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中国は日本と同様の問題に直面、違いは「バランスシート不況」の知識

  • リチャード・クー氏のバランスシート不況理論、債務問題で脚光
  • 中国は長期の成長低迷を回避するため新たな財政刺激策を-クー氏

野村総合研究所のチーフエコノミスト、リチャード・クー氏はかつて、不動産市場崩壊と当局のまずい対応が日本経済に及ぼした長期のダメージを説明するために「バランスシート不況」という概念を生み出した。民間部門の過剰債務が長期的に成長の足かせとなるという理論だ。

  同氏は今日、中国が直面する問題の解決法を一部から求められている。高負債を抱え減速する中国経済の成長軌道を巡る懸念が高まるにつれ、同氏の理論があらためて注目されている。

  クー氏はポッドキャスト「オッド・ロッツ」のインタビューに答えて語った。

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  クー氏の見方では、現在の中国はバブル崩壊後の日本と同様の問題に直面している。中国企業は債務残高を圧縮するために借り入れを手控え、それが経済の成長軌道を脅かしている。

  クー氏は債務圧縮に関し、「個別企業のレベルでは正しい選択だ」が、皆が同時にそれをすると合成の誤謬(ごびゅう)の問題が生じるとし、「国家経済においては誰かが節約して借金を返すなら、経済を回すために他の誰かがその金を使わなければならない」と説明した。

  2008年に出版された著書「The Holy Grail of Macroeconomics: Lessons from Japan’s Great Recession」で国際的な評価を得たクー氏はその中で、世界金融危機後に先進国・地域が尚早な緊縮財政政策のために長期の低成長に陥ると予言した。負債を抱えた家計や企業は、どれほど金利が低くなっても貯蓄を優先すると指摘。民間部門のレバレッジ縮小を相殺するために政府が支出を増やす必要があると論じた。

  中国について同氏は、長期の成長低迷を回避するために一連の新たな財政刺激策を打ち出すことを推奨。中国経済の中で非常に大きな割合を占める不動産セクターを標的とすべきだと論じた。住宅価格急落と輸出減少、若年層の高失業率、デフォルト(債務不履行)増加への懸念で中国経済は失速しつつある。

Bubble Years | China is as levered as Japan was prior to its 'lost decade'
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  クー氏は「中国政府が参入して、約束された全ての物件が実際に完成されるように建設会社を助けることを私は推奨する。それが財政支出の最も効果的な使い方だと思う」と語った。住宅の代金や前金を支払った人は非常に不安に感じているためだと説明した。

  クー氏の考えは中国で真剣に取り上げられているもようだ。国家金融・発展実験室(NIFD)の劉磊上級研究員は先週、政府が景気刺激策を講じ、潜在的なバランスシート不況から脱するべきだと論じた。また、著名経済誌の「財新」は最近、クー氏のバランスシート不況理論をカバーストーリーに取り上げた。

  「中国で経済学に関する博士論文の半分程度がバランスシート不況に関する私の著作に基づいているとある教授に言われた」と語るクー氏は、それが本当かどうかは分からないが、「中国政府がバランスシート不況という『疾病』の存在を知り、彼らはその対処法を知っているはずだと示唆する話だ」と述べた。

  この認識が、1990年代の日本と現在の中国の決定的な違いだとクー氏は指摘。これは理論的には、日本銀行が景気刺激のために金利を引き下げてもほとんど効果がなく、失われた数十年に陥った日本の政策の誤りの一部を中国が回避するのに役立つはずだ。今日の中国は投資に慎重な民間部門に代わり財政支出を積み上げるべきだと同氏は主張する。

  「中国と日本の状況にも大きな違いがある。それは中国当局が既にバランスシート不況というものを十分に認識している点だ。30年余り前にこれが日本で起こっていた時には私を含め誰もバランスシート不況について何も知らなかった。経済学の教科書には載っていなかったからだ」とクー氏は語った。

  しかし問題を複雑にしているのは中国の債務の巨大な規模と経済全体の将来的な発展の在り方だ。クー氏によれば、建設は中国の国内総生産(GDP)の約26%を占める。日本のバブル期の場合、この割合は20%前後だった。また、中国は製造業と不動産への依存を減らすことを望んでおり、不動産開発会社やその他の大企業への大規模支援はこの政策を後戻りさせることにならないか疑問が生じる。

  また、トランプ前米大統領の下で始まった中国と米国の貿易摩擦の大半はバイデン大統領の下でもおおむね続いており、中国経済に根本的な危機をもたらしていると考えられる兆候がある。

  クー氏は「中国企業は2016年から借り入れを減らし始めていた。従ってバランスシート不況はバブルがはじけるはるかに前に始まっていたことになる。その原因を知りたい」と述べ、「企業が借り入れを行わない理由が米国との新たな貿易問題だったならば、中国経済にとってはるかに深刻な問題だ」と話した。

原題:Richard Koo Is Getting Famous in China as Debt Problems Grow(抜粋)

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