食を追求する若きシェフの挑戦。

ダイニングルームのアートは、フェンディとのコラボが話題になった小川貴一郎の作品。

小松市観音下町(かながそまち)は、金沢や山中温泉、山城温泉などの空の玄関口、小松空港から車で30分ほどの静かな田舎町だ。その町で4年前に廃校になった小学校を改修し、2022年7月「オーベルジュ オーフ」が誕生した。店名は、この土地の自然や食文化を支える清らかな水(eau)と、外から火(feu)を灯すことで、新しい価値を生み出すことを意味する。

石のプレートに、素揚げしたサワガニ、木の芽のドーナッツ、冬瓜で作ったカエルなど。自然の息吹を感じさせる一皿だ。

シェフの糸井章太は、日本最大級の料理人コンペティションRED U-35で、史上最年少でグランプリを受賞した気鋭の料理人。50年以上もミシュラン3つ星を取り続けた仏アルザスのオーベルジュ・ド・リルを皮切りに、ブルゴーニュの1つ星「レストラン・グルーズ」やカリフォルニアの3つ星「フレンチ・ランドリー」など、世界に名立たるレストランで学んだ経験を持つ。北陸の豊かな食材を、世界を知る若きシェフが、ここでしか味わえないクリエイティブな料理に変えていくのだ。

教室、図書館、音楽室などを改修した客室は、学校だったことを忘れさせるスタイリッシュなデザインだが、当時のままのシルエットと素材、そして窓の外に広がる田園風景が、なんともノスタルジックな気持ちにさせてくれる。

オーベルジュ オーフ
石川県小松市観音下町口48
Tel./0761-41-7080
料金/食事のみ:16,500円~、宿泊:1人1泊(2食付・2名1室)26,400円~ ※2022年9月現在 
https://eaufeu.jp/

Text: Yuka Kumano Editor: Saori Asaka