BEAUTY / WELLNESS

「食べ物は薬のような効果がある」──ダイエットではなく、メンタルヘルスのための食生活をしてみて分かったこと

痩せるためではなく、心の健康に焦点を当てた食生活へと切り替えるとどうなるのか? 長い間、不安定な精神状態を抱えてきたUK版『VOGUE』のビューティー&ウェルネス・エディター、ハナ・コーツが自身の体験をシェアしてくれた。
Photo: Peter Dazeley/Getty Images

私が学校できちんと学んでおきたかったことのトップ3は、税金の仕組み、フランス語、それから心と体に栄養を与える方法。2017年には、不安や強迫性障害から躁鬱病まで、世界中で7億9200万人がメンタルヘルスに関わる問題を抱えていると推定されていることから、特に後者の重要性は計り知れない。

私は長い間、気分の落ち込みや不安、低い自尊心など、不安定な精神状態を抱えてきたため、いつ自分のメンタルヘルスが悪化してもおかしくない窮地にあった。特に疲れきっていたり、きちんとセルフケアをしていないと、壊れてしまう自分が容易に想像できてしまうほどだった。適度な運動が精神的な不調を抑えるのに役立つのは知っていたが、食事にまで目を向けられていなかったと気づいたのは、つい最近のこと。

専門家は口を揃えて、「食べ物は薬だ」と言う。このメッセージは、さまざまなウェルビーイングポッドキャストなどでも聞くようになったが、それでも私は食生活の改善に取り組むことをおろそかにしていた。今思えば、食べることは私にとってストレス発散のひとつであり、治らない傷に繰り返し貼っていた絆創膏のようなものだったのかもしれない。

食習慣は精神状態と連動して変動していて、その逆もまた然り。なんとか改善しようと試みたが、どうしてもいつも逆戻りしてしまう。その根底にあったのは、長年付き合ってきた心の拠り所との関係を変えたくないという気持ちだったと思う。

食べ物がネガティブな感情の“引き金”に

そうして不健康な食生活を送っていると、いつしか体重の増加、不快感、そしてコントロール不能な感情に圧倒されるようになっていた。そこで私は、自分と食の関係を再構築するために、栄養士で自然療法士、そしてサプリメーカーArtahの創設者であるリアン・スティーブンソンにコンタクトを取ることに決めた。私が何を食べ、どのように感じているか、エネルギーレベル、体重、腸の健康状態、性欲、肌の状態などについてビデオコールで話し合った後、彼女は私の不健康な食生活の原因は気分転換とストレス対処にあると指摘。食事と運動がうまく作用するように、「不安の“引き金”となる食べ物をいくつか取り除くこと。ビタミンやミネラルを含んでいて、気分や神経伝達物質の生成のバランスをとるのに役立つ食品に置き換えてみましょう」と教えてくれた。その“引き金”となるは、砂糖、過剰なグルテンや乳製品、アルコール、超加工食品などで、私がよく食べていたものばかりだった。

「砂糖は身体的な健康にも悪影響を及ぼすだけでなく、不安、うつ、認知機能の低下、集中力の欠如、気分の起伏の原因になることがわかっています」とスティーブンソン。一方で、イライラ、不安、ぼんやり、うつなどの気分の落ち込みは、グルテンと関係していると言う 。気分の浮き沈みなどの症状がある人には、グルテンや砂糖断ちの期間を設けることを勧めており、「体が発するサインに勝るものはない」とスティーブンソンは強調する。

砂糖のない世界へ

Photo: malerapaso/Getty Images

私は彼女の指導のもと、砂糖、でんぷん、炭水化物を多く含む食事を1カ月ほど抜くことになった。大好きなパンと赤ワインに別れを告げるのには苦労したが、断食週間を含む4週間のプログラムは、良質の野菜とタンパク質がいかに美味しく、そして満腹になれるかという事実に目を向けさせてくれた。砂糖のない世界で生きている私の味覚は、トマトの甘さ、ズッキーニの歯ごたえ、そしてサーモンの風味に感動を覚えたくらいだ。

このプログラムが順風満帆だったといえば嘘になる。最初の1週間は頭痛と倦怠感に悩まされ、次の糖質制限に体が慣れるまで、2週間目は悲しみとしか言いようのない時期が続いた。食生活と心の健康がいかに密接に関係しているか、そして砂糖たっぷりの食べ物で自己治療しない場合に何が起こるかを理解し始めた私は、ほとんど毎日泣いていた。

それはやがて落ち着いたものの、自分自身のケアをすること、そして自分自身を尊重することの本当の意味を再確認するための治療期間となった。人生のさまざまな側面を見直したり、自分の身体と心、そしてそれらが伝えていることに耳を傾けられるようになっただけでなく、ここ数年来で最もパワーが漲り、自分の運命は自分が担っていることを感じられた瞬間だった。さらに、エネルギーレベルが高められたことによって、運動しても力が湧いてくるようになり、気分も安定し始めたのだ。

「6kgほど体重を落としたことを気にも留めなかった」

このプロセスのすべてが、心と身体のつながりを思い出させてくれる、価値のあるものだった。栄養価の高い完全食を体に摂り入れると、気分がよくなり、逆に、砂糖やアルコール、グルテンを摂りすぎると、その逆になってしまうということ。このことを意識するようになってから、ストレスや不満を感じているときにチョコレートなどの甘いものに手を伸ばすことが減った。一貫性のある体系的な食事は、多忙なライフスタイルの中で自分を支える軸となり、体調不良のときには頼りにもなった。それから、自分の体重よりメンタルヘルスにフォーカスしていたため、6kgほど痩せたことを気に留めなかったくらいだ。

普段の食事が不快な症状を引き起こしている場合、特定の食品を断つことは決して戒めではなく、直感的なセルフケアへの一歩だとスティーブンソンは言う。「食べ物とネガティブな症状に関連性を見つけたのなら、それを無視することはできません。そこから毎日食するものを見直すと、ポジティブな食習慣が定着していきます。このようなステップを踏むことで、より着実に、よい健康状態を築くことができるのです」

“私”に合った食事のバランス

Photo: Halfdark/Getty Images

それから数カ月。私は全く別人になったわけではない。以前と変わらず食べることが好きだし、レストランでの豪華なディナーも愛しているけれど、日々の食事ではスティーブンソンのアドバイスの多くに従っている。グルテンと砂糖は90%避け、アルコールは週1回。食事はArtahのデジタルミールキット(曜日ごとにヘルシーなレシピを提供してくれるオンラインプラットフォーム)とミールプランナーなどノートを使って計画する。この管理方法は退屈に聞こえるかもしれないが、私の日々の食事を健康的でバランスの取れたものにしてくれたし、フードロスの削減にも繋がっている。その上、私の預金残高にも良い変化が見られるようになった。

お金とフランス語についてはまだまだ勉強中だけれど、少なくともヘルシーな食習慣をマスターするための軌道には乗れたと断言できる。

Text: Hannah Coates Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK