15年目の集大成──日産GT-R・プレミアム・エディション・Tスペック試乗記

日産が誇るスポーツカー「GT-R」に設定された特別限定モデル「プレミアム・エディション・Tスペック」に今尾直樹が試乗した。生産終了間近とも噂されているGT-Rの魅力とは?
15年目の集大成──日産GTR・プレミアム・エディション・Tスペック試乗記

Tスペックの“T”とは?

2007年に登場したR35型日産GT-Rがついに最期を迎えようとしている。2022年は終わろうとしているのに、2023年型の日本仕様の発表はされていないのだから(北米市場向けはされた)、すでに生産を終了しているかもしれない……あとは日産の公式アナウンスを待つばかり。

そういうなか、『GQ JAPAN』編集部のイナガキくんが日産広報からGT-Rプレミアム・エディション・Tスペックを借り出してきた。15年におよぶR35GT-Rの最終進化形態のひとつである。

【主要諸元】全長×全幅×全高:4710×1895×1370mm、ホイールベース2780mm、車両重量1760kg、乗車定員4名、エンジン3799ccV型6気筒DOHCガソリンターボ(570ps/6800rpm、637Nm/3300〜5800rpm)、トランスミッション6DCT、駆動方式4WD、タイヤサイズ フロント255/40ZRF20、リア285/35ZRF20。

「T-spec」という名称についてメディア向けリリースでは「『時代を導くという哲学』であり、GT-Rの在り方や、その時代を牽引するクルマであり続けるという願いを表現した『Trend Maker』と、『しっかりと地面を捉え駆動する車両』という開発におけるハードウェアへの考えを表した『Traction Master』から名づけました」と、記されていた。

2022年モデルとして、2021年9月に発表された、限定100台の特別仕様車がTスペックである。あまりの人気に結局120台程度がつくられ、購入者は抽選で決められた。倍率は40倍だったといわれている。当たったひとは宝くじが当たったような気分だったろう。ネットにはいま、その中古車が、シェーっと4000万円ほどで売りに出ている。

Tスペックの“T”は、公式には「トレンド・メイカー」と「トラクション・マスター」の意だとされている。ベース・モデルとTスペックの違いは? というと、次のようになる。

内装は専用カラーを採用。

まずもって、Tスペックには2種類ある。GT-Rのカタログ・モデルの、グランツーリスモ志向のプレミアム・エディションと、走行性能志向のトラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモをベースに、それぞれにTスペックがつくられたからだ。

ふたつのTスペックに共通しているのは、専用カーボン・セラミック・ブレーキと、カーボン製のリア・スポイラー、ゴールドに塗られたエンジン・カバーと、もうひとつ、“T-spec”と書かれたバッヂである。

GT-Rのシートは運転席と助手席で、デザインが異なる。運転席は、コーナリング時に腿のホールド感を高めるため、座面の中央部が盛りあがった形状。座面の長さやクッションの厚さも、走行時における腰のホールド感や疲労の軽減を重視して設計されている。一方、助手席は、柔らかなクッション材とよりリラックスした姿勢で乗れるデザインとした。

リアシートはふたり掛け。トランクルームは、ゴルフバッグなら2セット、スーツケースでは特AサイズとCサイズを各1個積み込める。

で、プレミアム・エディション・Tスペックには、専用の内装コーディネーションと、ブロンズ色のレイズ製アルミ鍛造ホイール、それに専用のサスペンション・セッティングが施されている。

ブロンズ色のアルミ鍛造ホイールは、色は違うが、トラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモ・Tスペック用とおなじもので、カーボン・セラミック・ブレーキとカーボンのリア・スポイラーの採用もあって、車重は1760kgと、ベース・モデル比10kgダイエットしている。

「NissanConnect ナビゲーションシステム」は、GT-R専用チューニングによりレスポンス性を高めたタッチパネルを採用。Apple CarPlayにも対応する。

BOSEサウンドシステムには、エンジン回転数に同期して発生する不快なこもり音を、ドアスピーカーとウーファーから逆位相の制御音を出して低減するアクティブ・ノイズ・コントロールを搭載する。

GT-Rのカタログ・モデルのフロント・ホイールのリム幅は、同じ20インチでもニスモとトラック・エディションは10.0J、それ以外は9.5Jになる。つまり、プレミアム・エディション・Tスペックは、本来ならフロント・ホイールのリム幅は9.5Jのところを10.0Jに広げている。これにより、タイヤの剛性があがり、軽快でスムーズなハンドリングを実現している、とされる。

トラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモはもともとGT-Rニスモの足まわりを移植した硬派のGT-Rである。それゆえ、というべきか、そのTスペックでも足まわりについては言及がなく、代わりにカーボン製のルーフとトランクリッドを採用している。これにより、車重は1740kgと、ベースモデルより20kg軽く仕上がっている。

Tスペック専用のキッキングプレート(エンブレム付)。

センターコンソールにも専用バッヂが付く。

ご参考までに、GT-Rプレミアム・エディション・Tスペックの価格は1590万4900円。ベースのプレミアムエディションは1232万9900円だから、357万5000円高くなっていることになる。

一方のトラック・エディション・エンジニアド・バイ・ニスモ・Tスペックは1788万1600円で、ベースモデルとの価格差は324万5000円。それでルーフとリアのスポイラーがカーボンになり、カーボンセラミックブレーキも装着される。ということは、トラック・エディション・Tスペックのほうがお値打ちかも……と、筆者は思うのですけれど、どちらのTスペックも抽選に当たらなければ買えないわけだし、抽選の申し込みは2021年9月15日〜9月29日で、とっくに終わっているのだから、ま、あくまで筆者はこのように思ったというだけの話でした。

ボディカラーの「ミレニアムジェイド」は、グリーンの色調を採用。「静かな中にも存在感のある『洗練された佇まい』を表現しました」と、メディア向けリリースには記されていた。

ニッポンの自動車界の伝説

ここからが本題である。試乗したプレミアム・エディション・Tスペックは、最後のR35GT-Rにふさわしかった。わずかな台数しかつくらないというのに専用のボディ色が2色も用意されており、試乗車は「ミレニアム・ジェイド」というグリーンがかかったシルバー・メタリックが選ばれていた。

プレミアム・エディション・Tスペック専用ホイールのブロンズ色は、光の加減によってはゴールドのようにも見え、妖艶なムードを醸し出している。ゴールドというのは人間の欲望を刺激する。ホイールの内側の半分を占めようという巨大な黄色のブレーキ・キャリパーもステキだ。

専用カーボンセラミックブレーキ(NCCB:Nissan Carbon Ceramic Brake)を特別装備。

ボデイ色に合わせて、内装もグリーンが用いられている。コクピットのデザインはいささか武骨で古めかしい。でも、それがGT-Rなんだよなぁ。と思っちゃう。これもまたデザインの力というべきだろう。

スターターボタンを押すと、フロントの3.8リッターV6ツイン・ターボがひと声吠えて目を覚ます。V6ユニットの鼓動は、ポルシェ「911」の996型GT3を思い出させる。特にエンジンが冷えていると、ゴーゴーという不穏なサウンドを発する。スッゲ〜。と筆者は思わずひとりごちた。

専用エンジンカバーが備わる。

GT-Rのエンジンは、数名の選び抜かれた匠の手作業によりひとつひとつ組み上げられる。そのことを示す専用バッヂが付く。

6速のGR6型デュアル・クラッチ・トランスミッションのシフトレバーをDレインジに入れる。ガチャンコ、というメカっぽい手応えもまたGT-Rっぽい。

タイヤは前255/40、後285/35という極太超扁平の20インチで、しかもランフラットだというのに、乗り心地はものすごく洗練されている。鋼鉄の鎧を着たおサムライさんがガチャンコガチャンコ、音をたてているのに、動きはめちゃんこスムーズなのだ。

サスペンションも専用チューニングが施された。

専用レイズ製アルミ鍛造ホイールはブロンズだ。

アクセルを踏み込めば、その加速はもう、コマ落としの世界。イッツ・ゴジィーラ! GT-RのGは、ゴジラのGである。ホントはGTのGだから違うわけですけれど、そう叫びたくなる。

R35GT-Rは自動車のカタチをしたニッポンの怪獣王、キング・オブ・モンスターズなのだ。2007年に出現したときは、ゴジラというよりメカゴジラっぽくて、がちゃんごちゃんこ、ギアボックスからなのか、不思議な音がしていた。

カーボン製リアスポイラー(LED式ハイマウントストップランプ付)は、樹脂製に対して重量が約1/2となる。

それが15年の歳月を経て、最終進化形態の特別仕様車プレミアム・エディションTスペックではキング・オブ・モンスターズ・アンド・ジェントルメンへと成長していた。

アクセルを踏み込んだときの、野太いグオオオオン、グオオオオンッ! という咆哮はGT-Rの大きな魅力のひとつである。3000rpm以上まわすと、そこにキィイイイインッ! というジェット機みたいなサウンドもくわわる。

パドルシフト付きのステアリング・ホイール。

タコメーターを中央に、右上に大型シフトインジケーターをレイアウト。アルミ削り出し調の立体的なメーターリングが目を引く。

♪タカタッタッタッタカタッタ〜という伊福部昭の『怪獣大戦争マーチ』が聴こえている。

湾岸線を突っ走っていると、まるで世のなかが自分の思い通りに動いている。そんな気分になったりもする。自分をスーパーヒーローにしてくれる。痛快な、マンガみたいな感動を与えてくれるクルマなのだ。

GR6型デュアル・クラッチ・トランスミッションは、ドライバーの意思と走行状況に応じ1~6速まで自動変速するアダプティブ・シフト・コントロール(ASC)を採用した。

インパネ下部には、トランスミッションや足まわりの調整スイッチがある。

FUJITSUBO製チタン合金製マフラーは、電子制御バルブ付き。

それにしても、この素晴らしいエグゾーストサウンドが生産終了の要因になるなんて……。とは思うものの、物事にはいつか終わりが来ることもまた事実である。

GT-Rはニッポンの自動車界の伝説である。だから、いつかまたよみがえるだろう。と筆者は思う。それまで、しばしのあいだ、さようなら、GT-R。

ギャラリー:15年目の集大成──日産GT-R・プレミアム・エディション・Tスペック試乗記
Gallery21 Photos
View Gallery

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)