パリ・メンズ・ファッションウィークの初日、ルイ・ヴィトンのパリ本社の目の前のポンヌフで、ファレル・ウィリアムスは自身の初陣として、ファッションショーという枠にはとうてい収まりきらない一大エンターテインメントショーを披露した。ポンヌフは金色のダミエ柄のシートで覆われ、橋は当然のごとく通行止めになり、地下鉄7号線のポンヌフをも閉鎖。アフターパーティではJAY-Zの衰えを知らないラップがセーヌ川に響き渡った。
パリに通いはじめて10年になるが、ここまでスケールの大きいショーはちょっと記憶にない。
その壮大な一夜から3日後の6月23日(仏現地時間)、ファレルの盟友であるNigoは、4回目となるKENZOのショーを発表した。会場はポンヌフからおよそ3.5km離れた、同じセーヌ川にかかるドゥビリ橋。ポンヌフほどの知名度はないものの、1900年のパリ万国博覧会のために架けられた橋で、冷戦時代には東側のエージェントが秘密の会合を開く場所だったとも言われている。左前方にはエッフェル塔がそびえたち、パリっぽさを表現するならポンヌフ以上に素晴らしいシチュエーションと言える。
これまでNigoが手がけた3回のKENZOを総括すると、西洋と東洋の融合、80年代の華やかな東京、といったキーワードが挙げられる。でも、個人的にもっとも画期的だと思っているのは、パリのランウェイに“カワイイ”を持ち込んだことだ。これほどまでに軽やかで可愛らしいメンズウェアは、近年のパリには存在しなかった。今シーズンもその印象は大きく変わらないものの、これまでになかったエレガンスが加わっている。
ショーはデニムで幕を開けた。Nigoのデニムと聞いてアメリカン・ヘリテージを連想する人も多いと思うが、いつもとは少し趣が異なる。女子は抜染で薔薇の花を表現したコートとパンツを品よくまとい、男子のバギーデニムにはトラウザーのようなセンタークリースが入っている。
スーツはこれまでの“90sモード”なシングル3つボタンから変化し、80年代のバブル時代の日本を連想させる雰囲気。オレンジやイエローのリネンスーツのジャケットは、短めの着丈のシングル2つボタンで、パンツは5タックかつお尻側にもダーツが入る“ザ・DCブランド”なシルエットだ。手書き風のヘリンボーンのダブルブレストなんていう変わり種もある。そこにスケートシューズ風のスニーカーを合わせ、タイドアップを軽やかに着崩している。
和洋折衷という点では、青海波(せいがいは)と呼ばれる古代の波模様をインディゴでアレンジしたワークジャケットとフーディが目をひいた。様々なバリエーションで見せた柔道着風のジャケットは、もはやNigoのKENZOのシグネチャーになりつつあると言えるだろう。そうしたジャケットの背中や胸元には、Verdyが手掛けた「Kenzo Paris」のスワッシュ・フォントのロゴが入る。両者はアトリエを共にする関係なのでコラボレーションとは言えないかもしれないけれど、NigoのKENZOにおいては初の協業作品となった。