メンタルがやられがちな5月、どうかお気をつけください。今月は新刊以外も含め4冊ご紹介します。
躁鬱人による躁鬱人のための本
作家、建築家、音楽家など幅広く活動する坂口恭平さんの最新刊。双極性障害(この本では躁鬱病と記載)の当事者=「躁鬱人」である坂口さん自身が読んでラクになったという『神田橋語録』(精神科医の神田橋條治さんの口述記録。インターネットで閲覧可)をテキストとして、躁鬱病との付き合い方を経験を交えながらレクチャーする。
「躁鬱人」でなくても、元気が出ない時、気分のムラに疲れる時、人づきあいに悩む時はある。坂口さんの等身大のアドバイスは、「非躁鬱人」にも元気をくれる。
●一緒に読みたいおすすめ本
坂口恭平『自分の薬をつくる』(晶文社、2020)
口は悪いが役に立つ
こちらは、第1版の上梓から16年というロングセラーの専門書だ。看護師や保健師など現場の援助者向けに書かれた本だが、あまり教科書的ではなく読みやすい。なぜなら、著者は作家としても活躍する春日武彦さんだから。全面改稿を施し、この度第3版が刊行された。
当事者向けの本を手に取る機会の方が多かったので、“援助者”の視点が知りたくて読んでみた。実例やパターン別の対応策が豊富で、読むたびに援助者の大変さを思い知らされた。援助者だって人だもの。仕事とはいえ、毒づくことだって当然あるだろう。春日さんの「口は悪いが役に立つ」ドライな物言いは、援助者たちの心を軽くするのではないだろうか(当事者にはあまりすすめない)。
●一緒に読みたいおすすめ本
春日武彦『鬱屈精神科医、占いにすがる』(太田出版、2015)
心の病気を「わかる」とは
こちらは2019年刊行の本だが、ぜひ紹介したい。精神科医であり、フランスの精神分析家ジャック・ラカンの精神分析を研究する松本卓也さんが、心の病気を「わかる」ための手がかりを提示する。
この本がいいなぁと思うのは、「病気の人に対する偏見や差別をなくし、暮らしやすい世界をつくるには」という問いが通底しているところ。つい目先の対処法ばかりを検索してしまうけれど、究極的に大切なのは、やはりそれだよなぁと心底思う。「そのためには共感だけではだめで、歴史を学び知識をつけよう」という著者の言葉も、とても心に響く。
●一緒に読みたいおすすめ本
なし
ささやかな効果を積み重ねる
こちらも新刊ではないが(2020年刊)、実践的な本なので紹介したい。本書は、著者の伊藤絵美さんがカウンセリング歴30年の経験を活かし、ストレスマネジメント、コーピング、マインドフルネス、スキーマ療法などの理論をもとにしたセルフケアを伝授するワークブック。2021年3月時点で8刷と、とても売れている。イラストを担当したのは『ツレがうつになりまして。』の細川貂々さん。
「まずは苦しいと言葉にしてみよう」「何かをギューっと抱きしめよう」など、各ワークは非常に簡単なものばかり。伊藤さんは「ささやかな効果が積み重なることで、回復は確かなものになる」という。急がず、ゆっくりと自分をいたわってほしいと思う。
●一緒に読みたいおすすめ本
伊藤絵美『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』(医学書院、2017)
PROFILE
編集者。本屋plateau books選書担当・ときどき店番。
本屋plateau books(プラトーブックス)
建築事務所「東京建築PLUS」が週末のみ営む本屋。70年代から精肉店として使われていた空間を自らリノベーションし、2019年3月にオープン。ドリップコーヒーを味わいながら、本を読むことができる。
所在地:東京都文京区白山5-1-15 ラークヒルズ文京白山2階(都営三田線白山駅 A1出口より徒歩5分)
営業日:金・土・日・祝祭日 12:00-18:00
WEB:https://plateau-books.com/
SNS:@plateau_books