グッチ(GUCCI)の新作ハイジュエリーコレクションが、イタリア・フィレンツェで発表された。フィレンツェといえば、言わずと知れたグッチ生誕の地。今回発表に用いられた市内のパラッツォ・セッティマンニは、1951年にグッチの創設一家によって買い取られ、ブランド100周年を迎えた2021年にアーカイブを保管、展示する目的で改装された施設だ。
イタリア語で「生きる喜び」を意味するアレゴリアを名に冠した「グッチ アレゴリア」では、グッチが体現する、壮麗なイタリアンラグジュアリーを四季になぞらえて表現した160点もの作品が揃った。今回は、中でもとびきりの豪華さ、そして高い技巧性が目を引く5点のネックレスを紹介する。
目に飛び込んできた瞬間、思わず「どひゃ〜」と声が出たネックレスは、マハラジャをイメージしたもの。一石一石、それぞれカクテルリングのセンターに使ったとしても十分過ぎるほどの存在感があるスペサルタイトガーネット、ピンクトルマリン、そしてイエローベリルを、これでもかというほど詰め込んでいる。
石の大きさばかりに目を奪われるが、よく見ると立て爪には色鮮やかな七宝(しっぽう)を施している。聞くと、このパーツのためだけに専門の工房に発注しているそうだ。アレッサンドロ・ミケーレの時代から受け継がれた「モア・イズ・モア」の精神を宿したマスターピースだ。
こちらも巨大なトップのカラーストーンが存在感を放つ作品。ボッティチェッリの名画「ヴィーナスの誕生」をイメージしているという。黄金の輝きを放つインペリアルトパーズに合わせ、ネックレス部分にはホワイトとゴールドのタヒチ産パールを合わせた。
ディテールにも注目してほしい。センターストーンを取り巻く台座には、先ほどと同様の七宝の装飾。そして側面には、ペアシェイプのダイヤモンドを交互にセットしている。着用している人だけがその美しさを楽しむことができる、そんなロマンティシズムが随所に感じられるのがグッチのハイジュエリーの特徴だ。
次から次へと大きな石が登場するが、息継ぎは適宜して欲しい。95.48カラットと54.84カラットのアクアマリンを用いたネックレスだ。通常アクアマリンというと、その名の如く海のように透き通った淡いブルーの色彩が特徴だが、ブラジルのサンタマリア・デ・イタビラ鉱山で産出されるものはサンタマリア・アクアマリンと呼ばれ、深い藍の色彩が特徴だ。
ネックレス部分は、葉の葉脈を彫金で表現、ペンダントトップにはバゲットカットのダイヤモンドのフリンジが煌めく。通常ハイジュエリーでレアストーンを用いる際、メインの石を引き立てるよう周りを繊細に仕上げることが多いが、こちらはセンターストーンに負けないような個性的なデザインをかけ合わせたストロングスタイル。良いじゃないか、なんだか見ているだけで景気の良い気分になってくる。
今回のコレクションの中でも、個人的に最も心を奪われたのがこちら。センターストーンは、226.06カラットという驚異的なサイズのグリーントルマリンだ。
ネックレス部分にあしらわれた色とりどりのカラーストーンのあしらいもロマンティックだが、なんと言っても特筆すべきはディテール。ダイヤモンドが煌めく星々がオープンワークであしらわれたペンダントトップの台座を、下から覗き込むと、トルマリンの柔和な色彩がまるでステンドグラスのように下に投影されている。実際に着用し、肌の上で見たらどれほど美しいのだろうか。そんな妄想を膨らませながら、5分ほど無言で見入ってしまった。
大ぶりのカラーストーンを使った作品が続いたが、こちらは打って変わってダイヤモンドが主役のネックレス。センターは10.53カラットのヨーロピアンカット ダイヤモンドで、アンティークのジュエリーに用いられていたものをアップサイクルしたもの。現在最も一般的なラウンドブリリアン トカットに比べ、テーブル(石の天面のファセット)が小さく、ジオメトリックなカットラインが際立っている。
ダイヤモンドの周囲には、スカラップ状にカットされたオパールをセット。石の使い方からデザイン、ディテールに至るまで、オリジナリティを追求した意欲作だ。
ちなみにハイジュエリーの発表会の後には、ガラディナーが開催された。会場はメディチ・リッカルディ宮殿。荘厳な石造りの建物には、香り豊かなレモンの木が生い茂り、美しいチェロの生演奏が来場者を招き入れる。まるで現実味のない、デカダンな世界だ。
パンデミック以降、ハイジュエリーが好調だと諸処で耳にする。もちろん、投資財としての価値に注目が集まっているというコンテクストもあるが、宝石という地球が生み出した神秘の美しさは、どんな時代においても人を惹きつけてやまないのだろう。7月のパリ オートクチュール ファッションウィーク期間中には、世界中のジュエラーがハイジュエリー コレクションを発表する。また気が向いた時に、こうして記事で紹介できればと思う。