大胆に変貌を遂げた高級GT──新型メルセデスAMG SL43試乗記

メルセデスAMGのオープンモデルとして生まれ変わった新型「SL」に小川フミオが試乗した。
大胆に変貌を遂げた高級GT──新型メルセデスAMG SL43試乗記
Sho Tamura

4気筒エンジンを搭載

メルセデス・ベンツのSLといえば、優雅で、快適で、スポーティ。2022年10月24日に日本発売された新型メルセデスAMG「SL43」は、2.0リッターエンジンにソフトトップという組み合わせだ。ひとことで乗った印象をいうと、軽快で速い。

駆動方式は後輪駆動を継承する。

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フロントに搭載するエンジンはAMGの手が入った1,991cc直列4気筒ガソリンターボ。

Sho Tamura

メルセデスAMGが手掛けたことを示す専用プレートが付く。

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昨今、6気筒はもちろん、8気筒や12気筒まで用意されていたSLに、今回大きな変革がもたらされた。ひとつはメルセデス・ベンツSLでなく、メルセデスAMGが開発を手がけた新生SLになったテン。

メルセデス・ベンツSLというモデルは存在しなくなったし、V8エンジンもなくなった。グリルをはじめラウンド感が強くなったボディは印象的にかなり新しい。いっぽう、2プラス2のレイアウトや、後退したキャビンに、パワフルな印象のフェンダーをもったリアなどは、イメージが継承されている。

4本出しマフラーを採用。

Sho Tamura

耐候性に優れたソフトトップは電動開閉式。

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アルミニウム合金のスペースフレームシャシーに、「エレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャー」なる、低回転域から電動で過給圧を高めトルクを積みます新テクノロジー採用の2.0リッター4気筒エンジンを搭載する。

パワーは、従来のV6モデルの270kWに対して、280kWにアップ。車重は1780kgと、先代の3.0リッターV6搭載のSL400と同等だ。

最新のメルセデスモデルらしく縦型のディスプレイをセンターに設置したインパネまわり。

Sho Tamura

ブルメスターのオーディオ システムは標準装備。

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SL400と比較すると、最大トルクは500Nmから480Nmにやや低下している。ただし、今回は先述のとおり、どこからでもターボバン(ターボが作動してパワーが出ること)を得られるエレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーを装着しているのだ。

くわえて、BSGというマイルドハイブリッドシステムや、スリップロスを防ぎギアのつながりを速める「AMGスピードシフト (9段AT)」も、しっかりサポートにまわっている。

フロントシートは電動調整式。

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リアシートは狭い。緊急用か。

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荷室容量は最大240リッター。

Sho Tamura
メルセデスのダウンサイジング技術はすごい!

はたして、20Nmのトルク減をカバーして余りある感じだ。乗ると、加速の鋭さにまず驚く。最大トルクが出るのは3250rpmから、と、さすがメルセデスAMGというべきか、上までエンジンをまわす楽しみをくれるエンジンだ。かつ、ダッシュはじゅうぶんに鋭い。

とくにステアリング ホイールにそなわったロータリー式のドライブ モード セレクターをまわして、「スポーツ」あるいは「スポーツプラス」を選ぶと、「エレガントさで売ってきたはずのSLだよね?」と、びっくりさせられるのだ。

WLTCモード燃費は10.8km/L。

Sho Tamura

ホイールサイズは20インチ。

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だいたい、3.0リッター6気筒のかわりに2.0リッター4気筒なのだ。メルセデスのダウンサイジング技術には、あらためて感服させられてしまう。

エンジン サウンドのエンハンサーも作動して、かなりヤル気がかきたてられる。太いグリップのステアリング ホイールといい、やや低めのウインドシールドといい、オープンスポーツカーの魅力にあふれている。

全長は4700mm。

Sho Tamura

電子制御式9ATを採用。

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今回、ソフトトップを採用したのも私としてはおおいに評価したい点だ。おもえば、R230(2001年)で金属製電動トップが採用されたときは、ホントがっかりしたのをおぼえている。

まぁ、もともと300SL(1955年)もレースで活躍したのはクーペだったし、SLといえどもクーペよりになるのもしようがないのか、と、無理に納得した。今回はファブリックのソフトトップでオープン感が強調されたのが、個人的にはとてもいいと思う。

ステアリング ホイールはAMG専用デザイン。

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メーターはフルデジタル。複数の表示内容から選べる。

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60km/hまでは走行中でも開閉可能なトップで、サイドウインドウをおろしていても風の巻き込みは少ない。寒いときは、首まわりに温風を吹き出してくれるネックウォーマーがかなり有効だし、シートヒーターも「ハイ、メルセデス」の発語によって音声コマンドによって作動できる。ドライブの途中「ちょっとオープンで走ろうかな?」と、ふと思い立っても大丈夫。

ドライブモードを切り替えると、おもしろいぐらい明確にキャラクターが変わるのが、このクルマならではだろう。

走行モードの切り替えスイッチはステアリング ホイールに付く。

Sho Tamura

走行モードの詳細はインパネのディスプレイで確認出来る。

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スポーツモードは、可変ダンピングシステムと組み合わされたアルミニウム製ダンパーと軽量コイルスプリングで構成される新開発 「AMGライドコントロールサスペンション」と連動する。

最近のメルセデスAMGモデルに共通するといえばいいのか、足まわりがビシッと締まり、ステアリングもクイックで、スポーティな印象になる。とりわけ「スポーツプラス」モードは公道でなくサーキットで使いたいぐらいだ。サーキット用には「レース」モードもある。

Sho Tamura

個人的には「コンフォート」が好きだった。こちらは、サスペンション システムが細かく動いて、路面の凹凸にていねいに追従し、フラットな乗り心地を提供してくれる。路面からの突き上げもないいっぽう、ステアリング フィールはけっこう繊細で、クルマ好きが休日のドライブを楽しもうなんていうとき、ぴったりのクルマだなあとつくづく感心。

操縦性は楽しいが、SLで大事なスタイリングにおいては、私としてはやや不満が残った。AMG GTにつながるようなアグレッシブなフロントマスクが、SLにぴったりなのか……そこは微妙な気持ちもある。

個人的な思い入れなので、皆さんが賛成してくれるわけではないだろうけれど、私はSLというモデルはここまでスポーツ性を強調しなくてもいいんじゃないか、と、思ってきた。そのあたりは、いまは違和感があっても、メルセデスAMGの新しいコンセプトに、だんだん慣れるのかもしれないけれど。

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文・小川フミオ 写真・田村翔