再生と成長の物語
冒険ロマンス小説の人気作家・ロレッタ(サンドラ・ブロック)は、考古学者だった最愛の夫を亡くして以来、5年間も隠遁生活を送っている。担当編集者・ベス(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)に支えられて新作を完成し、久しぶりに公の場へ出てトークイベントを行なうが、その直後、大富豪のアビゲイル・フェアファックス(ダニエル・ラドクリフ)の部下に誘拐されてしまう。ロレッタの新作を読んだフェアファックスは、彼女が失われた都市「ロストシティD」の財宝のありかを知っていると思いこんだのだ。
小説の表紙モデルを務めている美丈夫・アラン(チャニング・テイタム)が、元海軍特殊部隊員のジャック(ブラッド・ピット)とともに、ロレッタが拉致されている遺跡発掘中の島へ救出に向かう。ところがアランはなかなかのぽんこつぶり。はたして彼らはフェアファックスの魔の手から逃れられるのか、そして島の財宝の秘密とは?
お気づきの人も多いだろうが、1980年代に大ヒットした「ロマンシング・ストーン」シリーズ(『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』[1984]、『ナイルの宝石』[1985])の路線である。「ロマンシング・ストーン」自体、古典期ハリウッドの冒険ロマンス映画の復興の試みだったのだから、本作もたいへん由緒正しい映画だと言える。超豪華キャストが魅力いっぱいに各キャラクターを演じて映画を牽引。ロマンチック・コメディはこうでなければと思わせる、ロレッタとアランの丁々発止のやり取りも楽しい(いや、「丁々発止」というにはアランがぽんこつすぎるのだが、それも含めて楽しい)。
華やかで愉快な冒険物語には、上のあらすじ紹介からも察せられるとおり、ロレッタの再生の物語と、アランの成長物語が並走している。そんな具合にいろいろ楽しい映画だが、もうひとつ興味深いのは、女性観客を意識した作りがあちこちに感じられることだ。アランとロレッタの関係では、ロレッタのほうが主導権を握っているのだが、これは、一度は企画を断わったサンドラ・ブロック(製作も兼任)のアイディアだったという。そもそも、1964年生まれの彼女が冒険アクションの主役を演じていること自体、画期的なことではあるまいか(「ロマンシング・ストーン」のキャスリーン・ターナーは当時30歳前後である)。
ある年齢を過ぎたとたんに女性俳優の役柄が激減してしまうことが、近年ハリウッドでも問題になっているけれど、トップスターであるブロックがこの役を演じたこと、しかも、中高年女性が殻を破って新しい人生へと踏み出す物語を語ってみせたことの意味は、とても大きいのではないかと思う。ベスの母親が老いてなお「エロ要素」に興味津々だという設定も、タフに仕事をしまくるベスがまとう雰囲気の描写も、製作に女性目線が入っていないと出てこなかったのではなかろうか。
そう考えてくると、アランも、後半登場してベスを助ける気のいいおっさん(オスカー・ヌニェス)も、「愛する女を何が何でも助けようとする優しいぽんこつ男」というキャラクターであり、従来の「男らしさ」からかけ離れたこういう男性が「イイ男」として魅力的に描かれるのも、現代的で面白いなあと思う。
6月24日(金)より全国ロードショー
配給:東和ピクチャーズ
© 2022 Paramount Pictures. All rights reserved.
公式ホームページ:https://thelostcity.jp/
篠儀直子(しのぎ なおこ)
PROFILE
翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)など。