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三井住友FG、AT1債起債へ準備-クレディS危機後の反応探る

更新日時
  • 2本立てAT1債を4月19日起債予定でサウンディング-関係者
  • クレディSのAT1債全額無価値化で欧州市場中心に警戒感も

三井住友フィナンシャルグループ(FG)が4月19日にも永久劣後(AT1)債を起債する方向で準備を進めていることが31日分かった。クレディ・スイス・グループのAT1債が全額無価値となったことを受けて、欧州を中心に市場ではAT1債に対する警戒感も強い。

  事情に詳しい複数の関係者によると、三井住友FGは償還期限の定めがなく、発行から5年2カ月後と10年2カ月後にそれぞれ期限前償還が可能になるAT1永久劣後債NC5年2カ月とNC10年2カ月の2本を4月19日にも起債する方向で、投資家の需要を確認するサウンディングに入った。現時点で発行額は未定という。

Japanese Mega Banks Ahead of Earnings Figures
三井住友FGのロゴ
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  ブルームバーグのデータによると、予定通り起債すれば、国際金融システムで重要な金融機関(G-SIBs)がクレディS危機後に発行する初めてのAT1債となる可能性がある。三井住友FGの広報担当者は、個別の取引についてはコメントを差し控えるとした。

  AT1債は調達資金を普通株等自己資本(CET1)を補完する形でティア1(中核的自己資本)に算入できる債券。一般的に発行体の自己資本比率が一定水準を下回るなどした場合に株式に転換されたり、元本が削減されたりする。

  三井住友FGは今月13日、AT1債を最速4月12日に起債すると主幹事のSMBC日興証券を通じて明らかにしていた。その後、UBSグループによるクレディS買収合意を受けスイス当局が同社AT1債を全額無価値にすると決定。欧州市場ではAT1債の発行コストが上がり同債を借り換える経済合理性が薄れたことから早期償還の見送りを決めるケースも出ていた。

  国内では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も4月下旬以降にNC5年とNC10年のAT1永久劣後債の起債を予定している。

  サウンディングは通常、起債に向けて具体的なマーケティングを始める前に投資家のニーズや発行水準に関する考えを把握するために実施する。サウンディングの結果、起債を延期したり見送ったりすることもある。

日本は別世界

  クレディSのAT1債には契約上、特別な公的支援がある場合に無価値にする特約が付いていた。一方、鈴木俊一財務相は28日の参院予算委員会で、日本の金融機関が発行するAT1債には同様の特約はないと説明。一般に公的支援が行われることにより元本が削減されることはないと話した。

  ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは、海外発のAT1債を巡る混乱に対し「やはり日本は別世界」の感があると指摘する。「国内銀行システムの安定性に対する信頼は非常に高く、円建ての債券で比較してもリスクリターン的には非常に妙味があると受け止めている投資家は多いのではないか」とみる。

  ニッセイ基礎研究所の福本勇樹金融調査室長は、邦銀の場合、元本削減のトリガーとなるCET1比率の水準が5.125%と低く、AT1債を「事実上、政府保証に近い形で発行している」と話す。CET1比率が一定の水準に回復した際の元本回復条項もあり、クレディS危機が邦銀のAT1債発行に直接的に与える影響は軽微だと述べた。

  とはいえ、複雑な商品だけに、各行が自社のAT1債の仕組みをしっかり説明しないと「無用なリスク回避を生んでしまう」とも福本氏は指摘。邦銀は今後も国際的な資本規制に沿ってAT1債を発行していくとみられる中で、AT1債の商品性について投資家に「再度説明していく必要がある」との見方を示した。

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(第3段落に詳細を追加して記事を更新しました)
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