環境問題に対して、「どこから手をつけたらいいかわからない」という人がハマる落とし穴に「私たち一人ひとりにできること」がありますが、温暖化は個人の行動を変えただけでは止められません。マイボトルやマイバッグもいいけど、みんなで社会の仕組みを変えませんか?と提示しているのがこの本です。注目すべきは、ジェンダー平等を果たして、女性が生きたいように生きられれば、再エネに匹敵する排出量を削減できるとされていること。「多様な私たち」が協力し合えば、より健康で豊かな未来が見えてくることを教えてくれる1冊です。
「SDGsは『大衆のアヘン』である」。ショッキングな一文にガツンと引き込まれます。資本主義一択で暮らしてきた人にとって、「脱成長コミュニズム」といった言葉は抵抗を感じるものかもしれません。でも、気候変動を加速させている強欲な資本主義を続ければ、いつか地球は住める場所ではなくなってしまいます。所有する豊かさから、シェアする豊かさへ。所有するために嫌な仕事をしてお金を稼ぐのではなく、やりたいことを仕事にできる社会へ。安定した気候と搾取のない社会は、豊かさのバージョンアップから。そう思わせてくれる1冊です。
気候変動の「最悪のシナリオ」という言葉を聞いたことはありますか? この本は、最悪のシナリオに沿って起こる可能性のある気象現象や気象災害が、私たちの生活にどんな影響を与えるかを想像させてくれる、お化け屋敷のような1冊です。そしてもうすでに(特に今年は)、この本の中のお化けが飛び出してきています。心臓が悪い人は読まない方がいいかもしれません。でも、ピンチになればなるほどやる気が湧いてくるタイプの人にはお勧めです。気候変動を止めるには、社会の根本を変える必要があります。そのために重要なのは、やる気です。
専門家間で合意に達している科学に論争があるように見せかけるのに、反証は必要ない。エセ専門家が「疑念がある」「合意に達していない」と言えばいい。たばこ訴訟から酸性雨、DDT、オゾンホールと、同じ顔ぶれの反主流専門家とシンクタンクが規制を遅らせるために編み出した戦術は、今も気候変動やプラスチックなどの環境問題において、化石燃料産業や大企業に「グリーンウォッシュ」として受け継がれています。科学者によって積み上げられた知見をもとに行われるはずの規制を、根拠の伴わない言説で先延ばしさせてきた歴史を学べる2冊です。
IPCC報告書は、いわば気候科学界のオールスターによる「気候変動の科学的知見完全ガイドブック」です。IPCCに加盟している約200カ国すべての政府が一言一句まで合意しなければ完成しない政策決定者向け要約は、毎年開催される気候変動国際会議(COP)の議論で用いられる世界共通の科学的知見と言えます。名だたる気候科学者も疑問があったらまずこれで確認する、というIPCC報告書。推理小説よりも難解かもしれませんが、気候変動の科学の世界を覗いてみたい方にお勧めです。無料で気候変動の科学を学んでみませんか?
ライター
テキサスA&M大学で気候変動をメインに環境学学士と地球科学修士を取得。気候変動に関する日本語の情報が少なかったため、英語で発信される情報を日本語で伝える「気候変動の向こう側」(http://beyondclimate.org/)のブログとTwitterを開設。「気候変動を日常会話に」をテーマに、ポッドキャストでも発信中。現在、アメリカ・テキサス州ダラス在住。
書籍写真・長尾大吾