新型C-HRにトヨタのデザインに対する“本気”を見た!

フルモデルチェンジしたトヨタの新型「C-HR」を見た今尾直樹は、何を感じたか?
新型CHRにトヨタのデザインに対する“本気”を見た!

“洗練”された2代目

6月26日、予告通り、トヨタ・ヨーロッパのメディア向けサイトで新型C-HRがワールドデビューを飾った。そのデザインは予想通り2022年12月に発表されたコンセプトカー「C-HRプロローグ」に忠実だったわけだけれど、むしろその忠実ぶりに筆者はたまげた。

直截に申し上げてカッコいい。コンセプトカーと量産車とで異なるのはドアの枚数だけである。Cセグメントの量産小型車で、よくぞここまでフラッシュサーフェイス化を徹底したものだ。

新型にもGRスポーツが設定される。

トヨタのリリースによると、「C-HRのイノベーターとしての成功は、ヨーロッパにおけるトヨタに対する一般の認識を変革し、ブランドに強いエモーショナルな側面を加えた。顧客の反応は大きく、半数以上がスタイリングを主な購入理由としてあげている」という。

トヨタ・ヨーロッパで最も好調な販売台数を誇った初代C-HRのデザインを2代目が踏襲するのは当然である。初代と2代目との違いはなにかといえば、ご覧のように“洗練”ということになる。

初代はプリウスのプラットフォームに無理やりSFチックなボディを載せていた感があった。面も線も、ま、それが狙いだったわけだけれど、表現が大胆だった。デザインのためのデザインだから機能の裏付けが感じられない。

ブラックを各所に使った大胆なカラーリングも用意。

だから、筆者にはウルトラ警備隊のポインター号、より正確には『ガメラ2 レギオン襲来』に出てくる小型レギオン、銀色のカブトムシの大きいヤツみたいに見えてしまって、なんだかなぁ……と、内心思っていた。

それが今度のはどうでしょう。初代より凹凸を控えめにしたことで、自動車らしく見える。新型プリウスに続く、スーパーカールックの第2弾のクロスオーバーSUVクーペとして説得力がある。

プロポーションもさることながら、面と線が整理されている。凸凹を控えめにした、というのはそのことで、初代のようにダイヤモンドというモチーフをボディのサイドのプレスではなくて、シルエット全体で表現している。だから、初代C-HRとは、おそらく専門的にいうとデザイン手法としてはぜんぜん違うのに、C-HRの新型だと一目瞭然、すぐにわかるのである。

プラグイン・ハイブリッドも設定される。

おほん。正直、「おそらく専門的にいうと」というのは筆者のハッタリでありまして、なんせ私、デザインの専門家ではないので、ではないのかなぁ。という推測である。機会があったらトヨタのデザイナー氏にうかがってみたい。引き続き、以下は「ではないかなぁ」という筆者の推測である。

ブラックの大胆な使い方に注目!

新型プリウスもそうだけれど、こういうフラッシュ・サーフェイス・デザインは、より精緻な量産技術を必要とする。 “ヨーロッパ戦略車”のC-HRは、少なくともヨーロッパ向けはヨーロッパで生産される。ということは、ヨーロッパのひとたちも「ニンベンのついた自働化」というトヨタ生産方式に取り組んでおられるのである。「もっといいクルマをつくろうよ」というマントラがヨーロッパの工場にも浸透しつつあることの証左かもしれない。

新型C-HRのデザインで特徴的なブラックの大胆な使い方についても指摘しておきたい。

大型のインフォテインメント用モニターが目をひくインパネまわり。

画像で見る限り、角度によっては新型もフロントのノーズが意外と分厚そうである。スーパーカーというのはノーズがとんがっているからカッコいいわけで、それはやっぱりエンジンがドライバーの後ろにあるからできることなわけである。

新型C-HRはもちろん現行プリウスとプラットフォームを同じくしているだろうから、エンジンとモーターはフロントにある。だから、分厚くて当たり前なのだ。それなのに視覚的に分厚く感じさせないのは、フロントのグリルとバンパーの下のほうを真っ黒に塗り、さらにリアクオーターを斜めに真っ黒けにすることで注意をそっちにそらしているからだと思われる。

メーターはフルデジタル。

おまけに、リヤのサイドウィンドウが小さいことまで、それと気づかせない。

これは、とりわけ私たちニッポン人は文楽とか歌舞伎の影響で、黒子という約束事を知っているからではあるまいか。舞台の黒装束のひとは、いるけど、いないことになっている。それと同様、新型C-HRの黒い部分はないものである。脳がそういう指令を送っている。フロント下部とリヤ後半はカットされ、20インチという思い切ったサイズのホイールがより強い存在を放って、より強い印象を与えているのだ。

GRスポーツ専用デザインのステアリング。

C-HRはヨーロッパでデザインされているのだから黒子説は眉唾ですけれど、たとえば1970年代のフェラーリ「365GT4/BB(ベルリネッタ・ボクサー)」ではボディの下半分を真っ黒にすることで、シャープに見せていた。

そういえば、1980年代半ばのメルセデス・ベンツで用いられた、サッコプレートと呼ばれる樹脂パネルでボディの下半分を覆う手法もあった。あれはボディと同色だったから、あくまで余談でした。でも、同様の効果はあったと思う。最近では先代プジョー「308GTi」という前例がある。

最近のトヨタの充実ぶり

中身は先代がそうだったようにプリウスのクロスオーバーSUV版で、パワートレインの構成も日本仕様のプリウスと同じだ。すなわち、2.0のPHEV(プラグイン・ハイブリッド)を頂点に、2.0と1.8とHEV(ハイブリッド)があり、基本的にはFWDで、2.0にのみ後輪をモーターで動かす4WDがある。

トヨタ・ヨーロッパの発表によると、新型C-HRは、エンジニアリングもヨーロッパで行われている。ヨーロッパ向けのサスペンションチューニングが施されているのだ。そのまま日本に持ってきてもよさそうに思える。

もうひとつ、新型C-HRの驚きは、コンセプトカーを半年前に発表して市場の反応をうかがい、それからそのコンセプトカーとほぼおなじデザインの量産車を初公開したことだ。

ヨーロッパでは初公開と同時にネットでの受注が始まっている。第1弾として「GRスポーツ・プレミエール・エディション」という、GRスタイルのGメッシュパターンのグリルとGRのバッジをつけたスペシャル・エディションが用意されている。

そうかぁ。トヨタはル・マンで勝つつもりだったのだ。ポルシェの横槍が入らなければ、それは達成されていた。

筆者の驚きというのは、まずコンセプトカー、ついで量産車、そしてモータースポーツでの勝利、その勝利のスパイスを加えたスペシャル・エディション……というニューモデルの一連のセールスプロモーションである。

こういうことはちょっと前の日本のメーカーはやっていなかった。たぶん、できなかったのである。まるでヨーロッパのメーカーみたいな成熟を思わせるビジネス手法。最近のトヨタの充実ぶりはこんなところにもあらわれている。

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文・今尾直樹 編集・稲垣邦康(GQ)