【サッカー・ワールドカップ特集】日本代表・森保一監督インタビュー──カリスマ型とは対極にいる、寄り添うタイプの指揮官

今日11月1日、ワールドカップ・カタール大会の日本代表最終メンバーが発表される。森保一監督に訊いた。

森保一はストレス知らず?

「プレッシャーは感じますが、ストレスはありません」

サッカー日本代表の監督がストレスを感じないと言い切るとは。思わず耳を疑った。「自分の好きなことをさせてもらっているわけで、こんなやりがいのある仕事はありません。本当に幸福感しかないです」

本心だろうか。目の前の54歳は、目を逸らさずに、淡々と語る。1ミリもこちらを警戒している感じがない。まさに自然体だ。ストレスと白髪の医学的な因果関係は置いておくとして、白髪は皆無(本人いわく白髪は2、3本ある)。少なくとも「#森保辞めろ」などという厳しい声に晒されつづけた人物とは思えない肌ツヤである。冒頭のストレス知らず、は本当なのだろう。それにしてもこの余裕はどこから来るのだろうか。

「すべてを捧げたドーハでの経験は大きかったと思います。夢を掴み取れそうなところで、指の間から零れ落ちた。これ以上悲しい出来事は起きないだろう、という境地に達しましたね。そうなると、もう上がるだけ。ポジティブに捉えられるわけです」

サッカーファンでなくても、ドーハの悲劇は聞いたことがあるだろう。森保監督はその当事者である。ドーハ世代の記者にとって、その言葉は重い。

ところで、一般的に言われている〝森保評〟のなかには「ビジョンがない」「具体的な指示がない」「カリスマ性がない」といったものも。なかなか手厳しい。「Jリーグで広島の監督に就任して考えたのは、自分ができないことを無理にやらないということです。自分を飾ったり、にわかで勉強したことを話したりしても、選手たちに受け入れてもらえません。だからマネジメントに徹して、それ以外はできる人にやってもらう、託す、任せる。

最終予選は苦しいスタートになりましたが、コーチ陣にお願いしたのは、『チームを勝たせるための準備を考えてほしい』というシンプルなことでした。練習もトップダウン型ではなくて、攻撃面、守備面のそれぞれのコーチがディスカッションして、いちばんいいメニューを採用する。シンプルな組織です。代表チームで掲げているスローガンは、『皆がチームのために頑張る』。小学生に伝えるような言葉ですが、選手であれ、スタッフであれ、『チームファースト』は絶対です」

森保一が語る代表チームのストロングポイント

なるほど。カリスマ型とは対極にいる、若い世代の選手やスタッフから受け入れられやすい、寄り添うタイプの指揮官ということか。さて、カタール大会は〝死の組〟に入ってしまった。

「最高のグループに入ったと思います。優勝経験のある国と真剣勝負できるわけですから」

最高!?思わず顔を見つめてしまった。意図を問い直す。

「日本代表は2050年までにワールドカップで優勝することを目標としています。世界一の国との真剣勝負を通して、自分たちに何ができて、何が足りないのかを感じることができる。目標到達に欠かせない機会になると思います」

成功や名誉にはお構いなしで、はるか先を見ている。それが森保という人なのだろう。チームの強みについて尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「世界のスタンダードで戦っていける個の力をもった選手の存在です」

おお、と口から漏れてしまった。日本は組織力が強みだったはずだが。

「個といっても、強さとか、巧さだけではありません。仲間とつながる能力を備えた個の力をもっている選手が揃っています。今の選手たちは、個から組織に入っていける、組織としてのつながりをもてると見ています」

ロシア大会のベルギー戦のことを訊かねばならない。終了間際、電光石火の、教科書のようなカウンターアタックを喰らった。

「ボール保持率を見ても2対0までは互角に戦っていました。でも2対0になってから、つまり60分以降の保持率は2対8くらい、ひょっとしたらもっと差があったかもしれません。なぜ逆転されたのかを検証した結果、保持率が下がったとしてもマイボールを大切にする、それを試合が終わるまでつづける、などの改善点を強化ポイントとしてチーム作りをしてきました。あの時間帯、ベルギーは前に出てきていたのですから、相手の力を利用してもう1点取りにいくこともできたかもしれません」

デ・ブライネだけでなく、前線のルカクも、あの時間帯にトップスピードで日本ゴールに一直線に迫った。森保はコーチとして、ピッチサイドで強豪国の本気を見た。

「勝負どころにパワーをかけてきましたね。日本が身につけていかなければならない部分です。ベルギーは単純に強かった。この経験はあの真剣勝負の場でしか得られないことです。でも学んだことを継承しないと、血肉になりません」

メモを取る手が止まっていることに気がついた。あの場面を振り返る熱を帯びた言葉に引き込まれたのだろうか。「優等生発言」への警戒を忘れてすっかり聞き入っていたのだ。

ところで、監督の話は理路整然としている。聞き手が脱線しかけても、いつの間にか軌道修正されている、そんな印象だ。たしかに、森保一はそういう選手だ。あのドーハでも、Jリーグでもそうだった。かつて日本代表と対戦したアルゼンチン代表監督は印象に残った選手を訊かれ、カズやラモスを差し置いて森保一を挙げた。この人は、わかる人にはわかる水の運び役、まさに黒子なのである。「体にフィットしているスーツを着ると、背筋が伸びて気持ちが引き締まります。試合モードに切り替えるスイッチのひとつがスーツです」

ロシア大会の経験がプラスに働くのは間違いないだろう。悲しい、悔しい気持ちを晴らす機会が、カタールで待っている。テクニカルエリアでダンヒルのスーツをまとう森保監督はどんな表情を見せるだろうか。歓喜の瞬間、「森保さん、ベンチにいたっけ?」というくらい、やはり存在感を消しているだろうか。我を忘れて感情を爆発させる、そんな姿を見てみたい。

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NIWA SHINJYO

HAJIME MORIYASU

森保一

日本代表監督

1968年、長崎県出身。1987年にマツダ(現サンフレッチェ広島)に入団。92年に日本代表に選出、W杯アジア予選を戦った。2003年現役引退。12年に広島の監督に就任。4年目に3度目となるJ1優勝を果たす。18年、日本代表監督に就任。

PHOTOGRAPHS BY TEPPEI HOSHIDA 
HAIR STYLED & MAKE-UP BY KEN 
STYLED BY HIDETOSHI NAKATO 
WORDS BY AKIRA KAMIYA @ GQ


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