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ディオール、2023フォールメンズコレクションをエジプトのピラミッドを背景に披露

12月3日(現地時間)、キム・ジョーンズ率いるディオールが、2023年フォールメンズコレクションをエジプトで発表。古代文明とメゾンの歴史、未来的なイメージが融合するような、あらゆる感覚に訴えるショーとなった。
ディオール 2023年フォールメンズコレクション
Stephane Cardinale - Corbis/Getty Images

すべての物事には終わりがあることを教えてくれるのが、ギザの大ピラミッドだ。エジプトを代表する絶景は、その文明がいかに堅牢で洗練されていても、永遠に続かなかったことを伝えている。ファラオたちがエジプト文明を統治したのは3000年間だった。しかし、この巨大な墓のそばで、はるかに若い“王朝”が神秘的な新時代を築いていた。それがディオールだ。

夕暮れ時、ギザの砂漠で披露された2023年フォールメンズコレクションは、キム・ジョーンズらしい広がりを感じさせる、エレガントかつ映画的なショーだった。ファラオの墓がライトアップされ、LEDの光がランウェイを照らし、テクノミュージックが流れる。ジョーンズは、デザイナーであると同時に演出も手がける監督の役割を果たし、ディオールのアーカイブとその先に広がる世界からスペクタクルを作り上げた。彼はショーとは何かを熟知している人物なのだ。「開催地はカイロ」と書かれた手書きの招待状が届いた時、ファッション業界人たちは喜んだ。

占星術を愛したムッシュ・ディオールと星空をつなげて

Stephane Cardinale - Corbis/Getty Images

ショーでは、砂や石、白のニュートラルカラーが、チュールスカーフや流れるような素材とレイヤリングされていた。肩や袖にゆとりのあるジャケットの上に、ロールネックやテクニカルなアイテムが組み合わされ、未来的で、決して頑張り過ぎないテーラリングが散りばめられていた。テーラリングとスポーツウェアの融合は難しいが、ジョーンズはそれを見事に実現する。映画『DUNE/デューン 砂の惑星』に登場しそうなパーティーボーイたちは、モノグラムが象られたボディベストをまとっていた。宇宙用ヘルメットも数多くあった。イルミナティのピラミッドや星座のグラフィックなど、“迷信”のモチーフが取り入れられた、様々な色のニットも登場した。

夜空の下、ピラミッドの静寂を背景にしたショーを眺めていたら、少し神秘的な気分になった。どうやらそれが狙いだったようだ。ジョーンズは、このショーをフォールコレクションのプレミアであると同時に、ディオール75周年のバースデーパーティーとして、スピリチュアルなお祝いにしようと考えた。宇宙に焦点を当て、上空のオリオン座の星の通り道を反映するように、ショーの背景を作ったようなのだ。「このアニバーサリーと、私たちが手がけたコレクションはすべて絡み合って完結しているので、年末に何か特別なことをするのがふさわしいと思いました」。ジョーンズはショーに先立ち、このように『GQ』に語っていた。「過去、現在、未来がピラミッドの前に集約されているのです」

ショーノートにあるように、ムッシュ・ディオールは迷信家だった。彼は、フォーブル・サントノーレ通りで小物につまずき、自分自身の「ラッキースター」を見つけた、というエピソードが残っている。他の人であれば、そこに意味を見いださなかったかもしれない。しかし、ムッシュ・ディオールは意味があると考えた。そこにはメッセージがあり、自分の運命がオートクチュールにあるという予感があったのだ。彼はメゾンを導くために占星術を活用したことで知られる。

宇宙をテーマに掲げるのは、ジョーンズにとって初めてのことではない。コロナ禍の2021年秋コレクションで、ディオールはニューヨークアーティスト、ケニー・シャーフとのパートナーシップコレクションを発表した。このコレクションでは、ディオールらしいテーラリングに銀河系のイラストが散りばめられていた。さらに、アーティストの空山基とタッグを組んだ東京でのショーは、メタリックなサドルバッグと巨大ロボットのセンターピースで飾られた。ロボットの顔からはレーザーが発射されていた。

そのことを考えると、今晩のショーのアクセサリーには、あまり驚きがなかったかもしれない。リュックサックは同じ色合いのグレーだった。ディオールブランドの稼ぎ頭であるベルトバッグは、マフとして再利用された。

SNS向けの“印象的な瞬間”を超越するショー

Stephane Cardinale - Corbis/Getty Images

ディオールを未来的な視点で解釈し、表現することは、ジョーンズにとって自然なことだ。彼のディオールは歴史的なカットに先進的なデザインを施したものなのだ。たとえば、ウールのデミキルトは50年代のディオールのバイアスプリーツドレスの流れを汲んでいる。コレクションのいたるところに、そのようなものが見られた。過去と未来の間にあるこの曖昧な空間は、ジョーンズにとって最も居心地の良い場所であるようだ。彼は歴史家であり、予言者でもあるのだ。

ピラミッドは、偉大なファラオがあの世に向かう前の精神的な拠り所であり、未来への保険でもあった。その風景が、ショー会場に大きく広がっていた。デジタル時代、ランウェイショーはコンテンツとして共有されなければならなくなった。コペルニのベラ・ハディッドのスプレー式ドレスや、ジャックムスのラベンダー色のロングウォークがSNSで話題を呼んだ数シーズン前のように、デザイナーはインターネットでの拡散力を考えてショーを演出する。これは商業的に意味があることだ。ディオールのエジプトでのランウェイも、このような新しい時代のひとつの章だと受け止めることができる。しかし、ジョーンズはピラミッドの影に宇宙的な何かを見出しているようだ。この世界観は、単なるスペクタクルを超えた目的と深みをもっていると言える。つまりこれは、ムッシュ・ディオール、彼より先に登場した古代エジプト人、そしておそらく、ジョーンズ自身の運命にオマージュを捧げたコレクションなのだ。

数千年前のファラオのように、ファッション界の王族たちは自らの死と向き合っているのかもしれない。ラフ・シモンズは27年間続いた自身のブランドを閉じた。リカルド・ティッシバーバリーを去ることになった。グッチもアレッサンドロ・ミケーレのおとぎ話に幕を下ろしたばかりだ。しかし、ディオールの王国はまだ黄金期である。ジョーンズは新たなルックを披露し、彼のビジョンは常に進化し続けている。「過去に目を向け、未来への道を探るという意味では、クリスチャン・ディオールに直接リンクしています。また、彼の人生と作品を通して繰り返されるシンボルや迷信に魅了されました。そのひとつが星です」とジョーンズは言う。“星に導かれる”という考え方が、コレクション全体を形作っているのだ。

ショーの最後には、生オーケストラがマックス・リヒター作曲の楽曲に命を吹き込み、観客はレーザーや投光照明で照射された風景だけでなく、そのシーン自体に目を奪われた。リゾート・ショーは、世界の遠く離れた場所で繰り広げられた“印象的な瞬間”であることが多い。しかし、ディオールのフォールコレクションは、現存する数少ない世界の驚異であるピラミッドの前で、あらゆる感覚に訴える総合的なコレクションだと感じられた。

失われた文明の崇高な残骸の中で、ジョーンズは宇宙と自分自身に信頼を置き、コレクションを発表した。彼が生み出すクリエイションを楽しむ時間は、まだまだ終わらない。

ギャラリー:ディオール、2023フォールメンズコレクションをエジプトのピラミッドを背景に披露
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From BRITISH GQ Adapted by Mamiko Nakano


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