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なぜ今“制服”がモードなのか。NewJeans、tripleS——K-POPが再構築する、ギャル×文化系の制服カルチャー考察(Toru Mitani)

昨年から“制服”がファッションとカルチャーの橋渡しをしている。Y2Kブームの流れ、ギャルマインドの再考がソースと思いきや、どうやらそうでもない。そこで、韓国カルチャーがスクラップ&ビルドし、日本も共鳴するその感覚を考察。キーワードは、「保守的な文化系」と「ギャルみ」。その掛け合わせである。

個性を封印/解放する制服という存在

「Ditto」(2022)のMVより。

ここで言う制服とは、日本の某アイドル的な制服ではない。「男性の性的な目線に寄り添うような女性のエンタメ用学生服」ではなく、「自分のため」「連帯のため」「あふれる個性の受け皿」としての制服が猛烈に“今”を体現している。それを咀嚼し再構築したのは、昨今の韓国カルチャーだと考えている。

まず思い出すのは、たった数カ月で世界を席巻したNewJeansnの存在だろう。彼女たちのデビューは鮮烈で、「Attention」では90sとY2Kを結びつけ、現代とある種のヴァーチャル・ワールドへとダイブする世界観を提示し、その美学は今も一貫している。NewJeansを語る上で「少女性」があり、その象徴として制服が存在すると言えるだろう。実際にデビュー当時からイメージヴィジュアルやTVパフォーマンスで制服を着用し、「Ditto」のMVでは、学校で過ごす女子高生(中学生?)として彼女たちはあらゆるシーンを演じている。
>> デビューした当時のNewJeansのレビュー記事はこちら。

2022年春夏のミュウミュウのランウェイより。Photo: Gorunway.com

2022年春夏のミュウミュウが提案したY2K的ローライズ回帰やユニフォームをソースとした学生服アプローチが大きな道筋となり、加えて、NewJeansが醸すイノセンスと自立が見事にマッチした。そこで気付くのだ。「私が一番!」という自己愛まっしぐらなギャルマインドなのではなく、今、洒落て見えるのは「規律を重視したギャルマインド」だと。

ファッションとしてはやや早いタイミングでY2Kギャルを打ち出していた、ソミ。「Dumb Dumb」(2021)の2000sハリウッド×平成ジャパンを掛け合わせたギャルみ、制服の着こなしはINだった。ただし、それは表層のファッション性が新鮮という枠からは飛び越えないもの。ソミ自体がすこぶる可愛い!という感情はフルスロットルだけど、足並みを揃える、というパワーは少ない(否定をしているわけではありません)。
>> ソミのY2Kに関する記事はこちら。

逆に、GFRIEND(2021年解散)がデビュー当時に打ち出していたコンサバティブな制服の着こなし、連帯感が挙げられる。これは、乃木坂46が日本を席巻したベースを受けての世界観だと予測される。「Rough」(2016)などを見るとそれがわかるだろう。ユニフォームに性や個性を閉じ込め、一貫性やグループ魂としてのパワーを訴求している。制服を纏って“ガールクラッシュ”を打ち出したLOONA(今月の少女)もしかりだ。

GFRIEND「Rough」(2016)のMVより。

極端な2例を挙げてみたが、つまり、アツい自己愛や高いマインドセットでもなく、個性をやや閉じ込めた連帯感や保守性でもない、そのツイストが“今”の気分。それを表現する上で調理しやすい、表現しやすいのが制服、コスチューム——そう、強く感じる。

地味でも派手でもない、曖昧な境界線

Acid Angel from Asia.SSS「Generation」(2022)のMVより。

ハウスやR&B、さらにはガレージロックなど90年代のレトロサウンドを基盤にしたNewJeansの音楽性は、当時を青春時代とする30、40代の心を掴み、2000年代のEDMを主軸としたK-POPのトーン&マナーに飽きてきたZ世代のハートをも射抜いた。そんな音楽性は言わずもがなで、醸すそのムードにも同じく魅力がある。

映画「ヴァージン・スーサイズ」(1999)より。Photo: ©Paramount Classics/courtesy Everett Col / Everett Collection

2010年代、色あせた青春を具体化した写真家、ペトラ・コリンズの描くエモさと儚さ。1999年公開、ソフィア・コッポラ監督作『ヴァージン・スーサイズ』の繊細さ、内側に秘めた破滅願望。90年代のアジア映画を鮮やかに彩った岩井俊二監督作のムード。“キャンディ ストリッパー風”やア ベイシング エイプ®など、90年代の原宿・裏原カルチャーの華麗なるフックアップ——彼女たちを完成させる上でのインスパイア・ソースは数え切れないほどの“こと”“もの”の集積だが、そんなイノセンスが基盤になっていることは、 MVを眺めているだけでビシバシっと伝わってくる。加えて、Y2K時代に女性たちが経験してきた「好きなものが好き!」という直感型の思想やセンスが、デジタル社会真っ最中を生きるZ世代の価値観でトッピングされる。それが、NewJeansの醸すテイストや価値観だ。

それは24人組のアイドル、tripleSにも影響を与えているように見える。グループ内のユニット、Acid Angel from Asia.SSS 「Generation」(2022)のサウンド面、MVには制服に身を包み、思い思いのファッションを手を取りながら楽しむ姿が見られる。見え隠れする刹那的な感情の描写も見逃せない。先日公開したばかりの「Rising」からも、制服的一貫性が垣間見られる。

「自分ひとりで個性を貫く」とまでは気合いは入らないけど、連帯性を持って仲間たちとはアイデンティティを構築したい。その上で、自分は自分である、という事実は時代に刻んでいきたい——そんな今の気分を体現する際に便利なのが、#制服、というコードなのではないだろうか。また、女性同士の連帯感は特有の絆がある。シスターフッドをキーワードにした映画が数々の賞を受賞したりする昨今の流れも繋がっている気がし、結果、未だ女性が「か弱い立場」に置かれがちな現代社会のバイアスを「女性自らのパワーで壊す」という意図を感じる。その上で、連帯性や協力は必要不可欠だ。

Photo: Courtesy of Ambush

先日、アンブッシュ®(AMBUSH®)は深作欣二監督作『バトル・ロワイヤル』(2000年)を発想源としたショーを発表した。制服は個性を制限するものであり、その中で放出される美学や反骨精神を感じ取れるコレクションであった。ファッション、音楽、韓国文化、そして元祖ギャルカルチャーを創った平成ジャパン。それらが巧妙に絡み合い、意図せず私たちは制服にかっこよさや面白さを見出している。それが、“今”の空気感なのではないだろうか。
>> アンブッシュ®のコレクションのレビュー記事はこちら。

最後に。一昨日見かけたとある女子高生は、短く真っ白なショートソックスにブレザーとチェックのスカート。髪は真っ黒なバージンヘア。しかし、指先にはネオンイエローのマニキュアが塗られ、TLCばりの大きなフープピアスを付けている。これこそモード! 痺れるファッションの一例を渋谷のはずれで目撃したのであった。