【サッカー・ワールドカップ特集】本田圭佑、中田英寿、長谷部誠など、日本代表を空港でキャッチ!──“一流”はスーツの着こなしに表れる

W杯を戦う選手たちにとって、空港からすでに勝負は始まっている!ファッションディレクターの森岡弘さんをゲストに、"日本代表と空港のスーツ"を考える。
【サッカー・ワールドカップ特集】本田圭佑、中田英寿、長谷部誠など、日本代表を空港でキャッチ!──“一流”はスーツの着こなしに表れる
Rodrigo Reyes Marin
JFA

揃いのスーツスタイルで身を固めた集団が、颯爽とジェットから降りる。マスコミがフラッシュを焚き、チームは大歓声を浴びる─。空港でのこんなシーンは、W杯という国際大舞台に日本代表がコンスタントに出場するようになってからはおなじみの光景だ。

ダンヒルが、サッカー日本代表のオフィシャルスーツサプライヤーとなったのは2000年。それ以前の報道写真などを見ると、どうやら国際大会の際に、選手たちは普段着で移動することもあったようである。日本サッカー界は1998年に初のW杯を経験し、2002年の日韓共催大会を控えていた時期。プロサッカーリーグもなく、W杯にも出たことがないアジアの弱小国ではなくなっていた。日本代表には、欧州の強豪国にも引けを取らない「世界基準で戦える、洗練された集団になること」が、急速に求められていた時期とも重なる。揃いのスーツは必要アイテムだったのだ。

以後、日本代表はダンヒルを身にまとい戦うようになった。構築的な英国のスタイルをベースに、しなやかさも取り入れ、凛とした立ち姿を手に入れた日本代表は、来るカタール大会が、W杯出場6大会目、というなかなかの強豪に成長した。

「欧州ではチームがスーツを着て写真を撮る。そういう文化があります」と語るのは、ファッションディレクターの森岡弘さん。過去には野球の「侍JAPAN」など、アスリートのスタイリングを数々手掛けてきた人物だ。たしかにイタリア代表やフランス代表、イングランド代表など、長い服飾の歴史がある強豪国の選手が揃いのスーツを着こなしている姿は、見る者に力強い印象を抱かせる。

「スーツは正しく装うと補正要素が強く、誰でもかっこよく見せることができる洋服。アスリートは体が出来上がっていますから、スーツが似合わないわけがないんです。しかも、チームのスーツは集団で着ることを前提にデザインされていますから、数が多く揃えば揃うほどかっこいい。〝この人たちは強い集団なんだ〟という印象を与えることができます」

ダンヒルはこのオフィシャルスーツを「勝負服」というキーワードを使って表現している。なるほど、選手たちにとっては空港からすでに勝負は始まっているというわけだ。

では、スーツの着こなしにおいて、歴代の代表選手でもっともスキがないのは誰なのだろう。

「このなかでは川島永嗣選手がいちばんですね。フィッティング、丈のバランスにも気を遣っているのがわかりますね。タイトなものを着ているわけではありませんが、とてもシャープに見えます。ネクタイも本人が結んでいるはずですが、きちんと綺麗にノットをつくっています」

川口能活選手、長谷部誠選手も良いですね。押さえるところをしっかり押さえ、様式美を崩していない。同じ姿の人が多いほどかっこよく見えるようにデザインされているわけですから、〝自分のためだけに着ているわけではない〟という意識をもつことが大事だと思うんです。やはりキャプテンをつとめたり、チームのまとめ役になったりするような人たちは、まわりも見えているのでしょう」

とはいえ、彼らが若いころのスーツ姿を見ると、はじめから完璧な着こなしを身につけていたわけではないようだ。

「若いころは首もとからシャツの第1ボタンが覗いていたり、ネクタイの長さが中途半端だったりします。川島、川口、長谷部選手らはみな、代表での国際舞台はもちろん、海外で選手生活を送り、高いレベルで揉まれてきた人たちです。厳しい環境で選手として人として成長するなかで、身だしなみも身についたのではないでしょうか」

一流選手は着こなしも一流、ということか。そういえば歴代の日本代表には、中田英寿本田圭佑など異端児的なキャラクターをもった選手たちもいた。金髪にサングラスがトレードマークの彼らは、集団の様式美のなかで足並みを乱しているのでは?と思われがちだが、どうなのだろうか。

「本田圭佑選手を見ていると、服の着方は上手です。丈やフィッティングをしっかりと合わせ、ネクタイもきっちり。これ見よがしな部分がなくはないけれど、押さえるところは押さえているんです。中田選手も同じです。彼らの横にはもう一人の自分がちゃんといて、自分を客観視できているように感じます。着こなしの基本的な部分を崩していないから、髪の色だとかサングラスだとかが、むしろ個性として際立ってくるのです。本田選手などは、そうやって自分を見せ切れている。逆に言うと、そういうことをやっても許される人です。掟破りをどこまでできるかは、ファッションの面白さでもあります」

自分を見せることは、ファッションがもつ大きな力のひとつだ。森岡さんは、惨敗だった2006年ドイツW杯帰国時の、誰もネクタイをせずにうなだれているチームの写真を見て「こういう時こそ、スーツの力に頼ればいいのに」とこぼした。心情は察するが、どこか頼りなく、惨めに見えてしまう。日本サッカーがまだ世界と遠かった時代。精神的に成熟していなかったのかもしれない。期待された2014年ブラジル大会のザックジャパンはグループリーグ敗退に終わったが、このときは皆、きちんとネクタイをしていた。

今年のW杯は変則スケジュールのため、例年のような凱旋帰国が見られるのかはわからない。しかし選手たちにとって、勝負は空港からすでに始まっている。それはいつもと変わらないはずだ。

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代表選手にとって、空港はピッチとは違うもうひとつの晴れ舞台。歴代の代表のスナップから、とくに着こなしがキマっているショットを厳選してお届け。スーツ姿だと、キャラクターの違いが顕著に見えてくる!?

1. いつも完璧な着こなしを見せる川島永嗣。ブラジル大会大敗後も堂々とした姿。

Nikkan Sports

2. しっかり袖からシャツを覗かせる川口能活。南アフリカ大会ではチーム年長者の一人だっただけに着こなしもキッチリしていた。

Nikkan Sports

3. 中田英寿はやはりイタリアで磨かれたのか、スーツの着方を知っている印象。

4. 惜敗したロシア大会後。長谷部誠のスーツ姿はキャプテンらしい清潔感と信頼感を両立。大会後の代表引退を表明していた。

Rodrigo Reyes Marin

5. 2006年大会時の宮本恒靖。袖丈の取り方やネクタイの結び方もお手本的。

ゥ Kimimasa Mayama / Reuters

6. アルベルト・ザッケローニはさすがイタリア人だけあり、タイの結び方もこなれ感たっぷり。

AFLO SPORT

7. 現キャプテンの吉田麻也も欧州で揉まれただけあり、ボリュームのあるネクタイの作り方などは堂に入っている。

Rodrigo Reyes Marin

8. ややバッグの持ち方がヤンチャだが、Vゾーンはきっちりしている大久保嘉人。

Rodrigo Reyes Marin

9. 南アフリカ大会でベスト16入りを果たして凱旋帰国。本田圭佑はやや短めなネクタイだけが残念。遠藤保仁はいつも通りのラフな着こなし!?

Nikkan Sports

10. スーツの基本をしっかり押さえた本田圭佑。それでこそサングラスなどの小物が活きる(ロシア大会時)。

Rodrigo Reyes Marin

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