なぜトヨタはヴェルファイアを見捨てなかったのか?──“走り屋”のためのミニバン、復活へ!

フルモデルチェンジしたトヨタの新型「ヴェルファイア」は、姉妹車である「アルファード」と明確な差別化が図られた。近年、販売台数が低迷していたヴェルファイアに対し、メーカーが力をいれたワケとは? 今尾直樹が考えた!
なぜトヨタはヴェルファイアを見捨てなかったのか?──“走り屋”のためのミニバン、復活へ!

ヴェルファイアの低迷

新型アルファード/ヴェルファイアで話題のひとつは、ヴェルファイアの個性化である。これまでのアル/ヴェルで異なるのはフロントグリルだけみたいなもので、動力性能はおなじだった。

ところが、新型ではヴェルファイア専用の足まわりと、専用の2.4リッター直4ターボが与えられ、アルファードのスポーティバージョンというキャラクターを明確にしている。

ヴェルファイアの価格帯は655万円~892万円。

ヴェルファイアを特別扱いする理由はなんなのか?

というと、先代でアルファードが圧倒的人気を集め、ヴェルファイアの影が限りなく薄くなっていたことがある。ヴェルファイアは廃止……。そう、トヨタ社内でも囁かれていたらしい。

自販連が発表している「乗用車ブランド通称名別順位」で確認すると、2022年のアルファードの販売台数は、モデル末期だというのに6万225台で第10位。ヴェルファイアの名前は50位までのリストには見当たらない。なので、何台売れたのか、簡単にはわからない。

2.4L直列4気筒ターボエンジンを専用設定。従来型の3.5L V6エンジンに対して低速度域のトルクを増大し、くわえてアクセルペダルをショートストローク化した。

アルファードの2代目が登場した時に、その姉妹車としてデビューした初代ヴェルファイアは、狙いが打倒日産「エルグランド」であるのが一目瞭然のデザインで、実情はよく知りませんが、若者たちの絶大な支持を得て大成功を収めた。恐るべしはトヨタのマーケティング力である。

2015年1月に発売となった先代アルファード/ヴェルファイアでも、2018年まではヴェルファイアが4万6399台、アルファードが4万2281台と、拮抗しつつもヴェルファイアのほうが売れていた。ところが、その翌2019年は、アルファード6万8705台、ヴェルファイア3万6649台と、はっきり差が付き、この年からアルファードの快進撃が始まる(自販連販売データより)。

インテリアでは「おもてなし」をテーマにした装備類を開発・採用した。

この理由が筆者にはよくわからない。あの鎧みたいなアルファードのグリルがよくて、あの「トランスフォーマー」のオプティマスプライムみたいなヴェルファイアのグリルがダメなのはなぜなのか? アルファード、最高。って、ロックスターとかがいったのでしょうか? それともアルファードのグリルはコミック『風の谷のナウシカ』に出てくる王蟲みたいでカワイイ、ってことでしょうか?

前段で数字を並べたのは、ヴェルファイアは売れていた。という事実を確認するためである。先代でも、少数派のヴェルファイアを選んだのはこだわりのあるひとたちで、その30%は30歳以下の若者たちだったという。

一時は5万台も売れた実績があって、若者たちに人気があるブランドを廃止にするのは惜しい。と、豊田章男さんが考えるのも当然だ。単なる足し算ですけれど、2018年のアルファード/ヴェルファイアは合計9万台弱、2019年は計10万台を超えている。2022年はモデル末期とはいえ、アルファードのみで6万台も売れている。もしもヴェルファイアがもうちょっと健闘してくれていたら……。

やっぱりトヨタはスゴい

そこで新型アルファード/ヴェルファイアの開発陣が考えた復活作戦が、冒頭記したヴェルファイアの個性化だった。位置づけとして、単純なスポーティモデルというより、ロールス・ロイスのブラックバッジみたいに、アルファードのダークネスバージョンというか、内外装をちょっとワルい雰囲気に仕立てているところがいま風といえる。

エライのは実際の動力性能も差別化している点で、ヴェルファイアには専用のサスペンションセッティングが施してある。実際にどれくらい違うのか? に、ついては未試乗の筆者には不明ながら、アルファードのホイールは17、もしくは18インチなのに、ヴェルファイアは19インチを標準装着する。タイヤの扁平率は60対55だし、ヴェルファイアのほうが硬いことは想像に難くない。

ラジエターサポートとサイドメンバーを繋ぐヴェルファイア専用のボディ剛性部品を追加した。

ヴェルファイア専用の2.4リッター直4ターボは、レクサス「NX」とトヨタ「クラウン」にも搭載されている、トヨタの最新ユニット、ダイナミックフォースエンジンの仲間で、最高出力279psと430Nmもの最大トルクを誇る。“走り屋”のためのミニバン。というカテゴリーがあるわけですね。

かたやアルファードのガソリン車は先代から継承した2.5リッター直4自然吸気で、これはこれでなかなかよく走るだろうとは思うものの、182psと235Nmだから、ヴェルファイアとは大きな差がつけられている。

それもあって、新型ヴェルファイアは655万円から、という高級車になっている。アルファードは540万円からで、2台並んでいるから、どっちも同じ高級ミニバンだと思っちゃうけれど、じつはヴェルファイアのほうが100万円以上も高い。もちろんこの価格差は、ヴェルファイアのオーナーの自尊心をくすぐることにもなるだろう。

デザインキーワードは「Forceful×IMPACT LUXURY」。

トヨタがヴェルファイアを廃止するどころか、力を入れてきた理由が書いている私にも納得である。ヴェルファイアを廃止すれば、入ってくるお金はゼロ。続ければ、いちばん安いモデルでも655万円もする高級車が、過去の実績からすると年間3万台以上売れる可能性がある。てことは、655万円×3万台=1905億円。どっちを選びますか?

ちなみに2022年に3万台売れたトヨタのクルマは、「RAV4」、「プリウス」、「パッソ」、「ハリアー」といったところで、パッソは120万円ぐらいから、あとの3台は300万円ぐらいから始まっている。おまけに、ヴェルファイアはアルファードの双子車だから、ボディ外板とかはほぼ同じ。開発費なんていうのは、これら4台と較べたらタダみたいなものである。

インパネ上部には大型モニターを設置。

3列シートを継承。

新型ヴェルファイア復活に賭けるトヨタの意気込みの大きさが理解していただけたと思う。やっぱりトヨタはスゴい。ちなみに筆者は、あくまで予想というか、カンですけれど、こう思う。1年後、アルファードにも2.4リッター直4ターボモデルが追加される。

アルファードにも2.4のダイナミックフォースエンジンを搭載したら、ヴェルファイアとの差別化ができなくなるではないか。という声もあるでしょう。でも、アルファードはビジネス用。ヴェルファイアはパーソナル用。最初にガツンと強い印象を与えることに成功すれば、あとはウヤムヤになっても大丈夫。思い込ませることが大事なのだ。

なんでアルファードには2.4ターボがないの? という声がトヨタにはすでに届いているのではあるまいか。

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文・今尾直樹 編集・稲垣邦康(GQ)