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海外ヘッジファンドが頼る神保町の小さな調査会社、任天堂株を左右

  • ゲームデータを配信・分析するメディアクリエイト、米や香港に顧客
  • 「スイッチ」のライフサイクルは7年、伸びしろあると細川代表

古本屋の街として知られる東京・神保町の小さな調査会社が、時価総額4兆円を超す任天堂の株価を動かしている。ゲームに特化したメディアクリエイト(東京・千代田区)は独自のデータや分析結果を顧客に提供しており、いち早く情報を得たい海外ヘッジファンドからの信頼も厚い。

  同社のデータベースは約2000に及ぶ小売店のPOS(販売時点情報管理)システムだ。これに過去の販売台数やタイトルへの注目度、季節性などの要素にアナリストの分析も加え、ゲーム機やゲームソフトの販売数を推計している。必要に応じ、直接小売店への聞き取り調査も行う。

Media Create CEO Atsushi Hosokawa Interview

細川代表取締役

Photographer: Kentaro Takahashi/Bloomberg

  任天堂のデータ公表が3カ月に一度であるのに対し、メディアクリエイトは毎週ウェブサイトで販売本数情報を無料で公開しており、市場では先行指標として受け止められている。年間2万ドル(220万円)を払えば、中古品や周辺機器のデータ、詳細なリポートの入手も可能。アナリストが持つ豊富な経験値は、投資家がデータを信頼する理由の一つとなっている。

  社員11人を率いる細川敦代表取締役(63)は、「海外の機関投資家からの問い合わせや契約は定期的に10年以上前ぐらいからある」と述べ、現在は米国を中心に香港やシンガポールなど20社以上のヘッジファンドの顧客も抱え、直接やり取りしていることを明らかにした。

株価下落局面で米ファンドが空売り

  任天堂株は全体の45%を持つ海外投資家の影響を受けやすく、2018年度第1四半期(4-6月)に6年ぶりの下落率(23%)となった際は、米ヘッジファンドのメルビン・キャピタル・マネジメントによる空売りが東京証券取引所のデータで判明した。メディアクリエイトでは顧客名を明らかにしていないが、業界では同社のデータが任天堂株の行方を左右する材料となっていることはよく知られている。

  ゲームコンサルティング会社のカンタンゲームズのセルカン・トト代表は、「メディアクリエイトのデータは世界での販売動向を予測するために使われている」との認識を示した。

  主力ゲーム機のスイッチは発売から2年が経過し、普及が進むかどうか重要な局面だ。任天堂は年末商戦後の1月に発表した決算で、今年度のスイッチ本体の販売目標を2000万台から1700万台に下方修正した。ただ、メディアクリエイトのデータから推計すると、新たな目標値は上回る可能性が高まっている。

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  細川氏はスイッチの年齢別の購入者分布について、幅広い年齢層に広がる「フラットな台形に近づいている」と指摘した。同様の形状となったのは1億5000万台を販売し、社会現象にもなった携帯ゲーム機DSで、スイッチも「伸びしろはある」と予想し、「ライフサイクルは7年、ピークは3年目」とみている。

  メディアクリエイトは1994年に創業。細川氏は「ビジネスを始める際、誰も手掛けていない先駆者になりたかった」と言い、プレイステーションやセガサターンなど新たな家庭用ゲーム機が相次ぎ登場した当時のゲーム業界に対し「魅力を感じた」と振り返る。四半世紀にわたり国内ゲーム業界の情報を提供し、昨年からは台湾と韓国にも進出した。今後は中国や東南アジアのデータ集計も手掛ける考えだ。

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