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暗闇から花々へ。ドリス ヴァン ノッテンが突き詰める、真のオプティミズム。【2023年春夏 パリコレ速報】

9月28日(現地時間)に発表されたドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)の2023年春夏コレクション。隅々まで計算し尽くしたデザインとショー構成によって、眩いばかりのパターンに包まれたクライマックスを演出した。
Photo: Armando Grillo / Gorunway.com

「オプティミズム(楽観主義)」をテーマにしたコレクションは山ほどあるが、大抵は悲観的になりがちであったりもする。あまりに幅広く、形のないテーマであるため、その捉えどころのない本質を服の中に落とし込むのは不可能に近いのかもしれない。ただしそれは、ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)を除いては、の話だ。

2年半ぶりとなったウィメンズウェアの2023年春夏コレクションは、真の楽観主義を反映するだけでなく、それを掻き立てるものになった。厳密に構成されたこのショーでは、ファッションへの倦怠感を洗い流すかのような64のルックが披露されると、会場には割れんばかりの拍手喝采が起こった。

哲学的な美を追求した、シュプレマティズムの要素。

Photo: Armando Grillo / Gorunway.com

吸い込まれそうな暗闇が広がる会場では、スマホの光だけが打ちっぱなしのコンクリートを照らしていた。ショーが幕を開けると、黒一色で統一されたルックが次々と登場。ヴァン・ノッテンはロシアの画家、カジミール・マレーヴィチが1915年に発表した『黒の正方形』を意識したという。彼が標榜したシュプレマティズム(絶対主義)は、描写対象を描くという制約から解き放ち、純粋な創造を可能にしたものだ。

Photo: Armando Grillo / Gorunway.com
Photo: Armando Grillo / Gorunway.com

メッシュのテクニカル素材を用いたオーバーサイズジャケットは、フロントをゴールドのピンで留めることによって立体感を演出。テーラリングでは、精巧に施されたダーツが静かにその存在感を放った。絵画から意味を排除し、哲学的な美の追求によって生まれたマレーヴィチの作品のように、厳格なオールブラックのルールを強いることで質感、構造、シルエット、ディテールのすべてに至るまで、高度にデザインされたルックが出来上がった。

漆黒から甘美なペールカラーへ。

Photo: Armando Grillo / Gorunway.com

ショーの中盤になると、漆黒から甘美なペールトーンへとシフト。ブラウスやスカートドレスは繊細なラッフルやプリーツによってデコラティブに飾られていた。時折ワインレッドやモスグリーン、そしてブラックで濃淡をつけつつ、マクラメレースやシワ加工を施した生地でフレッシュなアクセントをプラス。見る人を飽きさせない、細部への徹底したこだわりを見せた。

Photo: Armando Grillo / Gorunway.com
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豊かな色彩の中に映えたのが、アートオブジェのようなアクセサリーたち。揺らめくフリンジをあしらったバッグや、美しく重ねられたラッフルと彫刻的なヒールが目を引くミュール、ガラスのステートメントジュエリーなどが登場した。

艶めかしく咲き乱れる花々に導かれて。

Photo: Armando Grillo / Gorunway.com
Photo: Armando Grillo / Gorunway.com
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アーカイブデザインを再構築したフローラルパターンは美しくぶつかり合う。春の花柄といったありふれたアイデアでさえも、ヴァン・ノッテンの手にかかれば着たい、撮りたい、買いたい、といった私たちの欲求を刺激するのだ。この眩いばかりの模様で彩られたクライマックスと、それに至るまでのプロセスを噛み締めると、このコレクションの本当の意味が見えてくる。改めてデザイナーに今季のテーマを聞くと、「オプティミズム」と真っ直ぐな答えが返ってきた。「だって、人生は本当に美しいものでもあるんです。色もあれば、花もあるんだから」

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Text: Luke Leitch Adaptation: Motoko Fujita
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