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ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)、ある17歳の少年との出会いが着想源。水原希子もモデルとして登場【2023-24年秋冬 東京コレ速報】

3月18日、渋谷駅西口タクシープールの地下スペースで2023-24年秋冬コレクションを発表したケイスケヨシダKEISUKEYOSHIDA)。今季は、ある17歳の少年との出会いから創作をスタートした。ラストルックには水原希子も登場した。

ケイスケヨシダKEISUKEYOSHIDA)の会場は、渋谷駅西口タクシープールの地下。スタッフに案内されて階段を降りていくと、天井がむき出しになっているインダストリアルな空間に行き着いた。どうやら渋谷再開発に関係する場所らしい。紫のライトに照らされた広大なスペースの中央にはコの字型の細長いランウェイが設置してある。観客たちはその両脇に立ち、スタートを待った。

ファーストルックを着用していたのは華奢な少年だった。テーラードジャケットの襟を立てた首もとはブローチできつく留めてあり、まるで学生服のよう。目は長く伸びた前髪で覆われ、不穏な音楽も相まって沈んだ表情にも見える。デザイナーの吉田圭佑によれば、17歳のTaikiという名の彼こそが、今季のミューズなのだった。

「彼は僕のトークショーに来てくれて、最後の質問コーナーで手を挙げて“質問ではないのですが、つらくなって学校に行けなくなり死も考えていた時にケイスケヨシダのコレクションを見て生きようと思いました。ありがとうございます”と語ってくれたんです。僕は自分の服が誰かを生かしているんだ、と知ってすごくうれしかった。それで彼をミューズとしたコレクションを作りたいと思い始めました」

いつもは「自分の中の少年性のようなものを無理やり少女性に置き換えたり、頑張ってその延長に女性像を設定しようとしている」という吉田。しかし、Taikiをミューズとした時に、それが難しいことに気づいた。

「彼に少年性と、少し淑女のさまみたいなものを感じたんです。それは、トークショーに長野からお母さんと一緒に来て全身それなりの値段がするケイスケヨシダの服だった彼に、“育ちが良く、愛されているんだな”と感じたことに関係しているんだと思います。そして、彼の“愛されているのに孤独”という状況に共感する部分もありました。それで少年と淑女が共存しているような人物像を作ることにしたんです」

吉田は、後日ムードボードに貼るためにTaikiにポートレートを送ってもらい、それを出発点とした。そこで吉田にとって淑女の象徴だったブローチを起点に顔周りを象徴的に作ることに。

また、「抑制」も意識したという。「ケイスケヨシダはショーでの発表を念頭に置いているので、デザインが過剰になっていた部分がありました。でも、まるで父親のようにTaiki君を眺めているうちに、だんだんそれを抑制したい気持ちになっていったんです」

今季はかつて東京で活動した経験も持ち、現在はバレンシアガとアクネ ストゥディオズのコンサルタントを務めるスタイリストのレオポルド・ドゥシェマンが参加したことも大きい。

「今までスタイリングを想定しながらデザイン画を描いていたのですが、若干予定調和を感じていたんです。そこで新しいバイブスを取り入れたり、グローバルに向かっていくためにも海外のスタイリストさんと一緒に仕事がしてみたいと思うようになりました。たまたま今年の1月に来日していたレオに会う機会がありコレクションの話をしたらすごく共感してくれて。そこでスタイリングをお願いすることにしたんです」

レオポルドとコレクションの人物像の話をする時にキーワードとなったのが、「strict(厳しさ、厳格さ)」。少年の家族、教師、恋人といった「strict」な関係性の人物をイメージしながらキャスティングも進めていった。ラストを水原希子が飾ったのも今回大きな驚きだったが、それもレオポルドの発案だったようだ。

「レオに“キコみたいなスーパースターがショーに出てもいいんじゃない”と提案されて。自分にはない発想だけどすごく面白いな、と思いました。Taiki君から始まって“strict”な女性たちが続き、Taiki君とも、彼に自分を重ねてもいる僕とも一見遠いところにいる希子さんが最後に出てきて終わるというのは、このコレクションが自分を掘り下げるところから広がっていくさまを体現しているような気もしたんです」

レオポルドや水原希子に加え、ラテックスに「LOVE」「LONELY」とペイントしたIkumi Kakihara、吉田のアシスタントでフォークやナイフを歪めたブローチや大ぶりのイヤリングを手がけた中林花香ともコラボレーションしている。吉田もTaiki同様、孤独な生みの苦しみに苛まれつつも愛されていたようだ。

服で表現していることが全て、と言葉少ないデザイナーがいる一方で、吉田は饒舌に語るタイプだ。バックステージで話を聞いたり、長文のコレクションノートやリリースを読むとショーを見ただけではわからないストーリーが明らかになり、意図が伝わる。ただ、吉田は昨年のインタビュー で「海外に進出したい」と語っていたが、吉田のことを何も知らない海外の人々に対しては、10分弱のショーで心を掴む必要がある。愛されるキャラクターゆえにさまざまな人々が寄り添いたくなってしまう吉田。彼らの力を借りつつ、世界中の人々がどんな思いが込められているのか知りたくなるようなコレクションづくりに邁進していってほしい。

Photos: Courtesy of KEISUKEYOSHIDA  Text: Itoi Kuriyama

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