BEAUTY / WELLNESS

職場でヘルシーなメンタルを保つには? 仕事ストレスをマネジメントする最高の方法【ヴォーグなお悩み外来】

誰もが抱えるものから人には聞けないものまで、あらゆる悩みにその道のエキスパートが回答。第79回は、トレーナーとして過去19年間で2400回以上、4万時間以上の指導実績を誇るマインドセット株式会社代表取締役の李 英俊さんが登場。「ポジティブになれず、マイナス思考に陥りがち」「仕事にやりがいを見出されずストレスがたまるばかり」といった現代人の心の悩みに答える。まずは、「ポジティブ思考はよいこと」という刷り込みから改めた方がいいとアドバイス。その心とは!?

ストレスに勝つためには、無理にポジティブになる必要はない

「ポジティブシンキングがもてはやされていますが、そもそも人間とは、放っておくとネガティブなことを考える生き物なんです!」と、コンサルタント、エグゼクティブコーチとしてメンタル面の指導も行う李 英俊さん。ネガティブ思考は危機管理能力でもあると続ける。「『もし危険なことが起きたらどう対処するか?』とネガティブな事態を想定することで、しかるべき対策を予め取っておくことができるのです。ワイドショーなどで有名人の不幸ネタをつい楽しんでしまうのも、私たちが失敗のシュミュレーションをするのが好きだからだといえます」

人間は、危機管理のためにネガティブ思考になりがち。加えて、特に日本人は遺伝子的にもマイナス思考になりやすいそうだ。「アフリカ人やアメリカ人の多くがポジティブ遺伝子と言われるセロトニントランスポーター​​L型を持っているの対して、ほとんどの日本人は不安遺伝子のセロトニントランスポーター​​S型の持ち主。例えば『アメリカ式にポジティブ思考にならないと!』と頑張っても、そもそも遺伝子が違うのだから限界があります。無理にポジティブになる必要はないと考えます」

自立とは、多くの依存先をもち頼ること

日本人が無理にポジティブになる必要はない、というのは分かった。しかし、ネガティブな気持ちを放っておくと心が折れてしまうのでは? 日本人なりに何かできることはあるのだろうか。「仕事が上手くいかないことに加えて、親の病やパートナーとの不和が発生……という風に、問題が3つくらい重なって脳の情報処理機能が追いつかなくなると、メンタル不調は深刻化します。ですので、まずは問題が積み重なる前に早めの対処を心がけること。急に昇進が決まったときなどの『獲得』と、大切なもの失ったときなどに起こる『喪失』が強いと心は乱れます。心の振れ幅が大きいときに、なるべく真ん中に戻すということを心がけましょう。棚ぼた的にラッキーなことがあっても逆に深刻なことがあっても、『この状況はそんなに長くは続かない』と自分を落ち着かせるのです」

周りの人に話を聞いてもらい、心を落ち着かせるのも重要だそう。「そのときに、自分と同じような職種や環境の人と話すと、あまり新たな発見はできず心の状態は変わりません。異業種など、自分と違う価値観の人と積極的に話すことが大切です。自立とは、自分で全てを抱え込むのではなく複数の依存先を持つこと。ウィークデイにストレスが溜まっても、週末に周りの人と刺激し合い生まれ変わることで、日々のルーティンワークも楽しくなるのではないでしょうか」

副腎疲労が溜まるとストレスに対処できなくなる

李さんは、ストレス対策として副腎疲労​​にも注意してほしいと話す。副腎は抗ストレスホルモンであるコルチゾールを分泌する臓器。 副腎が疲弊するとコルチゾールの分泌が悪くなり、ストレスに対処できなくなってうつなどの症状が出るといわれている。「副腎が疲れている人は、承認欲求が高くなったり完璧主義者になったりと、ワーカーホリック気味に。それでさらにストレスが溜まるという風に、負のスパイラルになりがちです」

副腎疲労を防ぐために大切なのは、良質な睡眠を取ること。読者に今すぐしてほしいのは「スマートフォンを寝室に置かないこと」と、李さんはアドバイス。「スマートフォンのブルーライトが睡眠に悪いのは、多くの人が知っていると思います。加えて、カクテルパーティー効果​​の面からも、スマートフォンはベッドに置かない方がいいんです」カクテルパーティー効果とは、多くの音の中から自分が必要とする情報を無意識に選択するこ脳の働きのこと。日中仕事で使っているスマートフォンを枕元に置くことで、睡眠中も脳が仕事のことを追ってしまい、休まらなくなってしまうというのだ。加えて、ここ数年安眠のために注目されるCBD(カンナビジオール)もおすすめだと、続ける。

感覚器を鍛えて、心も整える

良質な睡眠を心がけているし、副腎疲労も大丈夫そう。でももう少しメンタルをどうにかしたい、鍛えたい! そう考える人はどうすれば? 「嗅覚や触覚​​といった五感から自分の身体の傾きやスピードを感じる​​前庭覚まで、あらゆる感覚器を鍛えること。感覚器には感情を安定させる神経が走っているので、感覚器が鍛えられると心も鍛えられるんです。実際、トレーニングで感覚器を鍛えたことで心が落ち着き、仕事の判断が早くなって生産性を高めた人もたくさんいらっしゃいます」

感覚器を鍛えるために今すぐできることとして、デスクワークの合間に自分の体を触ることから始めてみて。「首猫背になっていないかな、肩甲骨が固まっていないかな、などを触ってチェックします。パソコン作業で手首が固まっている人が多いので、手首を大きく外側に回すのもおすすめです。このときに、手首ではなく肘を回してしまう人がいますがそれはNG。手首をきちんと回せるようにしましょう」

Want toに溢れたキャリアに

多くの起業家やビジネスパーソンに寄り添ったトレーニングに定評がある李さん。今抱えているストレスの大半が仕事に関するもの…という人に、何かアドバイスはあるだろうか。「仕事がHave to(=しなければならないこと)ばかりになっていないか、見直してみて。自分がコントロール不能なHave toだらけだとストレスがどんどん溜まってしまいます。Have toではなくWant to(=したいこと)を最上位に持ってくるようにするのです。試しに、ここ1年間にした仕事の中で、好きな案件ベスト5を書き出してみてください。しばらくはその5つの仕事だけしてればいいといわれたら、ストレスはなくなりますよね」日々の仕事に忙殺されて、自分がしたいことや好きなことさえも分からなくなっている。そんなときはどうすれば?

「幼少期に、親や学校の先生など周りに止められても反抗して続けたことを思い出してみて。読書やゲーム、ファッションメイクアップなど、何でもいいです。それが本当にあなたのしたいことなので、世間体など外圧に負けず押し通す勇気をもって。私の場合は『人に教えること』で、それが今の仕事の充実につながっています。自分が本当にしたいことが分からないと、第二の思春期とも言われるミッドライフクライシス​​に陥りメンタルを壊しかねません。ぜひ自分を見つめ直してみてください」

話を聞いたのは……
李 英俊
マインドセット株式会社代表取締役、コンサルタント、エグゼクティブコーチ。外資コンサルティングファームなどに勤務後、マインドセット株式会社を創業。ビジネスパーソンやプロアスリートに、メンタリングセッションからリーダーシップ開発、組織エンゲージメント、身体開発まで指導する。2021年には、最新のウェルネスとAIテクノロジーを掛け合わせた次世代ウェルビーイング複合施設「Yawara」をオープン。https://yawara.fit

Photos: Getty Images Text: Kyoko Takahashi Editor: Kyoko Muramatsu