松岡宗嗣が選ぶ、「性的マイノリティ」を考えるための「はじまりの5冊」【GQ VOICE】

私たちがいま直面している社会的・文化的問題について、読者とともに考えるプロジェクト「GQ VOICE」が再始動! そのはじまりの企画として、「人権・差別・新しい男らしさ・性的マイノリティ・フェミニズム・気候危機」の6項目に即して、各分野の識者に選書をしてもらった。ウェブの第3回は、ライターの松岡宗嗣さんによる「性的マイノリティ」にまつわる5冊だ。
松岡宗嗣が選ぶ、「性的マイノリティ」を考えるための「はじまりの5冊」【GQ VOICE】
森山至貴『LGBTを読み解く クィア・スタディーズ入門』筑摩書房

LGBT」という言葉は広く知られるようになったが、「自分とは関係のない、特殊な人たちの話」という認識は根強い。本書は「LGBT」をめぐる日常的な誤解や偏見を解きほぐしながら、社会が何を「普通」と捉え、それ以外を排除・序列化してきたか──実は複雑で奥深い「性」をめぐる基礎的な捉え方を、クィア・スタディーズという視座を通じて伝えてくれる。歴史や用語の解説から今日的な課題にも切り込んでおり、実用的な入門書として最適な1冊であり、読者は繊細で複雑な「性」の世界のさらに奥深くへと誘われていくだろう。

ショーン・フェイ(高井ゆと里訳)『トランスジェンダー問題 議論は正義のために』明石書店

「トランスジェンダー問題」と言われてあなたがイメージするものは何だろう。圧倒的に少数のトランスジェンダーをめぐる「問題」が、いかに当事者の声や実態からではなく多数派の想定する議題によって“談義”されているか。近年激化しているトランスジェンダーに対するバッシングの現状が、英国の様々な事例から伝えられる。そして本書では、貧困やメンタルヘルス、自死など、当事者にとっての「問題」が語られている。トランスジェンダーの「問題」について“議論”をする前にまず読んでほしい1冊。

ゆざきさかおみ『作りたい女と食べたい女』KADOKAWA

ごはんを作ること、食べること。そうしたささやかな日常の1コマにも、「女性」であることや「同性を好きになる」ことに対する世の中の「役割」や「型」が降りかかってくる。それでも、だからこそ、安心できる人とごはんを作り、食べる──その時間や空間の共有がお互いを癒し、信頼を紡いでいく──その様子に心奪われるのだと思う。社会が「普通」を押し付けてきても、誰かを納得させなくても「好きになっていいんだ」という確信を教えてくれるレズビアンの物語。読むとお腹が空く。

ジュリー・ソンドラ・デッカー(上田勢子訳)『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて 誰にも性的魅力を感じない私たちについて』明石書店

恋愛的または性的に他者に惹かれない「アロマンティック・アセクシュアル」は、特に見落とされがちな「多様な性のあり方」のひとつだ。「一時的なものさ、そのうち変わるよ」「ぴったりの人にまだ会っていないだけ」「本当の愛ならセックスをしたいはず」「性体験がなければアセクシュアルかどうかわからないはずだよ」。本書では、こうした偏見を紐解き、いかに世の中が「性愛」を前提に形作られているかを読者に突きつける。当事者やそうかもしれない人、そして非当事者の双方に向けて語りかける良書。

清水晶子、ハントンヒョン、飯野由里子『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』有斐閣

「ポリコレ」という言葉が、マイノリティをめぐる諸問題を揶揄するために用いられるのをよく目にする。社会的公正さを求めつつ、手放しに「望ましいもの」と論じることも難しい「ポリティカル・コレクトネス」について、本書では、交差しつつ異なる三者の視点から議論されている。「不快な思いをさせたなら」という謝罪、少数者の権利を認めると「押し寄せてくる」という幻想、ポリティカル・コレクトネスを考える前提として、差別をめぐる社会の構造を捉えつつ、政治的・社会的「正しさ」とどう向き合うべきか、読者とともに考える1冊。

松岡宗嗣(まつおか そうし)

ライター、一般社団法人fair代表理事

1994年、愛知県生まれ。政策や法制度を中心とした性的 マイノリティに関する情報を発信する「一般社団法人fair」代表理事。ゲイであることをオー プンにしながらライターとして活動。教育機関や企業、自治体等で多様な性のあり方に関する研修・講演なども行っている。単著『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など。

松岡宗嗣さんの著書『あいつゲイだって アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)も、「性的マイノリティ」を考えるうえで欠かせない1冊だ(編集部)。

書籍写真・長尾大吾


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「GQ VOICE」は、私たちがいま直面している社会的・文化的問題について、読者とともに考えるプロジェクトとして、2019年にローンチした。2020年8月のイベントを最後に休止していたが、このたび、本誌とウェブをまたぐ連載になって再始動! 現在発売中の12月号と連動し、ウェブでも企画がスタートする。