ロエベ(LOEWE)の招待状は、巨大なボックスだった。開けると、一輪のアンスリウムの花が入っている。これが何を意味するのか、不思議に思いながらショーへ向かうと、会場の真っ白な空間にも巨大なアンスリウムのオブジェがそびえ立っていた。この花がコレクションの鍵になるようだ。オブジェの前で記念撮影をする人々を見ながら思いを巡らせていると、やがてショーが始まった。
トップを飾ったのは、映画『WAVES/ウェイブス』(2019)で注目を浴びた女優のテイラー・ラッセル。ルカ・グァダニーノ監督の新作『Bones And All』(アメリカで来月公開予定)でティモシー・シャラメと共演し話題となっている。
ファーストルックのシューズを皮切りに、アンスリウムのモチーフが繰り返し登場した。クリエイティブ ディレクターのジョナサン・アンダーソンは、この花が「まるで作り物のように見える自然物」であることに惹かれたという。削ぎ落としてすっきりとさせることもポイントになったようで、シルエットの他、ドレスはより短く、ジャケットはコンパクトになっている。また、コンピュータに障害が起こった時を思わせるグラフィックも。
「障害」は、服づくりにおいても表現され、ドレープは硬直し、スタンダードなアイテムがねじられたり、パッド加工が施されたり極端に引き伸ばされたりして変形している。
今季は誇張して盛る、というよりは、静かに、すっきりとさせていく方向。身近なスタンダードアイテムを用いていることから、「障害」が起こっていても、完全な非日常、というわけではない。アンスリウムのように、少し違和感がある、といったところを目指したのではないだろうか。
ここ1年のものづくりはとくに、コロナ禍やウクライナ危機などによる不穏な世の中だからこそ生まれる不条理な表現のように見えていたが、コレクションを象徴するファーストルックを将来有望な若手女優に託したことからも、前向きに未来を捉えようとする姿勢もうかがえる。ロエベが新たなフェーズに入ったように感じたのだった。
Photos: Daniele Oberrauch / Gorunway.com Text: Itoi Kuriyama