“大人のライダー“がメインターゲット
今春のモーターサイクルショーで注目を集めた1台、ホンダのHAWK11のメディア向け試乗会が山梨県・山中湖畔を起点におこなわれた。
HAWK11は水冷1082cc直列2気筒エンジンを搭載したスポーツモデル。最大の特徴は「ロケットカウル」と呼ぶフロントフェアリングが目を惹く、ネオクラシックなデザインだ。1960〜1970年代のレーシングマシンをモチーフにしたカフェレーサー・スタイルで、40、50代以上のライダーには懐かしく、若者には新鮮に映るだろう。
“ネオクラ”なコンセプトはその車名からも見て取れる。“ホーク”という名前は1977年にホンダが発売したCB400T「ホークⅡ」から引用したものだ。ベテランライダーなら「おっ!」 と引っかかるネーミングであり(僕も教習車がホークⅡだった)、それに排気量の「イレブン」を組み合わせて「HAWK11」というわけである。
と、ここまで解説した時点でHAWK11がオヤジ……もとい“大人のライダー”をターゲットにしていることが窺えるが、プレス試乗会のプレゼンテーションでは、開発スタッフからそのことがずばり伝えられた。
「若い頃から趣味としてバイクを乗り継ぎ、いつの間にか“上がりのバイク”が視野に入る年齢になった。そんなベテランのライダーに向けたモデルです」
「創りたかったのは“凄いバイク”ではなく、半日の自由を見つけ、出かけるのが楽しいバイク。バイクと付き合える時間を熟知した大人のライダーの琴線に触れるモデルを目指しました」
もう完全にオヤジ……もとい“大人のライダー”専用、という勢いである。もろターゲット世代の筆者としては、「メーカーから“上がりのバイク”を決められたくなんてないね」、とちょっとした反発を感じたものの、そこまで言われたら「どんなもんか……」と気になるのも心情だ。
クールで都会的な印象
HAWK11にはモーターサイクルショーでの展示やカタログに使われている“推しカラー”の「パールホークスアイブルー」と「グラファイトブラック」の2色があり、今回試乗したのはシルバーとブラックを組み合わせた「グラファイトブラック」だった。
全体にクールで都会的な印象で、ロケットカウル部分のシルバーがよりネオクラ感を強め、個人的にはこちらのほうが好みだった(現時点での受注比率はほぼ半々だという)。
あらためて屋外、自然光の下で見ると、とてもカッコいいデザインだと思った。フロントフェアリングから燃料タンク、シート、テールに至る水平基調のラインは、余計な装飾がなくシンプルで美しい。ロゴもタンクに「HONDA」、サイドカバーに「HAWK11」とごく控えめに記されているだけだ。
このシンプルなスタイルに寄与している要素のひとつがバックミラーの取り付け位置である。カウルをマウントするステーから“生える”ように伸び、ハンドルの下側にミラーが位置するという独創的なものだ。
取りまわしの造形や視認性について賛否両論あるかもしれないが、スポーツバイクにおいて問題となりがちな「バックミラーがデザイン上、邪魔になる問題」について、新しい解決方法を模索しているのが伝わってくる。とくにサイドから見たときはバックミラーが目立たないよう隠れていて、悪くないと思う。
HAWK11はエンジンおよび車体をアドベンチャーモデルの「アフリカツイン」と共用してつくられている。さらに詳細に言えば、車体はアフリカツインをベースにオンロード向けに仕立てた「NT1100」のフレームおよび足まわりを基本にしている。
しかし跨っての印象は、アフリカツインともNT1100ともまるで違っていた。シート高は820mmとアフリカツイン/NT1100とほぼおなじであるが、車体がスリムなため両車より足着きがいい。身長173cmの筆者で両足のかかとがギリギリ地面に着くというところだ。おそらく165cm以上の身長があれば不安を感じることはないだろう。
ライディングポジションは適度な前傾姿勢だ。 “ベテラン向け”ということで正直、もう少し安楽なポジションなのかなと思っていたら、そこまで緩くはなかった。先に紹介した「半日出かけるのが楽しいバイク」というコンセプト通り、ショートツーリングにおいて心地いい充足感、疲労感が得られるポジション、というところだろう。
ヤル気を刺激するスポーツバイク
走り出すとすぐ、エンジンの素性のよさを感じる。アフリカツインで定評のあるパラレルツインは、どの回転域からも必要なだけのパワーとトルクを引き出せるフレキシビリィ、下から上まで淀みなくまわるスムーズさが美点であるが、とはいえ実直なだけの味気ないエンジンというわけではない。
ドコドコドコ……とツインらしい鼓動を感じさせ、アクセル操作に対する反応もリニアで気持ちいい。跳ね上げられたマフラーから吐き出される排気音も歯切れよく、気分を盛り上げてくれる。ちなみに最高出力102PS/7,500rpm、最大トルク104Nmというスペックはアフリカツイン/NT1100と同等だ。
トランスミッションは6速マニュアルを採用する。アフリカツインおよびNT1100にはクラッチレバーやギアペダル操作が要らないオートマのDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)が用意されるが(NT1100はDCTのみ)、HAWK11はこのモデルのキャラクターゆえかMTのみ。
そのメリットは大きくふたつあり、ひとつは車両重量だ。アフリカツイン/NT1100ともDCTモデルは約250kgであるが、おなじエンジンを積むHAWK11は214kgと軽い。もうひとつは価格で、アフリカツイン(163.9〜205.7万円)とNT1100(168.3万円)に対してHAWK11は139万7000円(税込)と、25〜30万円ほど安い。これはMTのみに絞った恩恵である。
富士五湖周辺のワインディングロードを含む1時間ほどの試乗は、あれこれ確かめながらのテストライドというより、気持ちよく走ってしまったというのが正直な感想だ。さすがホンダ謹製カフェレーサーであり、ハンドリング、ブレーキ、乗り心地など、走らせていて「あれ?」と気になるようなところはない。
丸形1眼のデジタルメーターも表示が明らかに大きく、思わず「老眼仕様か!」と口惜しくなったが、見やすくストレスがないのは事実である。
ひとつあるとすれば、やはりハンドルの下に位置するバックミラーの違和感だろう。後方視認性は確保されているが、いつもあるべきはずの場所にないので、どうしても一瞬ミラーを探す、ということになる。もちろん慣れの問題でもあるだろう。デザインとのトレードオフと考えれば、僕は許容できるという気がした。
開発陣からは“上がりのバイク”というコメントもあったが、試乗した感想では、「まだ上がらない」意思をもつライダーが乗るべきバイク、という気がした。上がりというほど安楽ではなく、むしろヤル気を刺激するスポーツバイクであり、ついでに言えばオヤジライダー専用ではく、若いライダーにも受け入れられると思う。まあ若者がポンと買える価格ではないが。
もうひとつ魅力的に思えたのは、造形美のためにFRP一体成型したというロケットカウルに象徴されるように、全体にカスタムバイク的な雰囲気が漂っている点。ホンダという巨大メーカーがつくるプロダクトとしては貴重な存在であると感じられた。
願わくばこのHAWK11をベースに社外メーカーを巻き込んだカスタムシーンが活性化すれば面白いと思う。そうすれば二輪業界全体が“上がる”のではないかな?
文・河西啓介 写真・安井宏充(Weekend.)