だんじり彫師の新星──いま、世界に届けたいジャパン・カルチャー

日本を代表する祭り「だんじり祭」の本場、大阪府岸和田市で、そのだんじり(山車の一種)に木彫りを施す若き職人がいる。彼がだんじりに魅せられた理由とは?

「小学校6年生のときに地元、大阪の富木のだんじりが新調されることになり、そこでだんじりの職人が存在することを知ったんです。新調されただんじりを見て、すごく感動して、いつか自分も作ってみたいと思うようになりました」

物心がついた頃からだんじり祭に参加していたという木彫師の古澤知貴さんは、中学校を卒業して、15歳で地元の職人のもとへ弟子入りし、道具研ぎからスタートして、23歳で独立した。現在32歳、この業界では最年少の木彫師のひとりだ。

「だんじりは樹齢約400年のケヤキの原木の買い付けから、数年の乾燥と製材、2〜3年の木彫までを含めて約10年、そして約1億円かかる作品です。100年に1回新調したり、30年にいちど脆くなった部分を改修したりする、各町会にとって特別なものなんです。関西全土に約1000台のだんじりがあるといわれ、なかには100〜200年前のだんじりも存在しているんです」

大阪府にはだんじりを作ったり、修理したりする工務店が10社ほどあるとされ、それぞれ異なるデザインをもっている。基本的には、鳥や花、日本神話や戦記物語の場面、龍や獅子といった霊獣などの世界を、鑿のみと玄能(かなづち)を使って木の中に表現する。そのなかで古澤さんが目指す表現とは?

「リアルすぎるとミケランジェロの彫刻のようになってしまうし、誇張しすぎると漫画っぽくなってしまう。浮世絵のようなデフォルメ感によって、だんじりらしさが生まれます。浮世絵師が描いた武者絵や過去のだんじりを参考にしながら、図柄の構図や動きに自己流のアレンジを加えています。目力や目線、距離感などにこだわり、まるでその登場人物が生きているかのような迫力を生み出したいんです」

大阪府和泉市阪本町町会のために作ったアマビエの彫物。コロナ禍で祭りが延期になり、子どもたちが悲しんでいることを知り、疫病退散を願って作った。だんじりの歴史上、アマビエは彫られたことがなかったが、だんじりの図柄においてポピュラーな江戸時代のもの(アマビエは1846年に出現したとされる)であることから製作を行った。高さ約30センチ。

ある男性が五月人形として孫へプレゼントするために依頼した酒田怪童丸(金太郎)のだんじり。男の子の健康を祈る験担ぎのデザインが施されている。高さ約45センチ。

古澤さんにとって、だんじりの魅力とは?

「たんなるものづくりではなく、時間をかけて作った彫物が、だんじりに組み込まれて、祭りで走る……。僕にとってはそれが魅力です。だんじりを知らない人には、実際に祭りの魅力を体感してほしいし、小学校6年生の僕が、新調しただんじりを見て覚えた、あのときの感動を味わってほしいんです」

自分の作品を認知してもらうために作り、作業場に飾っていた天慶の乱・平将門の彫物。それを見て気に入った男性が買い取り、その男性が属する町会がその地域のだんじりの製作を依頼してくれたという。高さ約40センチ。

古澤知貴

だんじり木彫師

1989年、大阪府高石市富木生まれ。幼い頃からだんじり祭に触れ、中学校の進路相談をきっかけに担任教師の手助けで地元、富木のだんじりを製作した職人に弟子入りする。現在は1年に3〜4台のだんじりを修理し、3〜4年をかけて1台のだんじりを新調している。

PHOTOGRAPHS BY SHINRYO SAEKI 

WORDS BY YASUYUKI SHINOHARA @ GQ