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「 ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」で悪役ヨンジンを演じたイム・ジヨン──実力派俳優の凄みと素顔

Netflixでシーズン2の配信がスタートした大ヒットドラマ「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」。主演のソン・ヘギョに勝るとも劣らない演技で、 悪役としてドラマを牽引するヨンジンを演じるイム・ジヨンの知られざる素顔とは? 

パク・ヨンジンというアイコニックな悪役で世界に示した鮮烈な印象

Im Ji Yeon イム・ジヨン/Netflixで配信中のドラマ「ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」(2022年〜)で悪役パク・ヨンジンというハマり役を演じ、注目を浴びる。映画『情愛中毒』(2014)でデビュー以来、ドラマや映画で活躍する実力派俳優。出演作にはドラマ「上流社会」(2015)や「テバク〜運命の瞬間〜」(2016)、映画『スピリットウォーカー』(2021)など。

イム・ジヨンは確信していた。「ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」のパク・ヨンジンは、熱く愛される悪役になるだろうと。そして、デビュー13年目にして初挑戦する悪役をしっかりと演じこなせるはずだとも。脚本家キム・ウンスクの語感とストーリーテリング、ドラマ「秘密の森 〜深い闇の向こうに〜」「青春の記録」「ハピネス」を演出したアン・ギルホ監督の繊細な視点にも信頼を寄せていた。そして何よりも、試練の前に強くなる自分自身を信じていた。 

「最初に台本を読んだとき、『これほどの悪役はいただろうか?』 『私と同年代の俳優が演じた役の中にここまで凄まじい悪女は存在したか?』と考えてみたんです。いませんでした。俳優なら誰もが望む役だったと思います。うまくやり遂げられたならば、手にするのは栄光だけだと感じました」  イム・ジヨンは新たな挑戦を前にすると、心が躍るという。家族の反対を押し切り、“うまくやれそうな気がする”という直感だけを信じて演技の世界に飛び込んだ彼女は、商業映画デビュー作である『情愛中毒』(2014)で、美しく神秘的な俳優のイメージをスムーズに手にしたが、決してそれに縛られることはなかった。 「初めて知る俳優かのように、これは誰だろう……といつも首をひねりながら見てもらえたらうれしいです。『私のイメージはこうじゃない』と思ったことは一度もありません。何が自分と合い、何が合わないのかは、そこまで重要ではないんです」 

ドラマにハマっている視聴者には申し訳ないが、イム・ジヨンとパク・ヨンジンはまったく違う人物だ。しかし、真っ暗な夜、真っ黒な瞳で「これからが始まりです」とにっこり笑うイム・ジヨンの存在感に、一瞬混乱した。「どんどん強くなっていく」という事実だけは、イム・ジヨンとパク・ヨンジンのどちらにも当てはまっていたからだ。 

「挑戦を恐れないタイプです。 自分ならではのカラーを出すよりも、毎回別人のように見えることのほうがずっと重要です」

──悪役を演じるのは初めてだったという事実に、多くの視聴者が驚きました。「ザ・グローリー」のパク・ヨンジンをアイコニックな存在につくり上げた立役者として大活躍されましたね。

熱い反応をまだ実感できていないんです。もう次の作品の撮影に入っているので、あれこれ慌ただしくスケジュールをこなしていると、あっという間に毎日が過ぎていきます。評価をあまり気にしないタイプでもあるので。ただ、共演俳優のグループチャットルームでそれぞれの近況を報告し合うときや、「パート2は一体いつ放送されるの?」と知り合いに聞かれたときは、まだ愛されているんだなとうれしくなります。演技への称賛は、いつ聞いても心が満たされます。

──パク・ヨンジンを魅力的に演じるために、人知れず悩んだ部分はありますか?  

最初に撮影したのは、ソン・へギョさんと一発ずつビンタをし合うという、決して容易ではないシーンだったのですが、その撮影が終わったときに監督がおっしゃったんです。ヨンジンだけは簡単に動じたり音を上げたりしないでほしい、反応はするにしても屈しないでほしい、と。難しい注文のように聞こえましたが、一緒に悩みながらキャラクターをうまくつくり上げていくことができたと思います。個人的には、ドラマを盛り上げる悪役になりたいという欲もありました。役柄に生命力を吹き込むために、かんしゃくを起こしたりキレたりする場面、彼氏の前で愛嬌のある姿を見せる場面などでは、私自身が持つ一面やエネルギーも引き出せたと思います。 

──怒りや復讐心、嫉妬心、狂気など、悪役は一般的にタブー視されている感情を表現することができますよね。演じる喜びのようなものはありましたか? 

 ヨンジンは正しいことは正しい、違うことは違うといつもはっきり言いますよね。それが痛快だなと思うことが多かったです。ジェジュンに首を絞められて問い詰められたときも、怖じ気づくのではなく「目が充血したら出演できない!」とわめく、その本能的な正直さにとてもスカッとしました。 

──不良グループ5人を演じてケミストリーを起こしたパク・ソンフン、キム・ヒオラ、チャ・ジュヨン、キム・ゴヌとは、ドラマの中でも外でも親しく交流されていましたね。

はからずも、熱狂的視聴者たちの感情移入をサポートする結果になりました。  (キム・)ゴヌは韓国芸術総合学校(国内初の4年制国立芸術大学)の後輩で、(チャ・)ジュヨンとは同い年です。全員、同年代なので、自然なケミストリーが生まれました。ここまで親しい関係になれたのは、私の功績が大きいんです(笑)。監督にも感謝されました。ごはん行こう、遊ぼう、飲みに行こう! とみんなを誘って、ムードメーカーの役割をしっかり果たしました。(ソン・)へギョさんにも一緒にごはんを食べましょうと声をかけたり、あるときは女性だけで集まったり、最近では時間の合う俳優たちと春川(ルビ:チュンチョン)まで小旅行に行ってきました。この作品を通じて、大切なご縁が多く生まれました。

目立ちたがり屋で活発。でも、 不良ではなかった学生時代

──次作のドラマ「庭のある家」では、キム・テヒと奇妙な人間関係を繰り広げます。最近は、女性の俳優同士でシナジーを生み出す作品が続いていますね。  

デビュー以来ずっと男性の俳優との共演が多かったので、新鮮な面白さを感じているところです。「ザ・グローリー」でご一緒したへギョさんの熟練の演技を見て、後輩として、同じ俳優として感じたことや学んだことがたくさんありました。「ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え」で共演した(チョン・)ジョンソさんは、私とは違うタイプの俳優で、だからこそ受け取るエネルギーもありました。こうした作品での経験があったおかげで、(キム・)テヒさんとの共演もスムーズに進められた気がします。いつかは、女性同士の友情をじっくり描く作品にも出演してみたいです。 

──ほどよい品位が感じられる豊かな黒いウェーブヘアとカラフルな衣装、「ザ・グローリー」はイム・ジヨンが久しぶりに“しっかり”美しく登場する作品だと感じました。

派手ながら、優雅さがなくてはいけないと考えていました。ジェジュン、ミョンオ、ヘジョン、サラ……と、周囲の人物が全員キラキラしていますが、グループのリーダーであるヨンジンには別格の存在としての線引きが必要だと思い、高級感という答えを見つけたんです。トップクラスの人であれば、外見を飾り立てることはないはずだと考えました。むしろ、それによってさらに余裕があるように見えるでしょうし。

──ファッションアイテムについて、どんな点に特に気を遣いましたか?  

ブラックは避けました。彩度がとても低いものや無彩色の衣装も。暗く寂しくて重い人生との対比が一目でわかる形になればいいなと考えたんです。気象キャスターとして仕事をするときに着たイエローのトレンチコートや強烈なレッドドレスなど、さまざまなカラーに挑戦しました。実を言うと、私は衣装にそれほど関心がなくて、20代まではスタイリングの力を特に信じていなかったんです。でも、刑事役のために髪をバッサリ切ってアクションをして、血糊のメイクをしたときに、戦略的なスタイリングが役に入り込むために大きな助けになるということに気づきました。体の線が出る衣装を着て、ハイヒールを履けば、すんなりヨンジンになれました。 

 ──「校内暴力」というテーマを真正面から描いた復讐劇です。子役が登場するドラマの前半部には、直視できないほどのシーンもいくつかありました。視聴者の立場になってみて、心が痛む場面はありましたか?  

台本を読んで内容を知っているにもかかわらず、飛び降りる覚悟で屋上に上がったドンウンが、泣きながら傷だらけの体で雪の上に寝そべるシーンは、観るのがつらかったです。すごく大変な撮影だっただろうなとドンウンの少女時代を演じた子役への感謝の気持ちも芽生えて、なんだか奇妙な気分で視聴しました。

──実際の学生時代はどんな生徒でしたか?  

先頭に立って行動するタイプでしたが、決して不良ではありませんでした(笑)。いつも班長や盛り上げ役を買って出て、合唱大会で指揮者をやったこともあります。スポーツ好きで、目立ちたがり屋で、とても活発な生徒でした。

ドラマ「ザ・マンション」で乗り越えた壁

──「ペーパー・ハウス・コリア」パート2では、唯一原作にない人物である“ソウル”を演じてカリスマ性を発揮しました。イム・ジヨンという俳優の演技の幅が一気に広がった気がします。 

まだやりたいことがたくさんあります。挑戦を恐れないタイプです。自分ならではのカラーを出すよりも、毎回別人のように見えることのほうがずっと重要です。最近の悩みも、次の作品ではどんな新しい姿で現れようか、ということ。家族を描くスリラーの「庭のある家」では、ミステリアスで感情をぐっと押し殺して生きる人物を演じるのが楽しくて、もう一つの新作ドラマ「国民死刑投票」では4年前に「ウェルカム2ライフ〜君と描いた未来〜」で演じた刑事役とはまた違う姿をお見せできそうで、わくわくしています。 

──「ザ・グローリー」の脚本家のキム・ウンスクは、あなたのことを“天使の顔”と表現しました。デビュー以来ずっと「美しい」と言われ続けてきたと思いますが、今もその言葉を聞きたいですか?  

20代の頃はきれいに映らないことが怖かったりもしたのですが、ある瞬間「私が必ずしも美しくないといけないのだろうか?」という疑問を感じたんです。その言葉に縛られたくはありません。俳優は演技がうまければ美しく見えるだろうと思います。最近は、思っていたよりブサイクに映っても、以前はなかったシワや吹き出物が目立っても、特に気にしません。自分の持つ魅力を信じています。50代になっても60代になっても魅力的な女性を演じられると信じられるようになった自分がちょっと誇らしいです。

──実にポジティブなマインドですね。すぐにへこたれることはなさそうです。  

私はなかなかへこたれません。アハハ。 

──過去のインタビュー記事を読みましたが、昔から率直で堂々としていらっしゃいます。そんなあなたにも、思い通りにいかずに大変だった時期はありましたか?  

昨年(韓国で)放送されたドラマ「ザ・マンション」は、精神的につらい時期に出合った作品なので、とても意味のあるものでした。スランプというほどではなく、はっきりした原因があったわけでもないのですが、妙な自責の念にとらわれ、趣味も失い、気力も奪われていた時期でした。その頃は何を始めてもすぐにくじけてしまって。そんななか、「ザ・マンション」で初めてドラマを引っ張っていく立場になり、それを乗り越えたことによって俳優として確実に成長することができました。母の話では、私には思春期がなかったそうなので、一歩遅れてやってきた思春期だったのかもしれません。 

──どんな方法で苦難を乗り越えましたか?  

素直に認めました。身近な人たちにも正直にすべて打ち明けたんです。私には今やりたいこともないし、憂鬱なんだ、って。そして、仕事も恋愛も、友達付き合いも、ただ流れるままに任せました。

──運動もお好きだそうですが、無心で体を動かすことも気分転換になりますよね。  

その通りです!  そして、おいしいものを食べれば完璧です。私はわりと食いしん坊なんです(イム・ジヨンはインタビュー中ずっと、いちばん好きなお菓子だというグミを食べていた)。登山をするときは頂上、ジムではウエイトマシン、ゴルフのときはホール。運動をしていると、目の前の目標だけに集中することになるので、雑念が消えますね。 

──昨年、韓国芸術総合学校の親友と一緒に、バラエティ番組「親友と一度だけ行くなら」に出演されました。なくしたと思っていた黄色いスーツケースを見つけて涙ぐむ姿がかわいらしかったです。  

ものすごく久しぶりに飛行機に乗って、ものすごく久しぶりに海に行くことになりました。そんなわくわくする気持ちで出発したのに、私の荷物だけがなくなったんです。イライラしつつも、結局は荷物が見つかったので、ホッとしたとたん涙が出てきました。幸せな気分で旅をしました。イ・ユヨンさんとも会いたかったし、熾烈で美しい大学時代をともに過ごした友達と、時を経て一緒に旅ができたこともうれしかったです。

 「今の苦難を、約束されていない栄光のために 耐えるべきものだと考えたくはありません。 楽しく挑戦して、演じていきたい」

──身近な人々にこまめな気遣いをするタイプですか?  

義理堅い性格だと思いますし、自分のほうからよく連絡をします。一人で気ままに生きているように見られがちですが、身近な人に頼ることも多いです。母とは特に仲がよくて、いいことがあったらいちばんに話しますし、悩みを相談することも多いです。撮影現場でもざっくばらんですね。「どうすればあの先輩と親しくなれますかね?」「いつ心を開いていただけるんでしょうか!?」と積極的に近づいていきます。いつもストレートに臨みます。演技も、人付き合いも。 「一人でできることはないということを知りました」 

──キャリアを積み重ねる中で、俳優としていちばん大きく変わったことは?  

一人でできることはないということを知りました。自分の役柄が愛されたとしたら、それは共演した俳優が上手に引き立ててくれたおかげだと認めるようになりました。若い頃はこのシーンはこんなふうに見せなければならなくて、自分のキャラクターはこんなふうに見せたいという欲が先に立っていましたが、今は他のみんながうまくいけばこそ自分もうまくいくのだとわかります。監督およびスタッフ、俳優たちと協力すればするほど、いい演技ができるんです。 

──人生において、最も輝かしかった栄光の瞬間は?  

映画『情愛中毒』試写会の日、母が私に花束を渡しながら「本当にお疲れさま」と言ってくれたのですが、その日のことは一生忘れられないと思います。私が俳優になると言ったときは、すごく反対していたんです。母はあまり気持ちを表現するタイプではありませんが、その日、ぐっと抑え込んできたお互いの気持ちが一瞬にしてあふれ出しました。死ぬまで演技を続けようと改めて決心した瞬間でした。

──今後もそんな日が多くやってくるでしょうか?  

挫折と苦難の瞬間のほうがずっと多いと思います。挑戦を恐れないタイプだと先ほどお話ししましたが、私も揺れることはよくあります。わからないときはもどかしくて、思い通りに演じられない日は撮影現場ですごく苦しんでいます。でも、それもまた幸せなことだと確信しているので、へこたれることはなくなりました。今の苦難を、約束されていない栄光のために耐えるべきものだと考えたくはありません。楽しく挑戦して、演じていきたいです。

Photos: Songyi Yoon  Editor: Gayeong Ryu   Fashion Editor: Dahye Kim   Stylist: Unjin Jo   Hair: Jinhee   Makeup: Soye Lee   Translation: Reiko Fujita Adaptation: Yaka Matsumoto