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カルト的人気を誇る『032c』。新たなアートコミュニティの魅力を探る

日本でもカルト的な人気を誇る、ベルリン発のマガジン・アパレルライン『032c』。K−POPアイドルが着用したことで韓国でも人気に火がつき、先日、新たにファッションディレクターとして著名インフルエンサーを迎えたことでも話題を集めている。ベルリンでは先日、グループ展を開催。カルチャーとアート、ファッションをつなぐクリエイターを迎え、アート展覧会というプラットフォームで『032c』が発信する、新たなアートコミュニティとは?

K-POPスターも魅了。『032c』が形成する特異なコミュニティ

2000年にベルリンで創刊されたコンテンポラリー・カルチャーマガジン『032c』は瞬く間に世界に広がった。仕掛け人はクリエイティブ・ディレクターのヨルグ・コッホ。年2回ペースで発行される同誌は、ラフ シモンズ(RAF SIMONS)ヘルムート ラング(HELMUT LANG)コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)シュプリーム(SUPREME)をはじめとする、熱烈なファンをもつブランドをフィチャーしたり、ユルゲン・テラーニック・ナイトイネス・ヴァン・ラムスウィールド&ヴィノード・マタディンといった著名フォトグラファーらを起用。また、コリエ・ショアが撮影したベラ・ハディッドの官能的なショットや水原希子カバーガールになったことでも話題となった。

日本におけるカルト的人気の背景には、2015年にスタートしたアパレルラインがある。ジル サンダー(JIL SANDER)プラダ(PRADA)で経験を積んだマリア・コッホがヘッドデザイナーに就任し、「032c Apparel」、「032c RTW」、ウィメンズのプレタポルテ「PARTY GIRL」を展開。2018年にロンドンで初めてのコレクションを発表したのち、現在はパリ・メンズ・ファッションウィークにて最新コレクションを発表している。これまでに、ゴーシャ ラブチンスキー(GOSHA RUBCHINSKIY)、ステューシー、アディダス(ADIDAS)などとのコラボレーションを発表し、最近ではアンダーウェアブランドのスロギーと異色のタッグを組んだ。

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ムーブメントと呼べるほど旋風を巻き起こした『032c』人気も一旦落ち着いたように思えたが、日本に続いて韓国での人気が爆発し、BTSのJINやIVEウォニョンなど、K-POPスターが着用していることで、一層ソーシャルメディアを賑わせている。

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ファッションインフルエンサーを新たなファッション・ディレクターに起用

そんな『032c』がまた新たな動きを見せている。以前より親交のあった、コラムニスタでインフルエンサーのブレンダ・ヴァイシャーをファッション・エディターに起用。ブレンダは現在14万人を超えるフォロワーをもち、リック オウエンス(RICK OWENS)アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)ヘルムート ラング(HELMUT LANG)などのヴィンテージコレクターとして知られる。自身のワードローブと着用画像をソーシャルメディアに投稿しているうちに問い合わせが殺到し、フォロワーに向けてコレクションを販売したことをきっかけに、ヴィンテージオンラインストア「DISRUPTIVE BERLIN」を立ち上げている。

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気鋭アーティストを集めたグループ展。『032c』のプラットフォームのひとつに

032cコレクションに身を包んだキュレーターのクレア(左)と、シェリー(右)。「POP IS TERROR」のメッセージは故ミシェル・マジェルスの作品。Michel Majerus, Ohne Titel 590, 2000, Acrylic on cotton, 60 x 60 cm, © Michel Majerus Estate, 2022. Private Collection. Courtesy neugerriemschneider, Berlin

最先端のカルチャーをベースとした強力なファッションコミュニティをもつ『032c』だが、2019年夏にシャルロッテンブルクに移転したフラッグシップショップ「032c WORKSHOP」では、今年2月にグループエキシビジョン「DEVILS ON HORSEBACK」を開催した。

キュレーションを担当したのは、『032c』のエディターでもあるクレア・コロン・エラットとシェリー・リー・ライヒの若きふたり。ともにファッションとアート、ふたつのジャンルを交差させるプロジェクトを手掛けている。

“DEVILS ON HORSEBACK” 展示風景 より

同展では、ブランドを象徴するアイコニックな「PANTONE Red 032c」の真っ赤な空間に、彼女たちが敬愛するアーティストとアップカミングな気鋭アーティストを織り交ぜた8組のアーカイブ作品11点を展示。写真、絵画、オブジェ、映像など、それぞれフォーマットもテイストも違う作品が並び、観る人の感性に委ねられる。

「不変的なテーマである“衣服”をアート作品で表現するとともに、衣服を着たり脱いだりする私たちの“ボディー”にもフォーカスしました。厳選したアーティストのアーカイブ作品を展示できることをうれしく思っています。『032c』のコレクションが背後に並ぶ空間でコラボレーション開催することにも意味があるのです」

Lukas Heerich, Untitled Peel, 2023, Courtesy the artist

Lukas Heerich, Untitled, 2022, Courtesy the artist

グループ展のメインビジュアルに起用されたのは、ベルリンとパリを拠点とするコンテンポラリー・アーティスト、ルーカス・ヘーリッヒの作品だ。彼はサウンドデザイナーとしても活動しており、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)ランバン(LANVIN)クロエ(CHLOE)のショー音楽を手掛けるなど、ファッションブランドの世界観を生み出す一躍も担う。今季のパリコレでも新クリエイティブ・ディレクターのハリス・リードを迎えたニナ リッチ(NINA RICCI)のショー音楽を担当していた。

Tom Burr, Untitled, 2011, Courtesy the artist, Galerie Neu (left) and Jesse Darling, Banner, 2022, Courtesy the artist, Galerie Sultana Antoine (right)

ブランケットを無造作に打ち付けた作品は、NY拠点のコンセプチュアル・アーティスト、トム・バーによるもの。ケルン・ルートヴィヒ美術館での「Familienbande」展に出品したり、ミラノのコンヴェルソ財団で個展を開催したりするなど、アメリカのみならずヨーロッパでの活躍も目覚ましい。彫刻、インスタレーション、写真、コラージュなど様々なフォーマットを使い分け、ポップアイコグラフィー、LGBTQカルチャー、アンダーグラウンドカルチャー、映画、文学、現代建築などを主なテーマに掲げる。

Atiéna R. Kilfa, Untitled (Window) (from You Look Lonely Series), 2021, Courtesy the artist, NEUE ALTE BRÜCKE

また、来場者の多くがInstagramのストーリーズにアップしていたのが、ベルリンの「KW Institute for Contemporary Art」で初個展を開催したばかりの新進気鋭フランス人アーティスト、アティエナ・R・キルファの作品だ。知覚をコントロールしたヴァーチャルな表現を得意し、マネキンが服を着てメイクをした作品は、夜の街に溶け込んでいるように見える。

Ryan Trecartin, Center Jenny, 2013, Courtesy the artist, Sprüth Magers

エキシビジョン・ツアーの最後に登場したのが、映画監督としても活躍するライアン・トレカーティンのビデオアート。ライアンはミレニアル世代のティーンカルチャーにフォーカスし、ブラックユーモアとホラーをミックスさせたような斬新なグリッチ映像で世界的評価を得ている。2019年には、ミラノのプラダ財団でのインスタレーション展覧会『WHETHER LINE』を開催した。

既に次のエキシビジョンとして、ロンドンでの開催が決定している。同様にファッションとアートの融合をテーマとし、キュレーターのふたりが厳選したアーティストとその作品を、また違った角度から見せるという。

2000年代のコンテンポラリー・カルチャーをメディアとして見つめ続け、さらにはアパレルブランドどして、カルチャーとファッションをリンクさせて20年もの間ユースたちの心を掴み続ける『032c』。このグループ展示もひとつのプラットフォームであり、メディアの役割を果たしているのだろう。カルチャー、ファッション、アートを交差させ、コミュニティを拡張していく『032c』から今後も目が離せない。

Photos: Lucy Broom Text: Kana Miyazawa Editor: Saori Asaka