五輪開催、選手から批判 「安全」「公平性」に疑問
新型コロナウイルスの感染拡大によって開催が危ぶまれている東京五輪を巡って「主役」であるアスリートから疑問の声が上がり始めている。出場枠を決める予選の中止・延期が相次ぎ、練習すらままならない選手もいる。予定通りの開催を目指す国際オリンピック委員会(IOC)や日本政府などにとって無視できない逆風となる。
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19日の米ニューヨーク・タイムズ紙によると、IOCのトーマス・バッハ会長はインタビューに対し、現時点で開催可否などの判断を下すのは時期尚早との考えを改めて示す一方「もちろん違うシナリオは検討している」と述べた。中止については「議題にない」と強調した。
世界各国で移動や外出などが制限され、日常生活にも大きな支障が生じるなか、世界のアスリートも声を上げている。
陸上女子棒高跳びで五輪覇者のエカテリニ・ステファニディ(ギリシャ)は「IOCは私たちの健康を脅かしたいのか」と非難。ボートで五輪金4個のマシュー・ピンセント氏(英国)は自身のツイッターでバッハ会長を「鈍感で状況が読めていない」と断じた。
IOCによると、東京五輪の出場枠の43%はまだ確定していない。IOCと各競技の国際競技連盟(IF)は先日、未確定分については今後行う予選、世界ランキングや過去の大会結果などを適用して配分する方針を確認した。
バッハ会長は「全ての選手に公平な予選となるよう最善を尽くす」と語るが、選手らが納得できる公正性を担保できるかどうかは不透明だ。
練習さえ困難な選手もいる。USAトゥデー紙(電子版)によると、米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)は、コロラド州とニューヨーク州にある強化拠点を最低30日間は閉鎖することにした。
1988年ソウル五輪の女子柔道銅メダリストである日本オリンピック委員会(JOC)の山口香理事は19日、日本経済新聞の取材に対し「1カ月練習を休めば、取り返すのに3、4カ月以上かかる。既に選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できる状況にない」と指摘して延期を求めた。
20日に代表選手を発表した日本ボクシング連盟の内田貞信会長も、個人の見解として「しっかり予選を行い、(本番は)1年後くらいがベストではないか」と延期に理解を示した。ボクシングでは、欧米などの大陸予選のメドが立っていない。
IOCは、収入の9割をIFや各国の国内オリンピック委員会(NOC)、大会の組織委員会に分配している。一部の人気競技や先進国を除けば、大半のIFやNOCは財政的に余裕がなく、なかなか「お上」に物申せない構図がある。
だが、五輪に出場するような世界のトップアスリートたちは、ファンや社会に対して大きな発信力を持っている。アスリートからの疑問の声を放置すればIOCのイメージや五輪そのものの価値を損なってしまう可能性もあるため、IOCとしても敏感にならざるを得ない。