コンテンツにスキップする
Subscriber Only

半導体の国内回帰、関連企業にも-バルカーは08年以来の生産再開

更新日時
  • 半導体微細化に必要な薬液タンク、地政学リスクや品質で強味-社長
  • TSMCが国内に先端半導体工場、日本企業出資の「ラピダス」も
バルカーのライニングタンク
バルカーのライニングタンク Source: Valqua Ltd.

半導体製造で使う高純度薬液を保管するタンクを製造するバルカーが国内生産を再開することを決めた。半導体の国内生産強化の動きが相次ぐ中、同社のような関連機材メーカーにも国内回帰の流れが生じている。

  本坊吉博社長は7日のインタビューで、半導体産業が「地政学リスクの塊みたいな産業」になり、サプライチェーンを同一国内で完結させる必要性が出てきていることや、微細化に対応する純度の高い薬液や素材を集めるには「日本が最適地であるという発想が間違いなく背景にあると思う」と述べた。

  バルカーが愛知県田原市の新工場で生産するのは、ウエハーの洗浄工程で使われる過酸化水素や硫酸などの薬液を保存するライニングタンクだ。2023年7月に建設を始め、25年1月に生産を開始する。日本の半導体産業の衰退を受け、同社は08年に国内生産から撤退し、台湾や米国など海外で生産していた。

  日本政府は半導体の安定供給確保を経済安全保障上の重要課題に掲げている。台湾積体電路製造(TSMC)や米マイクロンが国内に建設する先端半導体工場に補助金を出すほか、トヨタ自動車ソニーグループなど有力日本企業が出資して次世代半導体の生産を目指す「ラピダス」も支援している。バルカーも経済産業省の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を活用するという。

  半導体工場では極めて高いクリーン度が要求される。同社製品はタンク内部に自社開発のふっ素樹脂シートを熟練工が手作業で貼り付けており、製造もクリーンな環境で行うことやナノレベルの異物も遮断することから、「世界一クリーンなタンク」が売りとなっているという。

  本坊氏は同社製品が「半導体の微細化に極めて必要な技術だと評価を受けるようになっている」と指摘。半導体の製造過程でタンクに不具合が出ればサプライチェーン全体の信頼性が損なわれるため、品質の高いタンクが必要とされているとし、「非常にいい感じのグローバルニッチポジションを押さえている」と述べた。

評価はまだまだ

  1927年創業のバルカーは、産業機器、エネルギー、自動車など多くの産業向けに工業用シールやフッ素樹脂加工製品を供給してきたが、近年では半導体関連の収益が高まり、売上高で約5割、営業利益は7-8割を占める。据え置きタイプのライニングタンクでは世界シェア約3割だという。

  同社は1月30日、今期(2023年3月期)の業績見通しを上方修正。その直後から同社の株価は急騰し、足元では年初から3割前後高い水準で推移している。20日の株価は日経平均株価が下落する中、一時前週末比2.1%高の3360円を付けた。

  本坊氏は来期の業績見通しについて、今年後半から半導体市場が回復すれば、今期と同等の水準は「達成できるかなと思っている」との認識を示した。創業100周年となる27年3月期には売上高800億円を目指す。

  いちよし経済研究所の大澤充周アナリストは、台湾のTSMCが使っているライニングタンクのほとんどはバルカーのものだと指摘。同社の価値はまだ市場で評価されていないが、株価も含め「まだまだ評価されていい」企業だと述べた。

 

関連記事:

(20日の株価を追加して記事を更新します)
    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE