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半導体パニックで世界から秋波、王者TSMCに難題-向こう数年が鍵

  • 大半を台湾で生産するTSMCに欧米などから政治的働き掛け強まる
  • アップルとの協業経たTSMC、スマートフォン半導体でも優位に

台湾積体電路製造(TSMC)の張忠謀(モリス・チャン)創業者は今年4月のイベントで、シリコンバレー創生期に立ち会っていた時代を振り返った。ゴードン・ムーア、ロバート・ノイス両氏がインテルを始める10年前の1958年に参加した業界会議でのことだ。3人は終日セッションに加わり、夕食時はビールを酌み交わし、大声で歌いながらホテルに戻ったという。「神が味方してくれていると感じた」そうだ。

  インテルはシリコンバレーの代表的企業となったが、近年は不振で、現在祝福されているのはTSMCのようだ。全く新しいビジネスモデルを早くから採用し、今では最先端半導体の製造で世界をリードしている。同社の半導体は自動車から戦闘機に至るあらゆる製品に使われ、スマートフォン分野でも優位に立つ。時価総額はインテルの2倍余りだ。

  TSMCは生産の大半を台湾で行い、台湾もこれを維持したい。しかし、世界的な半導体不足が政治という微妙な問題をTSMCに突き付けた。昨年後半以降、米国や欧州、日本、韓国の当局者はそれぞれ自国に有利な供給を求めて台湾に働き掛けている。同時に米国と中国は国外サプライヤーへの依存を減らそうと国内生産に投資する計画を進め、今月5日には欧州連合(EU)の欧州委員会も先端半導体を設計・製造する能力増強のための計画を示した。

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Global Semiconductor Sales

By geographic area, 2019

Data: Boston Consulting Group

  TSMCは4月、生産能力増強に1000億ドル(約10兆9700億円)を投じる3カ年計画を発表。供給を巡る顧客懸念がこれで和らぐ可能性はあるが、政治が絡む問題や大型投資を進めるインテルや韓国のサムスン電子との競争に対応できなければ、TSMCの優位が脅かされる恐れもある。向こう数年は同社にとって、張氏が2018年に会長を退いてから、そして恐らく1987年の創業以降で最も重要な時期となる。

  TSMCは台湾と密接に結び付いている。中国生まれの張氏は、米国のハイテク企業を経営するチャンスを決して得られないと考えると、85年に台湾に渡った。小さな会社の会長になり、政府研究機関の仕事を引き受けた。台湾のハイテク産業育成政策もあり、TSMC創業を決めた。

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張忠謀(モリス・チャン)氏

写真家:I-Hwa Cheng / Bloomberg

  インテルなどは顧客向けに半導体の設計と製造の両方を担っていたが、張氏は「ピュアプレーファウンドリー」というビジネスモデルを開拓。自社で設計したいが「ファウンドリー」や「ファブ」と呼ばれる大型投資必須の製造施設は持ちたくないという顧客向けに半導体を生産するという複雑な任務を請け負った。

  初期のTSMCはNECや米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などから受注した小さな仕事をこなしていた。だが成長するにつれ、最先端の半導体を生産できる能力を備え、極めて安定した歩留まりと信頼できる納期で知られるようになった。製造と設計の分離はまた、半導体設計企業が業界で直面する障壁を低くし、米国のクアルコムエヌビディアなどの躍進を後押しした。

アップル

  TSMCにとって本当に大きなチャンスは2010年にやって来た。張氏は米アップルのジェフ・ウィリアムズ氏を自宅に招き、家庭料理でもてなした。同氏はその後アップル最高経営責任者(CEO)となるティム・クック氏が全商品の世界事業を統括するのを手助けしていた。アップルは「iPhone(アイフォーン)」と「iPad(アイパッド)」のカスタム半導体製造でTSMCと交渉しており、その夕食会で合意に至ったとウィリアムズ氏はTSMCの年次パーティーで明かしている。

  両社にとってリスクのある契約だった。アップルは当時「番外」と見なされていた会社に半導体生産を託したことになる。TSMCには90億ドルの初期投資のほか、従業員6000人をアップル専用工場建設に11カ月間専念させることを意味した。しかも半導体生産開始までに数年かかった。賭けは成功。アップルは世界を席巻し、TSMCは半導体業界の要となり、さらに洗練された半導体を製造する能力を高めている。

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台南のサイエンスパークにあるTSMC施設工事現場

 

  一方でインテルはスマートフォン半導体市場でTSMCの好敵手になれず、むしろ高性能のコンピューター市場でインテルの顧客はTSMCに引き付けられるようになった。経済産業省商務情報政策局の西川和見・情報産業課長は世界中の半導体ユーザーがTSMCが最先端ロジックチップの半分以上を製造していることを知っていると指摘し、サムスンは追い付こうと取り組んでいるが、TSMCが一段と優勢になりつつあると語った。

  ただしインテルとサムスンの生産拠点はTSMCより分散しており、この違いはサプライチェーン混乱で半導体不足に見舞われた各国・地域から政治的圧力が強まる状況下、両社が強みとして生かせる可能性はある。

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  TSMCは今年、米アリゾナ州で120億ドル規模の半導体工場建設を始める。生産は24年開始予定でさらなる拡張も視野に入る。しかし、欧米が探っているような規模で生産拠点を変えることには後ろ向きの姿勢も示唆している。張氏は最近、米国で最先端の生産を増やすロジックに疑問を呈したほか、劉徳音会長も今月上旬に米CBSの番組で、半導体不足はファウンドリーの地理上の位置が原因ではないと発言した。

原題:TSMC Is Stuck in the Middle of a Global Panic Over Chip Supply(抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
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