中絶の合憲性を覆す米国の判断が、男性にとっても人ごとではない理由

望まない妊娠は、関係者全員にとって大きな問題だ。
中絶 禁止 アメリカ
リプロダクティブ・ライツに関するデモ。1974年、米フィラデルフィア州ピッツバーグで。 Barbara Freeman/Getty Images

米連邦最高裁が6月24日(現地時間)に下した判断が、女性の中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆した。これ受け、今後、米国の半数の州で中絶が禁止されると予想されている。

米国で望まない妊娠をし、中絶の処置を受けられなかった女性たちのその後を調査した「ターナウェイ・スタディ」という研究がある。これによると、中絶手術を希望しても受けられなかった女性たちの多くは、その後出産。食料費や住居費などの基本的な生活費に困るほど貧しく、心身の健康の維持にも苦労するケースが多いことがわかっている。

人は、誰でも自分自身の身体と運命をコントロールする権利を持つべきだ。今回、米国でなされた判断は、女性だけではなく、男性の人生にも影響を与えるものだ。その理由を以下に挙げる。

あなたの身近な女性も、中絶をしたことがあるか、今後する可能性があり得る

アメリカの中絶の状況について記した著書を持つデヴィッド・コーエンは「男性は、身近にいる女性が中絶したことがあるかもしれないということ、また、これから中絶するかもしれないことを認識することが重要です」と語る。

アメリカの女性うち、4人に1人は、一生のうちに中絶を経験すると言われる。中絶をする典型的な女性像は、すでに子どもがいて、20代後半で、妊娠の初期段階にいる人だ。その多くはかなり貧しく、信心深い人たちだという(4人に1人はカトリック教徒)。

女性が中絶を必要とする理由には、男性が深く関わっている。それにもかかわらず、多くの女性は中絶を恥ずべき秘密にしておかなければならないと感じ、不当な負担を強いられている。

「男性はこの問題に関わるべきです。なぜなら、男性にとって大切な、愛する人々に影響を与える問題だからです」と、中絶に賛成しているカトリック教徒の団体「Catholics for Choice」の報道官であるジョン・ベッカーは語る。

中絶を手助けすると、犯罪になり得る州がある

「これからは、中絶を求める人、受ける人、手術をする人に対する、新しい取り締まりが行われるでしょう」と、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の歴史学教授を務めるレスリー・レーガンは言う。

テキサス州では「中絶の実施や誘発を援助、または教唆する行為に故意に関与した」人を、民間人が訴えることができる。オクラホマ州にも似た法律あり、ミズーリ州は、女性が中絶のために州外に行くのを手助けした人を、民間人が訴えることができる法律を推進してきた。

意図せず父親となると、人生が困難になる可能性がある

女性が中絶を必要とする最も一般的な理由は、子どもを産み、育てる経済的な余裕がないからだ。中絶できなかった女性はその後、貧困の中で生活し、政府の援助が必要になる可能性が高くなる。つまり、女性たちは自分の人生を保留にし、学校に行ったり、キャリアを積んだりする夢を、あきらめざるを得なくなるのだ。これは出産する側にとってより深刻だが、父親が受ける影響も無視できない。

「男性は、(セックスをした相手が)望まない妊娠をした後に何が起こるかを踏まえ、自分自身と正直に向き合う必要があります」と話すのは、シンシナティ大学の社会学教授、ダニエル・ベセットだ。

「中絶は、男女どちらにとっても大きな恩恵です。自分自身の将来について、自分で決断するのを助けてくれる手段なのです」とレーガンは続ける。

米国では今、中絶の権利を求める戦いが、約50年ぶりに再び始まっている。

Adapted from: GQ.COM