前はショートなのに襟足が長い髪型、「マレットヘア」に惹かれる人が急増中!?

かつて欧米を中心に流行した、ウルフカットにも近い「マレットヘア」。ダサい言われることもあるこのヘアスタイルには、根強いファンが多いようで、何度も流行を繰り返している。英版『GQ』が、マレットヘアの魅力にハマった人たちの声を聞いてみた。
前はショートなのに襟足が長い髪型、「マレットヘア」に惹かれる人が急増中

最近、マレットヘアの人気の高まりを感じるが、どうやら気のせいではないようだ。2度目(いや、3度目? 4度目?)のマレットヘア再燃であり、マレットカットのセレブの記事もよく目にする。少なくともTikTokでは、マレットヘアを披露する若い男性が増えているのは確かだ。

80年代に最初のマレットヘア(ウルフカット)流行を経験した人は少々戸惑うかもしれないが、男性のパール使いやベスト、グルーミングケアの流行と並び、マレットヘアもセクシーでホットなものとして、今、受け入れられているのだ。もちろん、マレットヘアはビジネス向けでもないし、自分の父親にして欲しい髪型でもない。それでも、何度もカムバックするマレットヘアには独特の魅力がある。

ロンドンの人気バーバーRuffiansのシニアスタイリスト、ナタリー・アンゴールドは「キャリア15年のなかで、ここ2年が今まででいちばんマレットヘアのカット注文が多かったです」と語る。マレットヘアをオーダーするのはZ世代だけではない。「お客さんのなかには、最近子どもが生まれたという新米パパもいました。髪を後ろに流したスタイルで来店されて『いちばんパパっぽくない髪型にしてください』と。結果、最近流行りのマレットヘアになりました」

マレット再燃(再再燃?)には、ハッキリしたきっかけがあるわけではないようだ。ただ、アンゴールドは、コロナパンデミックによるロックダウンが影響しているのではないかという。「仕事やオフィス文化というものが大きく変わりました。(マレットヘアをオーダーする)男性の多くは『(世間の)システムなんて知るか!』という気持ちになっているんだと思います。ルールに縛られず、好きな服を着ていても許される雰囲気がある。これがマレットヘアが人気になっている理由なんだと思っています」。

そもそもマレットヘア自体、ヘアカットのルールに縛られていないという。「ヘアカットは繋がりや調和がとれてこそだと教わってきました。が、マレットヘアはまったく繋がりもなく調和のない長さで出来ているスタイルです。ルールを無視していますよね」

ポール・メスカルのマレットスタイル。

VALERIE MACON/Getty Images

マレットヘアには、自分だけに理解できるセクシーさという、ある意味、伝統への反抗心のようなものがあるのかもしれない。マレットヘアこそしていないが、ジェームズ・ディーンのスタイルは、当時、1950年代の広告ポスターの型にはまったような幸福とは真裏にあり、人々はそれに熱狂した。カート・コバーンとニルヴァーナの全盛期を見ると、長髪にスケートボード、オーバーサイズの服で80年代の流れには逆行しており、人々はまたそれに熱狂した。InstagramやTikTokで目がハートになった絵文字で彩られるポストは、現代のそれ、つまり王道の逆にある人々が熱狂するものなのだろう。

「マレットヘアの男性が大好きだけど、誰にも言ったことはありません」

ある女性(本人が匿名を希望するので、仮に「ミア」と呼ぶ)は、マレットヘアについてこう語る。「マレットヘアの男性が大好きです。でも、誰にも言ったことはありません」。ミアが意味するのは、マレットが好き=ジョークだと思われるということなのか、それともマレットヘアが彷彿させる若い少年たちのイメージから禁ずべきものと考えているのか……(ちなみに、ミアは30代前半)。

「(マレットヘアは)面白いのに、なんだかワルで、遊び人のような感じがするんですよね。マレットヘアの従兄弟が2人いますけど、2人とも職業が医者なんです。私としてはこのギャップになんか笑っちゃって……」。そう言う彼女は慌てた様子でこう訂正する。「もちろん、従兄弟2人とも遊び人ではないですよ! 誠実で立派な医師です」。ミアにとって、マレットヘアとは現実とは対照的な青春的アドレナリンを刺激する何かなのかもしれない。ミアいわく、ちょっとワルなくらいの雰囲気の男の子のほうが、明らかにワルで下品なことをしてしまう子よりもずっと魅力的なのだという。

ロンドンに在住する27歳のサリーは、マレットヘアのもつちょっと不良ぽいけど、じつはいい子、というイメージが好きなのだという。「マレットヘアは、自信にあふれ、トレンドにマッチしていて、楽しい子という印象。あと、ちょっと生意気かも」。確かに、マレットヘアのポール・メスカルはこのイメージに近い。

マレットヘアが抗えない魅力を持つとしても、そこには微妙なラインが存在している。クールなマレットか否かには、人それぞれのルールがあるのだ。たとえば、29歳のカラムがオーダーしたいと思っているマレットはこう。「80年代風の無秩序なマレットヘアは好きではないですね。クロスフィットをやっていて、アートインスタレーションを手がけるような男性のマレットヘアはありです」

30歳のルーシーにとっては、パーティーのネタやキャラ付けのためのマレットはNGだそう。「マレットが“その人のすべて”になっていない限り、受け付けません。ネタでマレットをしちゃうような人は面白くない。もし『あのマレットの人』と言われるようなら、髪型を変えて、趣味と個性を探すべきですね。あとは、マレットヘアを『前から見たらビジネス向け、後から見たらパーティー向け』といちどでも言ったことがある人は、そもそも話にもならないです」。マレットに関しては一切の妥協を許さないルーシーが惹かれるのは、カーティス・コナーのマレットヘア。「コナーがいい例だと思います。YouTube出身のコメディアンで、70年代風のマレットヘアがよく似合っています。でも、髪型以前に彼にはカリスマがあるし、顔もいいんですよね」

マレットヘアは、再燃するたびに反対派も声を挙げる。33歳、イングランド南西部コーウォール在住、政策アドバイザーを務めるエイミーは、マレットヘアの良さがまったく理解できないという。「とにかく私の好みとは違います。最近とてもよく目にしますけど。芸術大学があるファルマスあたりで流行っているみたいですね。あんまり長続きしないトレンドだと思って見ています」

ロンドン在住の32歳、ニーナはトレンドの賞味期限が気になるという。「恥も外聞もなくTikTokトレンドに左右されるタイプです。流行っているときは、フィードがマレットヘアの髪を振り乱す口髭つきのオーストラリア人男性で埋まっていましたから。ミーハーで新しいもの好きなんです。マレットヘアのトレンドがまだ続けばいいなと思いますが、ロンドン郊外のクラッパムでもマレットヘアの男性を目にするようになったので、終わりが近いのかもしれませんね」

“マレットヘアの聖地”オーストラリア

ここまで一般人のマレットヘアについて触れてきたが、マレットヘアについて調べていると、友人から有名人の写真が届いた。全英オープンを制したキャメロン・スミスだ。彼は、マレットヘアの聖地オーストラリア出身。どういう経緯でマレットヘアがオーストラリアで誕生したのか正確にはわからないが、おそらく島国ゆえに独自の進化を遂げたのだろう。

イギリスのバーティー文化とアメリカの開拓精神が融合し、オーストラリアはマレットヘアのような無秩序を生み出すのに肥えた土地となったのかもしれない。オーストラリアのニューサウスウェールズ州にあるクリー・クリーという街では、マレットフェスとというマレットヘアを祝うイベントが毎年開催される。

ラグビー選手、ジャイ・アローのマレットヘア。

Matt King/Getty Images

33歳のブレイスは、彼氏にマレットヘアを勧め続けているという。「芸術バカみたいに見えるからって、彼氏はマレットヘアを嫌がるんです。でも、そこが私はいいと思うんですよね」。電話取材でそう語るブレイス。「ラグビー選手と芸大生のミックスみたいで好きなんです。オーストラリアのマレットヘアのラグビー選手も大好きです」

リボンに大きめのフリルをつけたブラウスなど、メンズウェアが新たな進化を遂げる今、アーティスティックな自己表現こそ我々が求めるものだ。スタイルは常に拘束から解き放たれていく。そして、その様はじつにホットでセクシーなのだ。「私が男性のマレットヘアが好きなのは、たぶん、2010年代頃から男性のなかでも髪を伸ばす人がでてきて、それが個性として目に映ったからなのだと思います。普通とは逆をいく勇気がある人です」。そう語るのは26歳のメーガン。「(マレットヘアは)人を目立たせ、それが普通じゃない人たちのサインになっているのかもしれません」

From: British GQ Adapted by Soko


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