グレイヘアがポジティブ・エイジングの入口
白髪を生かした素敵なグレイヘアでレッドカーペットを闊歩するセレブリティが注目され、日本でもブームを経て、ここ数年ようやくグレイヘアが前向きに受け入れられるようになってきた。「日本と違い、さまざまな髪色が存在する欧米人にとって、髪の色は漆黒ではないのが当たり前。私は仕事柄、感覚的に髪が白いから高齢者という思い込みがなかったのかもしれません。むしろハイトーンで明るい髪色の方が動きのあるスタイルをつくりやすく、顔立ちも綺麗に見えることを知っていました」と話すのは、1960年代から国内外のファッションショーのバックステージや広告などでヘア&メイクを担い、現在はトータルビューティサロンKAWABE LABを主宰している川邉サチコさん。
「ある程度歳を重ねていくと、黒すぎる髪は肌とのコントラストが強すぎて、余計に顔が老けた印象に。グレイヘアの方が顔のシワやくすみが目立ちにくく、意外とマッチしているんですよ」と続けて話してくれたのは、一緒に川邉さんのサロンを運営している娘の美木ちがやさん。お二人は母娘の美容家ユニットとして、女性の外見だけではなく、内面の美しさを引き出すサポートをし続けている。すでにお手本にしたいグレイヘアを実践している川邉さんと美木さんに、グレイヘアを育むために必要な覚悟と準備を聞いた。
ファッションと同じようにグレイヘアをこなす
「グレイヘアにすると、おしゃれやメイクの幅も広がります」と川邉さん。「もう10年も前になるのかしら、60歳以上の女性のファッションスナップを集めた写真集『Advanced Style―ニューヨークで見つけた上級者のおしゃれスナップ』が出版されてヒットしましたよね。それくらいから中高年の女性が目覚めた気がします。グレイヘアもそのおしゃれのひとつ」と、ファッションと絡めてエイジングをポジティブに捉える人が増えている実感があるという。
白髪で隠すという考え方を捨てる
川邉さん自身は7、8年前に白髪染めをやめて、70代になってからグレイヘアを楽しんでいる。きっかけは美木さんに言われた“イケてないよ”という一言。当時、川邉さんが白髪を隠すために無理に染めている気がして、もう少し別の見せ方はないものかと思わず意見してしまったそうだ。川邉さんは「ドキッとしましたが、白髪をのばすことで自分がどう変わるのか試してみようと思った」と一念発起。しばらくすると、染めていた部分と白髪の境目が目立つようになったけれど、半年間あきらめることなくのばし続け、全体がほぼ白髪に。「ただ100%白髪にはならず、もみあげ近辺と後頭部の下は地毛のまま。白髪の白もイメージとは違ったので、いろいろと試しましたが、今はブルーを混ぜたブロンドカラーを入れています」
変わる先のイメージをしっかり持つ
色のニュアンスも、出現するパーツも、白髪の生え方は人それぞれ。ヘアスタイルにもよるが、移行期間は約半年から1年半はかかるという。「自身が持っている髪質を生かしてデザインするのがいちばん。のびるまで他人の目も気になるし、精神的にも我慢が必要ですが、ヘアスタイリングやウィッグで工夫したり、ヘアバンドや帽子などの小物を使ったりと、めげることなくその過程を楽しみながらグレイヘアをモノにしてほしい」と川邊さん。そのときにセルフイメージをしっかり持つことが重要。変わった先にある、かっこいいグレイヘアをイメージして、移行過程でも一度で成功しようと思わず、トライ&エラーを恐れないことが大事だ。
美木さんは生えてくる白髪とそれを隠すヘアカラーのイタチごっこに疲れ、白髪を生かすヘアスタイルを試行錯誤。黒髪にも挑戦したが、クセ毛で毛量が多いので似合わなかったそう。「今は白髪に合わせてハイライトを入れ、目の色の茶色に合わせたブラウン系カラーに落ち着いています。試しては失敗するを積み重ねて、、納得のいく新しい自分を探す冒険が必要かもしれません」と美木さん。
健康的な髪と頭皮をキープしてこそのグレイヘア
「艶やかで健康な髪を育ててこそグレイヘアが映えるというもの。顔のスキンケアは毎日ちゃんとしているのに、髪や頭皮のケアをおろそかにしていませんか?」と川邉さん。顔と同じように、髪と頭皮ももっと大切にしてほしいと話す。「良いシャンプーを選んで、正しく洗い、朝晩のブラッシングや頭皮のマッサージを行う。これを続けるだけで、髪の艶やボリュームが変わってくるはず」
シャンプーとトリートメントは自分の髪質と頭皮に合うものをセレクトすればOK。頭皮をしっかり洗ってよくすすぐ。その後はしっかりドライヤーして頭皮を乾かす。「頭皮が生乾きだと毛根に雑菌が繁殖して、育毛を妨げ薄毛の原因にもなります」。髪や頭皮の状態が悪くても、慈しむように手をかけることで、必ず健康的な状態に生まれ変わるとアドバイス。頭皮を軽くマッサージするときには、育毛剤などエイジングケアを意識したトリートメント剤を取り入れるのも手。
マッサージ効果絶大のクッションブラシ
「毎日のヘアケアで手を抜かないでほしいのは、ブラッシング」と川邉さん。ブラッシングは、髪の絡まりを取り除いて、ヘアスタイルを整えるだけではなく、頭皮を刺激して血行を促す役割もある。「長い間愛用しているのは、フランスの老舗ブラシブランド、イジニス(ISINIS)。なかでもクッションブラシは頭皮にやさしく、マッサージ効果も絶大。リーズナブルなナイロン毛はお手入れも簡単だけれど、イノシシなどの天然毛はなじみもよく、髪に艶が出てまとまりやすくしてくれます」
グレイヘアのスタイリングに欠かせない艶出しオイル
「グレイヘアで大事なのは艶と清潔感。特に艶がないと余計に老けた印象に見えます」と川邉さん。「ヘアオイルは軽やかなサラサラの質感で、白髪に色素が入らない無色透明なものを選びましょう」。加齢とともに髪は細くコシがなくなっていくので、スタイリングはふんわり感が大切と続ける。「オイルは地肌を避けて毛先を中心につけ、ふわっとスタイリングすることで、ハリのないくすんだ顔に陰影をプラスし、大人の女性を演出できます」
話を聞いたのは……
川邉サチコ
トータルビューティークリエーター。女子美術大学卒業後パリで修行し、ヘア&メイクアップの世界へ。60年代から国内外のコレクションをはじめ、映画や広告制作の現場で活躍。現在は、ヘア&メイクやファッションのアドバイスにとどまらず、女性の心と向き合い、美しさを引き出すトータルビューティサロンKAWABE LABを主宰。www.sachikokawabe.com
美木ちがや
トータルビューティーデザイナー。KAWABE LABでは、ヘアメイクからファッションにいたるまで、一人ひとりに寄り添う美を提案。ヘアメイクアップ・アーティストとして雑誌やカタログ広告で活躍するほか、ジュエリーやコスメなどの商品開発を行うなどマルチに活動。
Editor: Manami Ren, Rieko Kosai