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泣いて、笑って、吹っ切れて! 思わず共感、「別れ」を描いた名作映画11選。

冷え切った恋愛、家族関係のもつれ、パートナーシップの終わり……。映画はときに、別れの経験を乗り越えるための良きサポーターになってくれる。コメディタッチの復讐劇から離婚をバネに自立する女性の物語まで、別れがテーマの11作品を通じて、悲しみや怒りを一気に吹き飛ばそう!
『新婚道中記』(1937)

『新婚道中記』(1937)U-NEXTにて配信中。 Photo: Everett Collection

『我輩はカモである』(1939)、『めぐり逢い』(1957)などを世に送り出した名監督、レオ・マッケリーが手がけた『新婚道中記』(1937)は、ハリウッドにおける元祖コメディ映画だ。

上流階級のジェリー&ルーシー・ウォリナー夫妻(ケーリー・グラントとアイリーン・ダン)は、互いの浮気を疑い合い、離婚を決断する。離婚が成立するまでの90日の間に、それぞれ新しい相手を見つけるのだが、物語がクライマックスに向かうにつれ、すれ違いが引き起こした酷な真実が明らかになる。

『結婚しない女』(1978)

『結婚しない女』(1979)dTVにて配信中。Photo: Everett Collection

浮気した夫(マイケル・マーフィー)に去られたマンハッタンに住む妻、エリカ・ベントン(ジル・クレイバーグ)の変わりゆく心境を描いた、ポール・マズルスキー監督の『結婚しない女』(1978)。エリカはカウンセラーに通い、傷心を癒しながら、友人や娘(リサ・ルーカス)、そしてハンサムなアーティストのソール(アラン・ベイツ)と時間をともにすることで、独身の喜びを改めて実感するようになる。

そんなエリカは、当時のニューヨークの女性たちにとって自立した女性の象徴として憧れの存在となった。2010年に『ニューヨーク・タイムズ』紙の映画評論家、ジャネット・マスリンが説明するように、本作の最大の見どころはエリカ役のジル・グレイバーグであり、事実、彼女の代表作となった。

「(エリカは)ダイアン・キートンのような鋭さや、ジェーン・フォンダのような強さ、そしてメリル・ストリープのような適応力は持ち合わせていなかったかもしれないが、人生の変化をゆっくりと受け入れ、自らも変化することのできるリアルな人間らしさがあった。そんな親しみのある役を作り上げたジル・グレイバーグを賞賛する」

『クレーマー、クレーマー』(1979)

『クレイマー、クレイマー』(1979)U-NEXTにて配信中。Photo: Everett Collection

「『クレイマー、クレイマー』が、もし夫婦どちらかの視点に偏ったものだったなら、これほどの名作にはならなかっただろうし、ストーリーの奥深さや興味深さも半減していただろう」

『クレイマー、クレイマー』(1979)の公開直後に、名映画評論家のロジャー・イーバートはこう評価した。本作は、1977年に出版されたエイブリー・コーマンの小説をもとに、監督兼脚本家のロバート・ベントンが手がけた。

関係が破綻した夫婦、テッド(ダスティン・ホフマン)とジョアンナ(メリル・ストリープ)を中心に物語が進む本作は、それぞれ学ぶことが多いキャラクターだ。劇中でその理由は深掘りされないが、結婚生活の終わりを感じたジョアンナは、一人息子を残して自分探しの旅に出る。一方で、突然息子との二人暮らしを余儀なくされたテッドは、父親になることについて学んでいく。中でも、テッドと息子がフレンチトーストを作る場面とアイスクリームを食べるシーンは象徴的で、テッドの父親としての成長を巧みに描いた映画史に残る名シーンだ。不朽の名作『クレイマー、クレイマー』は、1980年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞を受賞した。

『心みだれて』(1986)

『心みだれて』(1986)Amazon Primeにて配信中。Photo: Everett Collection

作家兼脚本家のノーラ・エフロンが1983年に出版した同名の小説を映画化した『心みだれて』(1986)は、ウォーターゲート事件に関わっていたジャーナリストのカール・バーンスタインと、ノーラ自身の離婚劇を描いた作品だ。マイク・ニコルズを監督に迎えた本作で、フードライターのレイチェル・サムスタット役(名前は変えているがノーラがもとになっている)をメリル・ストリープが、政治コラムニストで不倫を暴かれるマーク・フォアマン役(同じくカールが元ネタ)をジャック・ニコルソンが演じている。

のちにノーラ・エフロンは、映画制作の舞台裏を追ったドキュメンタリー映画『Makers: Women Who Make America(原題)』(2013)で本作の脚本執筆のきっかけをこのように回想した。

「ある日、タイプライターの前に座ってほかのことを書いていたら、いつのまにか結婚生活の終わりについての小説を書き始めていたんです。私は、女性を被害者として描くことに興味はないのですが、『心みだれて』で気に入っているのは、基本的に自分の身に起こったことを書いただけ、ということ。面白おかしく描いて、人々を笑わせて、最終的にいい気味って思わせたのは私ですから」

『ため息つかせて』(1995)

『ため息つかせて』(1995)ディズニープラスにて配信中。Photo: Everett Collection

恋愛に悩むアフリカ系アメリカ人女性4人の友情を描いたフォレスト・ウィテカー監督の名作ロマンス『ため息つかせて』(1995)は、開始20分も経たぬうちにアンジェラ・バセットが車に火を放ち、スクリーンに火を点ける。彼女が演じるのは、2児の母でケータリング・ビジネスの立ち上げを夢見るバーナディーン。夫のジョンが自分を捨て、白人の経理担当者との再婚を企てていると知ったバーナディーンは、夫の荷物をすべて車に詰め込み、灯油をかけて車ごと火だるまにしてしまうのだ。離婚裁判のシーンで彼女は多額の和解金を手に入れ、爽快かつドラマティックに結婚生活に終止符を打つ。

『ファースト・ワイフ・クラブ』(1996)

『ファースト・ワイフ・クラブ』(1996)Amazon Primeにて配信中。Photo: Everett Collection

ゴールディ・ホーン、ダイアン・キートン、ベット・ミドラーが演じる3人の女性と、それぞれを裏切った夫たちへの復讐を面白おかしく描いたヒュー・ウィルソン監督のヒット作『ファースト・ワイフ・クラブ』(1996)。「SATC」でブレイクする前のサラ・ジェシカ・パーカーマギー・スミス、ストッカード・チャニングといった豪華俳優陣が脇を固める、痛快でユーモアたっぷりなリベンジ劇だ。

映画のクライマックスではイヴァナ・トランプがカメオ出演し、3人に向けて、「Remember, don’t get mad—get everything!(訳:覚えておいて。怒り任せず、すべてを奪うのよ!)」と、本人の私生活を彷彿させるような名台詞を言い放つ。復讐が見事成功し、鬱憤が晴れた彼女たちの清々しい心境を表すようなミュージカル調のエンディングは本作を象徴する名シーンで、古典的な復讐劇を魅力的な作品へと昇華させている。

『イカとクジラ』(2005)

『イカとクジラ』(2005)Netflixにて配信中。Photo: Everett Collection

ノア・バームバック監督の『イカとクジラ』(2005)は、長いスランプに陥った元人気作家のバーナード・バーグマン(ジェフ・ダニエルズ)と、新進作家として注目を集める彼の妻、ジェーン(ローラ・リニー)の張り詰めた夫婦関係、そして彼らの二人息子、ウォルトとフランクの複雑な心境を巧妙に描いた作品。自身の両親も離婚しているバームバック監督自身の経験をもとにしたストーリーだが、彼は2009年のインタビューで、最初は制作を躊躇したと告白している。

「2つの対照的なことが私をこの物語から遠ざけました。まず、今や離婚は当たり前で、あまりにも普遍的だと思ったこと。また、このストーリーは私自身の家族とオーバーラップしていて、観客には響かないと感じたのです。しかしある時、そうした私情から離れてどんなストーリーになるのか想像してみたくなり、制作に踏み切りました」

『クレーマー、クレーマー』(1979)のように、本作は夫と妻を対等に描いており、二人のはざまで混乱し戸惑う息子たちに焦点を当てる。

『別離』(2011)

『別離』(2011)U-NEXTにて配信中。Photo: Everett Collection

家族の今後に異なる考えを持つ夫婦の対立を通じて、人間関係の真実や脆さ、信仰のぶつかり合いを描いた『別離』(2011)。イランの監督兼脚本家、アスガー・ファルハディによる秀作だ。

シミン(レイラ・ハタミ)は娘のテルメー(サリーナ・ファルハディ)をイランで育てたくないと主張するが、夫のナダ(ペイマン・モアディ)は病弱な父の世話があるため、イランから離れたくない。すれ違う意見の末、シミンは他国へ引っ越すことになり、ナーダーは介助者を雇うことになる。さまざまな文化的な価値観と曖昧な論理が交差する本作は、2012年のアカデミー賞外国語映画賞をはじめとする数々の賞に輝いた。

『ラブ・アゲイン』(2011)

『ラブ・アゲイン』(2011)Netflixにて配信中。Photo: Warner Bros/Courtesy Everett Collection

グレン・フィカーラとジョン・レクア監督の『ラブ・アゲイン』(2011)は、スティーブ・カレル演じる冴えない中年男性のキャルが、ある日、妻のエミリー(ジュリアン・ムーア)から浮気したことを告白され、離婚を切り出されるところから始まる。

傷心のキャルは、遊び人で本当の恋をしたことがないジェイコブ(ライアン・ゴズリング)との出会いを通じてさまざまな恋愛術を学び、再び女性とデートするようになる。しかし、新しい服を身に着け自信を取り戻しても、エミリーとの関係を取り戻したいというキャルの想いは変わらない。一方、ジェイコブも初めて本気で恋愛をしたいと思う女性に出会う。彼らのブロマンスと新旧異なる恋愛観を交え、現代のデート事情に鋭く切り込むストーリーだ。

『未来よ こんにちは』(2016)

『未来よ こんにちは』(2016)U-NEXTにて配信中。Photo: Everett Collection

前述の『結婚しない女』(1978)のように、結婚生活の崩壊ではなく破局後の心境に焦点を当てたミア・ハンセン=ラヴ監督の『未来よ こんにちは』(2016)。哲学教師のナタリー(イザベル・ユペール)は、同じく哲学教師でパートナーのハインツ(アンドレ・マルコン)から別の女性との関係を告白され、一人になってしまったことの孤独に苦悶する。しかし、時とともに独身の素晴らしさを噛みしめ、自由になった喜びに気づきはじめる。ハンセン=ラヴ監督の実母をモデルに描いたナタリーの役柄について、監督本人はこう話す。

「私たちは皆、社会の犠牲者だと定義することができます。でもナタリーは、決して自分のことを被害者だと思いたくありません。彼女は自分を憐れむことなく、真の強さを持っています。しかし、私は彼女を冷淡で無表情な女性として描きたくありませんでした。だから、夫の裏切りと結婚生活の破綻という辛い経験をしても前向きに生きようとする彼女を描きたかったのです」

『マリッジ・ストーリー』(2019)

『マリッジ・ストーリー』(2019)Netflixにて配信中。Photo: Everett Collection

アダム・ドライバースカーレット・ヨハンソンを主演に迎えた『マリッジ・ストーリー』(2019)は、劇作家のチャーリーと、女優のニコルの幸せに満ちた夫婦関係が次第に冷めていく様を描く。互いへの愛がなくなったわけではないけれど離婚に踏み切った複雑な夫婦関係を見事に描いた本作は、現実世界の別れと、それをめぐる心境をリアルに捉えている。US版『VOGUE』の映画ライターのテイラー・アントリムは、本作をこのように評した。

「夫婦はともに離婚を求めていないが、お互いを思うがゆえにすれ違いが生じ、彼らのパッシブ・アグレッシブ(受動的に攻撃性を発しがち)な性格も災いして関係性はどんどん悪化。穏便な別れだったはずが、最終的には高額な弁護士を巻き込んだ泥沼離婚劇へと発展してしまう。その一番の被害者は、夫婦のすれ違いに板挟みになってしまう8歳の息子。悲嘆にくれ、互いを傷つけあう崩壊した夫婦を見事に演じきったアダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンの演技が素晴らしい」