ウール再生の伝統が示す循環型モデル、ファストファッションへの教訓
Aaron Clark、Flavia Rotondi-
再利用生地による衣料品の需要増加、繊維廃棄物に対する意識高まる
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ウールに第二の命を与える繊維メーカーは需要に追いつけていない
マリオ・メラーニ氏は、イタリア・プラートの倉庫で廃棄されたウールのセーターやスカーフの山に囲まれて作業している。
床に折り畳まれた毛布の上に座り、ボタンやファスナー、刺しゅう、ラベルなどを手際よく切り落とし、衣服の布地まで剥ぎ取る。トスカーナ地方の同市で19世紀半ばから続く織物職人の伝統であり、使用済みウールを新しい布に変える重要なステップだ。「こうしなければごみ箱行きだ」とメラーニ氏は話す。
94歳のメラーニ氏は、60年余りにわたって「チェンチャイオーロ(ぼろ布職人)」として働いてきた。プラートには手に触れるだけで素材の構成が分かる彼のような職人に対する地元の誇りがある。
同市の衣料・繊維産業でウールのリサイクルは重要な役割を果たしており、専門企業が7000社余りある。メラーニ氏が経営する小さな家族経営企業F.lli Melani Sauro e Simone & C.もその1社だ。
プラートでは、使用済みのウールから新しい生地を作成するのに一般的に次のような工程を踏む。 手作業で衣服を剥ぎ取り、その切れ端を機械で細断する。次にそれら繊維を色別にブレンドし、好みの色合いに仕上げる。梳毛(そもう)機で繊維をほぐし、一方向にそろえた後、糸に紡がれ、織機で織られる前に品質検査を受ける。
歴史的に見ると、ウールの世界的なリサイクルは、羊毛貿易が中断した時など経済的な機会と必要性によって推進されてきた。現在では環境問題への関心が、リサイクルウールの需要を後押ししている。化学物質を伴う割高で複雑な工程を経なければリサイクルできない合成繊維よりも、主に天然繊維を再利用した衣服を消費者が求めているからだ。
ウールに第二の命を与える繊維メーカーは需要に追いつけていないと、国際羊毛繊維機構(IWTO)のダレナ・ホワイト事務局長は指摘。「これは増える傾向にある。至る所で起きている」と話す。IWTOはイタリアやドイツ、タイ、パキスタンのウールリサイクル拠点を認定しているが、リサイクル量は把握していない。
ウールは世界の繊維生産量の1%程度しか占めていないため、廃棄されたウールの衣服をリサイクルしても、世界のファッション産業が環境に与える影響を相殺することはできない。
このセクターは世界の炭素排出量の10%を占めると推定され、毎年1000億点余りのアパレル製品を生産している。これは地球上の人間一人当たり約14点に相当し、新たな服のために毎日数千万点の衣服が捨てられている。
それでもウールのリサイクル業者のアプローチは、見習うべき循環型経済モデルを提供している。気候変動対策の一環として、欧州連合(EU)は昨年、持続可能な循環型繊維を推進する戦略を採択した。
この戦略には、繊維製品をリサイクルしやすくする要件の設定や、いわゆるデジタル製品パスポートを通じて原材料、製造、リサイクルに関する情報を消費者に提供するなど、欧州委員会の今後の行動が示されている。
欧州委によれば、繊維製品の消費は、原材料使用と温室効果ガス排出の面で、食料、住宅、移動に次いでEUの環境と気候に4番目に大きな影響を与えている。
「繊維産業にはより厳しい規制が必要だ。最終消費者は、衣服がどこから来たのかをもっと意識する必要がある」と語るのは、プラートで3代続く家族経営の繊維メーカー、マンテコの共同最高経営責任者(CEO)を兄弟のマッテオ氏と共に務めるマルコ・マンテラッシ氏だ。
マンテコが「MWool」ブランドのリサイクルウールで生産する生地のバイヤーには、ケリングやLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンが含まれる。ビスコースやリヨセル、リサイクルコットン、バージンコットンなどの素材からも生地を製造しており、2022年の売上高は9700万ユーロ(約149億円)。
使用する中古ウールの品質によっては、マンテコは一部製品にバージンウールやリサイクルされたナイロン、バージンナイロンも使うことがある。また、アパレル企業が生地を裁断する際に出る端材も再利用している。
マンテラッシ氏によると、マンテコは生産工程における厳格な管理と技術革新により、リサイクルウールから高級生地を作ることができる。「循環型経済は重要だが、顧客に良い製品を提供しなければ買ってくれない」と話す。
マンテコによれば、同社のリサイクルウールは、バージンウールなど他の多くの繊維製品に比べカーボンフットプリント(温室効果ガスを二酸化炭素排出量に換算した指標)が著しく低い。
同社のMWool1キログラムを生産する際に発生する二酸化炭素換算量が0.62キログラムなのに対し、同じ量の羊毛を刈り取った場合の二酸化炭素換算量は75.8キロ。コットンの場合は4.69キロ、ポリエステルは4.31キロだという。製品のライフサイクルを通じて排出される二酸化炭素などの環境負荷物質の量であるライフサイクルインベントリー(LCI)のデータベース提供業者エコインベントのデータを引用している。
どの素材が環境に最適か特定するのは容易ではない。プロセスやサプライチェーンの影響は必ずしも比較可能ではなく、リサイクル可能性は持続可能性を評価する際に考慮すべき要素の一つに過ぎないからだ。
例えば、ウールは機械的にリサイクルできるが、その生産に関わる世界の10億頭余りのヒツジは、温室効果ガスであるメタンを含むゲップを出している。また、合成素材はリサイクルが容易でないことに加え、洗濯物からマイクロプラスチックが流出する可能性がある。これは海洋生物にとって、天然繊維では問題にならない脅威となる。
「同一条件での比較ではない」とワールドリー・ホールディングスのマーケットインパクト担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、デル・ハドソン氏は電子メールでコメント。
同社は企業がサプライチェーンの影響をよりよく理解するための素材データを構築している。持続可能性に関する主張は、二元的ではない現実の影響を反映しない可能性があるため慎重に扱うべきだと同社は指摘している。
繊維製品のリサイクルは、新しい素材の生産よりも環境負荷が低い傾向にあるが、ウールを再構成する機械的工程は、バージンフリースよりも繊維長が短くなる。これが素材のリサイクル可能回数を制限しており、既存の素材の寿命は延びるが、新しい繊維のニーズを完全に置き換えることはできないと、ヒグ・プロダクト・ツールズのディレクター、ジョエル・メルテンス氏は説明。サステナブル・アパレル・コアリションが所有する同社は、ブランド向けにアパレルやフットウエア、テキスタイルの持続可能性の測定を支援するデータ主導型分析ツールを提供する。
カラチを拠点とするダティニ・ファイバーズの創業者ハスナイン・リラニ氏は、繊維リサイクルを促進するには、衣料デザイナーやアパレルブランドが、素材やサプライチェーンの循環性を高める方法について、意思疎通を向上させる必要があると語る。
繊維商として働いたリラニ氏が2年前に創業した同社は現在、年間3000-5000トンのウール衣類をリサイクルしており、2024年までに1万トンまで事業を拡大したいと考えている。
「真の持続可能な解決策は、原材料や消費者使用後の製品を扱う素材生産者やリサイクル業者からもたらされている」とリラニ氏は言う。「ファッションブランドは、より持続可能なサプライチェーンのために耳を傾け、バックエンドに投資する必要がある」。
原題:Age-Old Wool Recycling Tradition Offers Lessons for Fast Fashion(抜粋)