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シスジェンダーが前提? 日常会話にトイレ問題etc. トランスジェンダー女性が経験した移行期の苦悩。【アンコンシャスバイアスを探せ!】

自分の中の常識やアンコンシャスバイアス(=無意識の偏見)が、誰かにとっての生きづらさ生んでいるかも知れない。日常に潜むこうした偏見を可視化する連載第24弾は、27歳のトランスジェンダー女性が直面してきた、周囲の認識不足が引き起こす生きづらさについて考える。

Illustration: Sheina Szlamka

幼稚園の頃から、男の子が好む乗り物や戦隊もののキャラクターに興味がなく、親にセーラームーンのコスプレセットをねだるような子どもだった。思春期に入り、恋愛対象が男性だと気づいてからは、自分はゲイなのかな?と思っていた。しかしその後、はるな愛や佐藤かよといったトランスジェンダーのタレントが登場し、自分もトランスジェンダーなのだと確信した。

中高一貫の男子校に進学したが、当時は社会的にもLGBTQへの理解が進んでいなかったこともあり、特に学校や友人に対して自身のセクシュアリティを話すことはなかった。周囲は私がトランスジェンダーであることを知らないのだから仕方がないのかもしれないが、同級生の間でヘテロセクシュアルであることを前提に会話が進んでいくと、いつも言葉に窮した。「好みの女性のタイプは?」などと聞かれて適当にかわしていると、「性欲はないのか」「男が好きなのか」と詮索されて嫌な気持ちになった。偏見の目で見られたり、差別されるかもしれないと怖かったし、当時は友情が壊れることを恐れ、「憧れの女性」を答えるようにした。

多目的トイレは救済の場。

Photo: 123RF

しかし、それ以上に学校生活での差し迫った問題は、自分が入れるトイレがないことだった。男子校ゆえ、生徒が使えるのは男子トイレのみ。中学生の頃、小便器は使いたくないため個室を使っていると、同級生からよくからかわれた。教員用の女性トイレはあったが、トランスジェンダーの自認はあっても周囲に堂々と「自分は女性」と言う自信がなく、女性トイレには入れなかった。結局、教室からかなり離れたところに1つだけあった多目的トイレを利用していた。

とりわけ10代から20代にかけては、友達に冷やかされたくない気持ちが強かった。心は女性でも、完全に女性ではない外見のまま女性として行動することに対する世間の目を意識せざるを得なかった。

大学生になり、ホルモン治療を始めた頃から、より女性らしい雰囲気をまとえてきたと自分でも感じていたが、やはり心理的抵抗から、大学でも出先でも、多目的トイレしか使えなかった。死活問題だったのは、商業施設や駅に多目的トイレが設置されていないケースだ。私のようなトランスジェンダーに限らず、セクシュアリティなどの理由で男性トイレにも女性トイレにも入りづらい人は多いと聞く。そういう人にとって多目的トイレは、唯一安心して入れる救済の場とさえ言えるだろう。名称を「多目的」ではなく「障害者トイレ」にしようという意見もあるようだが、どうかそうしないでほしいと願っている。個人的には、LGBTQや身体に障がいのある人、あるいは子ども連れの人だけでなく、誰もが入りやすいトイレが増えればいいのではないかと思っている。

ただ皮膚科を受診したいだけなのに。

昨年6月、NYのロックフェラープラザではプライド月間を祝してレインボーフラッグが掲げられた。Photo: Lev Radin / Pacific Press / LightRocket via Getty Images

身分を証明しなければいけないときも厄介だ。現在は、完全に女性として生活しているが、名前は改名していない。運転免許証などの写真付き身分証がない私は、役所での手続きや自宅の賃貸契約の際に保険証を提示するのだが、そこに記載された私の名前と顔を交互に見やり、「これは本当にあなたですか?」と疑われることもしばしばだ。それは病院でも同じで、皮膚科や耳鼻科などにかかるたびに、たとえ身分証があっても自分が自分であることを証明しづらいなんて、いったいどうすればいいというのか。

私は今、理解のある友人や家族、職場に恵まれている。しかし、シスジェンダーを前提とした公共のシステムなど、トランスジェンダーの認知が行き渡っていないことから生まれる不便さが、今も社会の至るところにあることは否定できない。知らないでいることや誤解は、アンコンシャスバイアスの温床ともなり得る。だから私は、まず一個人としての声を上げ、誰かにとって理解を深めるきっかけになればと考えている。

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Text: Yoshiko Yamamoto Editor: Mina Oba