政策変更、賃金より持続・安定的な2%見込めるかで判断-植田氏
伊藤純夫、藤岡徹-
コスト高の賃金やインフレ期待への波及、総需要の強さも必要
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植田総裁は4月の就任後初めて共同インタビューに応じた
日本銀行の植田和男総裁は25日、金融政策運営で重視しているのは賃金よりも物価上昇だと述べ、政策変更はあくまでも持続的・安定的な物価2%の達成が見込めるかで判断する考えを示した。4月の就任後初めて、ブルームバーグなどとの共同インタビューに応じた。
総裁は物価の基調を判断する上で賃金は重要な要素としつつも、「賃金そのものを目標にしているわけではない。政策判断のポイントは持続的・安定的な2%に達することが見込まれるかどうかだ」と説明。2%を下回る水準でも政策変更する可能性を問われ、「コンマ幾つの差がものすごい重要というよりは、物価上昇率が持続的・安定的かどうかの判断の方が重要になる」と語った。
今回の総裁発言は一定の賃金上昇が目標達成や政策変更のための前提条件ではないことを示唆している。政策判断のタイミングをより柔軟に考えていく余地を残した格好だ。
日銀が大規模緩和の維持を決めた4月の金融政策決定会合では、政策金利に関するフォワードガイダンス(指針)を廃止する一方、「賃金上昇を伴う形」での物価目標実現を指針に盛り込んだ。これを受け、賃金の持続的な上昇を見極めるまで日銀は政策変更を行わないのではないかとの観測が広がっていた。
総裁は指針で賃金上昇に言及したことに関しては、「持続的・安定的な2%の物価上昇という状態では、当然賃金も上がっているはずであり、今回明示的に書いた」と説明した。
全国の物価の先行指標となる5月の東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比3.2%上昇と前月の3.5%上昇を下回り、2カ月ぶりに伸び率が縮小した。食料品の高い伸びが続く一方、政府対策などに伴う電気代を中心としたエネルギー価格の下落が下押し要因となった。
5月の東京消費者物価3.2%上昇と伸び縮小、電気代が大幅下落
日銀はコアCPI上昇率が輸入物価の鈍化などを背景に2023年度半ばにかけて2%を下回る水準に鈍化するとみている。その後は再びプラス幅を拡大していくと見込むが、総裁は「自信がない。もう少し丁寧にみたいという判断が続いている」と指摘。基調的な物価を規定する需給ギャップやインフレ期待の動き次第で「ボトムが早まったり、遅くなったりということだと思う」と語った。
現在のコストプッシュに伴う物価上昇が、賃金やインフレ期待の上昇を伴う二次的な波及につながるかが重要との認識も示した。その上で、持続的な物価上昇や二次的な波及が生じるには「ある程度、総需要の強さも必要だと思う」と述べた。
総裁は19日の講演で、金融政策の拙速な転換によって「ようやく見えてきた2%達成の芽をつんでしまうコストは極めて大きい」と緩和継続姿勢を改めて強調した。底堅い米国経済や米金利の先高観もあり、外国為替市場で再び円安が進んでおり、25日の海外時間には昨年11月以来の1ドル=140円台まで下落した。
米経済は「ひと頃に比べると成長率は低下しているが、それでもかなり堅調に推移しているというのが実感だ」と指摘。現在の為替相場は円安としながらも、影響は経済主体によってさまざまだとし、「為替はファンダメンタルズに沿って安定的に推移することが望ましい」と述べるにとどめた。
パイロット実験の段階に入っている中央銀行デジタル通貨については「導入するかどうかは日本銀行だけでは決められず、国民的な議論の中で決まってくるものだと考えている」と説明。導入に際しては、技術的なプラス面とともに、「現在の金融システムの安定性を脅かさない、両方に気配りすることが重要だ」と語った。
戦後初の学者出身の植田総裁は、在任期間が歴代最長の10年余りに及んだ黒田東彦氏の後任として4月9日に就任した。日銀に出勤し、毎日、金融や経済について考えることは「面白い」としつつ、調べものをするために本屋などに「自由に行けなくなった」ことが学者時代との違いという。
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