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仮想空間と現実競技の懸け橋になれるか-五輪のeスポーツ大会始まる

  • 競技は「パワフルプロ野球2020」や「グランツーリスモ」など5種目
  • 「一度遠ざかった経験者が戻ってきた」-eセーリングで知識深まる

東京オリンピック・パラリンピックのプレイベントとして「オリンピック・バーチャル・シリーズ(OVS)」が13日から順次開催される。ゲームから派生し、世界各国で人気のeスポーツを通じて、現実空間で体を動かすスポーツへの参加を促し、相互の結び付きを強めて五輪の価値を高めることなどが狙いだ。

  初の公式イベントとして国際オリンピック委員会(IOC)が主催し、野球、自転車、ボート、セーリング、モータースポーツの5種の競技を行う。コナミホールディングスの「パワフルプロ野球2020」やソニーグループの「グランツーリスモ」が使われる。野球は24日からオンラインで予選に入り、6月下旬にコナミのeスポーツ複合施設(東京・銀座)に「選手」を集め決勝を行う予定。

IOCがeスポーツ大会開催、「パワプロ」など5種目-5月13日から 

  世界的に新型コロナウイルス感染の収束が見通せず、五輪開催地の東京都では緊急事態宣言の期間が延長された。選手同士の接触機会が少なく感染リスクも低いeスポーツ大会開催に踏み切ることで、IOCや日本の組織委員会は7月の五輪に向けてさらに歩みを進めることになる。日程は五輪が始まる1カ月前の6月23日まで。

  コナミデジタルエンタテインメントの早川英樹社長は4月26日の会見で、新型コロナ禍で人と人との接触が制限される中、「オンラインでつながる文化が世界的に再認識されている」と指摘。大会開催により「野球とeスポーツ両方の魅力を届けたい」と意気込む。

  世界野球ソフトボール連盟のリカルド・フラッカリ会長も、eスポーツは「現実であり成長分野だ。スポーツ業界にとってこれまで以上に重要だ」と訴えた。

Inside Taipei Game Show

グランツーリスモの競技者(台北)

Photographer: Billy H.C. Kwok/Bloomberg

  OVS開催はIOCが2月にまとめた新たな戦略的ロードマップ「オリンピック・アジェンダ2020+5」に沿ったもので、ビデオゲームと現実空間のスポーツとの関係性の追求などを目指す。eスポーツは2022年のアジア大会で初めて正式競技となる予定で、日本eスポーツ連合(JeSU)は五輪正式種目への採用を視野に支援活動を行っている。

  2020年度eセーリングナショナルチームのキャプテンを務めた松浦夏樹氏(39)は、コロナ禍で所属企業のヨット部の活動が停止して以降eセーリングに熱中した。仮想体験により競技への理解や知識が深まり、「一度遠ざかった経験者たちがセーリングに戻ってきてくれるきっかけにもなった」と話す。

  eセーリングは18年から世界セーリング連盟主催の競技会が始まり、20年9月には日本初の全国大会も開催された。eセーリングの専門家であるトーマス・ビヨルン・リュティ氏もeセーリングの普及が「新たなセーラーの獲得」につながる相乗効果に期待する。

  eスポーツを巡っては、選手の競技活動を後押しする環境も整いつつある。日本では18年にプロライセンス制度が導入され、15歳以上の選手は国内大会でも高額賞金の獲得が可能になった。新型コロナの感染拡大を受けた巣ごもり需要により、eスポーツの選手基盤となるゲーム人口も厚みを増してきた。

五輪出場も夢じゃない、ライセンス導入で広がるeスポーツの可能性

  三菱UFJリサーチ&コンサルティングの大垣俊朗氏は「eスポーツは地域振興や教育現場にも活用されるなどポテンシャルがある」と分析。ゲーム障害や法的課題をクリアした上で、「プロチームの育成や大会の配信、観客動員などへの投資が進むにつれて」日本の国際競争力も高まっていくとみている。

  オランダの調査会社ニューズーによると、放映権収益やスポンサー収入を含む21年の世界のeスポーツの市場規模は、前年比15%増の10億8400万ドル(約1180億円)となる見込み。パリ五輪の開催が予定される24年には16億1800万ドルに拡大すると予想している。

  エース経済研究所の安田秀樹シニアアナリストは、OVSを通してゲームが一般の人たちにとってより身近な存在になれば、将来的にゲーム業界の「収益に結び付くことにはなると思う」と指摘する。

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