FASHION / TREND & STORY

「身体を隠すより、きれいだと思うところを出すほうが自己肯定感が上がる」──フェティコの舟山瑛美が生み出す多様な造形美。

デビュー3年目にして感度の高い層から厚い支持を得ているフェティコ(FETICO)が、8月29日に満を持して初のショーを開催した。海外からの問い合わせも殺到するなど、その大きな反響に驚いているというデザイナーの舟山瑛美に、つねに「女性の造形美」に注目する所以、新作に込めた思い、今後の展望について話を訊いた。

デザイナーの舟山瑛美。

――今季初めてのショーを開催されたのはなぜでしょうか。

2020年にブランドをスタートして6シーズン目になります。順調に売り上げも伸び、ファンの熱量が高まってきているのを感じていました。2022-23年秋冬の展示会でオーダーがかなり増え、その利益をステップアップのためにぶつけてもいいかな、と思ったんです。バイヤーさんなどから「ショーをやらないの?」とよく言われるようになったことも後押しになっています。

――「Rakuten Fashion Week TOKYO 2023 S/S」の公式スケジュールで発表されました。

ブランドの立ち位置を考えると東京での発表が現実的だと思いましたし、持ち出しがほぼなくてすむうえに、多くのメリットがあります。インディペンデントで活動している同世代のデザイナーの中では、かなり堅実なタイプだと思います(笑)。

――そうですね、ビジネス面にもしっかり気を配っていて地に足がついている印象です(笑)。ショーの後の会見で、「10代前半ぐらいの頃からブランドを立ち上げてファッションショーをやりたいという夢があった」とおっしゃっていました。念願のショーに向けてはどのように取り組まれましたか?

ショー形式で発表する、ということを念頭に置きながら服づくりに取り組み、初のシューズの企画も進めました。

スクエアトウのシューズは、フラットとウェッジソールの2型展開。

ただ、大がかりなショーピースを作るぞ、というマインドにはあまりならなくて、いつもどおりの感じで見せようと考えていました。これまで東京で開催されたショーでかっこいいな、と思えたブランドに共通しているのが潔い演出でした。それで、フェティコも「王道のランウェイ」にしようと。演出家の方にはストイックな雰囲気にしてほしい、という話をしました。

「強い女性像をアジア人で表現したい」

フェティッシュな雰囲気の黒いPVCを敷いたランウェイに。

――コレクションは“Admire Your Own Body”がテーマでしたが、「ふと思い出して」、1970 年代に作家や女優として活動した鈴木いづみを着想源にしたそうですね。

ロンドン留学中に写真展に行ってから荒木経惟さんの作品に関心を持ち、被写体となっていた鈴木いづみさんを知りました。彼女はいわゆる王道の美人タイプではなく、リアリティがあって強い。写真集も持っていたのですが、今回リサチ中にその掲載カットに偶然出合ってピンと来たんです。

いつも、金髪の妖精みたいな女の子というよりは、じめっとした影のあるアジア人の女性のほうにビジュアルとして惹かれるところがあります。自分の見た目が超アジア人ということもあり(笑)、アイデンティティとして、世界に対してその美しさをアピールしたいんです。日本のブランドがスタイル抜群の欧米人モデルだけを起用することにも正直疑問があり、強い女性像をアジア人で表現したいと思っています。

「毎日、鏡の前で女性の裸を見ている自分だからこそできる表現がある」

ショーではこれまでのルックブック同様、アジア系のモデルがメイン。「女性像に幅を持たせたい」と考え、60代の甲田益也子も起用した。

――「鈴木いづみの女性上位の思想にもけっこうぐっときた」ともおっしゃっていました。

単純に、「女性は存在として美しい」という認識があります。スキニーでもグラマーでも、その立体感に惹かれてしまうんです。数年前、オーバーサイズの服が一大ブームになった時にはすごく違和感がありました。女性の身体を生かしてファッションを楽しむスタイルがあってもいいでしょ、と。その場合、特に日本だと男性目線を意識したデザインになりがちですが、そうではない服作りをしたい。毎日、鏡の前で女性の裸を見ている自分だからこそできる表現があると思いますし、共感してくれるファンも増えてきたような気がします。

――昨年から今年にかけて世界的に「肌見せ」がトレンドとなり、日本のストリートでも抵抗なく肌やボディラインを露わにしている若い人たちが多くなった気がします。舟山さんにとってはうれしい現象ですね。

若い人だけではなく、年齢を重ねた方たちにも肌を見せることがおしゃれだと思ってほしいです。たとえばヨーロッパに行くと、マダムでも堂々とノースリーブを着ていて素敵ですよね。「身体のこの部分がいやだから隠そう」というよりは、「きれいだから出そうかな」と考える方が自己肯定感が上がる気がします。

日本の素材へのこだわり。

自身で描いた図案を職人に刺繍してもらった、取り外し可能な襟。

――今季ポイントとなった素材やものづくりのテクニックについて教えてください。

素材はオリジナルや別注が多く、日本で作っています。フェティコを立ち上げる前、10年間程いくつかのブランドで働いたのですが、産地に行くとよく「経営が厳しい」という話を聞いていました。それで、自分でブランドをやるなら日本で生産して、少しでも力になれたら、と思っていたんです。各産地の特徴を熟知している生地のコンバーターさんに相談しながら、イメージに合う工場を探しています。

ランウェイの後半で存在感を放っていたメッシュには2種類のタイプがある。こちらは京都でお守りの付属品などを製作している老舗の機屋に手がけてもらった。

「日差しが強くなくても自然にかぶれるような女優帽がほしくて」作ったという帽子。ものづくりにおいて、自分が身につけたいかどうかも大きなポイントになる。

――尊敬しているデザイナーはいますか?

たくさんいるのですが、コム デ ギャルソンCOMME des GARÇONS)やサカイSACAI)、トーガTOGA)など、女性デザイナーが率いるインディペンデントなブランドにはやっぱり憧れがあります。ものづくりにおいては、ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)やアライア(ALAIA)、アレキサンダー マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)の身体にフィットしたデザインをモードとして打ち出していたコレクションに影響を受けています。

――「東京ファッションアワード」を受賞され、来年3月に東京でショーイベントを行うほか、パリコレ期間中の展示会実施の支援も受けますね。海外進出についてなど、今後の目標について教えてください。

いずれパリやロンドンでショーを開催し、国内でも人気があって、海外の服好きの方たちからも認知されるようなブランドにしたいと思っています。お店も持ちたいですね。今、手応えのようなものをすごく感じているのですが、転んだり道を間違えてしまわないように、チームの結束をより固めたいとも思っています。

舟山瑛美
1986 年生まれ。高校卒業後に渡英し、帰国後、エスモードジャポン東京校を卒業。コレクションブランド等でデザイナーの経験を積み、2020年にパタンナーとともにフェティコを立ち上げる。今年「JFW ネクスト ブランド アワード 2023」と「東京ファッションアワード」を受賞。

Photos: Courtesy of Fetico (catwalk, portrait)   Text: Itoi Kuriyama   Editor: Maki Hashida