信託型ストックオプション、行使時に課税-株価下落する企業も
占部絵美、岡田雄至-
パークシャの株価は一時12%安-対応は精査中とコメント発表
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2017年ごろから信託型ストックオプションの導入拡大-識者
鈴木俊一財務相は30日、信託型ストックオプション(株式購入権)に対する課税について、一般に企業が役員などに付与する場合と同様に「ストックオプションの行使時に給与課税される」との見解を示した。閣議後に記者会見した。
信託型は、スタートアップ(新興企業)などが優秀な人材を確保するために付与している。鈴木財務相は、いったん形式的に信託に移していることから、「一部の信託会社などがストップオプションの行使時に給与課税されないとの説明を行ってきたことは承知している」と述べた。
その上で、国税庁が信託型の課税関係をより広く周知するために見解を取りまとめたQ&Aを公表することを明らかにした。
信託型ストックオプションを巡っては、給与所得(税率最大約55%)としての課税を前提としていた国税庁と、譲渡所得(税率約20%)と認識していた一部企業の間で相違が生じていた。鈴木財務相が同庁の方針を明確にしたことで、信託型を選択した企業によっては今後課税負担に苦しむ可能性がある。
一部スタートアップの株価下落
信託型ストックオプション制度を導入している人工知能(AI)ベンチャーのPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)の株価は30日午前に一時前日比12%安まで下落。その後は切り返し1.8%安で取引を終えた。
パークシャは同日、信託型ストックオプション制度に関する当局の見解が示されたことについて「対応は精査中」とのコメントを発表。財務上の影響については未確定とした上で、「一過性の事象としてとらえており、当社の本質的な事業内容および事業成長に影響を与えるものではない」とした。
スタートアップの法務に詳しい轟木総合法律事務所の轟木博信弁護士によると、スタートアップ協会などは29日、国税庁と経済産業省の担当者を招いて経営者向けにストックオプション税制説明会を開催。信託型ストックオプションでは売却時に譲渡所得として納税すればよいとの企業側の認識を国税庁が否定し、行使時に給与所得として課税する方針を示したという。
17年ごろから導入広がる
信託型では個人に直接株式を購入する権利を付与せず、権利をいったん信託会社に移す。株価上昇後に入社した社員に権利が与えられた場合でも株価上昇による利益を享受できるメリットがあることなどから、轟木氏は2017年ごろから導入する企業が増えたと話す。
給与課税の対象となる信託型では企業が源泉徴収義務を負うため、今後は過去の分も含めて「まずは企業が源泉徴収分を納付することになる」と説明。その後に企業が個人から徴収することになるとみている。この方針が示された影響については、行使された新株予約権の規模が当事者にしかわからないため現時点の予測は難しいとしている。
「税制適格ストックオプション」という課税時期を株式売却時まで先送りすることが公式に認められた制度もある。轟木氏によると、この税制では年1200万円までと権利行使額に上限が定められるなど要件が厳しかったこともあり、信託型の採用を選ぶ企業が多かったという。
同氏は、信託型に対し国税庁が「断固とした対応を取る」方針を示したものの、経産省が29日の会合で税制適格ストックオプションの要件を緩和する方針も示したことから、政府がスタートアップ育成を「盛り上げる方向であることは間違いない」と述べた。