バレンシアガetc.のクチュールに見るミニマム・ビューティー考察。年齢を重ねたくなるマチュアの美しさ

23-24年秋冬クチュールを眺めていると、年齢を重ねた成熟に感動することができる。特に目を見張ったバレンシアガのトップを飾ったモデル、ダニエル・スラヴィックの圧倒的な美しさや、ヴァレンティノのエフォートレスなメイクから、マチュアが牽引する美しさの概念を紐解く。

シワは決してマイナスな存在ではない

2023-24年秋冬、バレンシアガのオートクチュールコレクション。 Photo: Gorunway.com

23-24秋冬のクチュールが発表される中、先日、バレンシアガが発表したルックの数々は実にストイックで、ファースト・ルックに登場したダニエル・スラヴィックは、クリストバル・バレンシアガのそばで働いていた女性だ。彼女が1966年に着用したレプリカを着て今回のコレクションがスタートするという、ドラマティックな演出に感動しながらも、同時に、ありのまま・等身大でしかないメイクアップに強さを感じずにはいられなかった。

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人生を歩んできた証とも捉えられるシワ。年齢としてもちろん多少のたるみだってある。それを隠すことなく、しどけないツヤを感じるダウンヘアで、全体をラフに仕上げている。自らの赤みを引き出す程度のリップカラーと、丁寧に生活を重ねてきた人が得られるであろうツヤを生かすハイライトやベースメイクだけ。エイジングサインが逆にその透明感を際立たせ、彼女らしくも圧倒的な美しさを放っている。

2023-24年秋冬、ヴァレンティノのオートクチュールコレクション。 Photo: Gorunway.com

いわずもがな、この数年でバレンシアガが築いていた“ありのまま”を提示するビューティーは、今回のコレクションでも継続。ダニエル・スラヴィックに続くモデルたちも、自らのツヤと透明感だけを際立たせるミニマムなメイクアップでフロアを歩く。以前、バレンシアガのキャンペーンやコレクションのメイクアップを手がけるインゲ・グロニャールは「VOGUE JAPAN」のインタビューでこう語っている。

「どんな人にもなんらかの“美しさ”は必ず宿っています。かつては、シンメトリーで完璧な美しさがもてはやされた時代も。でも、今やすべてを包括的に受け入れ、多様性を大事にするのが普通のことに。私は昔から人と違うことが素敵だという考え方を創作においても表現してきました」。具体的にはその人に存在する赤みは消さずに残したり、シワを無理に隠さずにさらけ出し、ほかのパーツを際立たせるといった手法だ。

“ありのまま”をどこまでさらけ出すか

2023-24年秋冬、バレンシアガのオートクチュールコレクション。 Photo: Gorunway.com

今に始まったことではないが、デザイナーたちは画一的な美しさをアウトプットするサイクルから卒業した。できるだけありのままでいることを重視し、多様な美しさ、個性を重視したモデルの起用がある種のトレンドだ。ただし、“トレンド”として見えてしまってはいけない。本質的な多様性はトレンドとは対極にあり、意図せず無意識に多様な個性と美しさが世の中に存在することが理想。

2023-24年秋冬、スキャパレリのオートクチュールコレクション。 Photo: Gorunway.com

でも、今回のクチュールを眺めていて思ったのは、自分は自分でしかなく、比べられる対象ではない、ということをどこか意識させてくれるものだったのだ。おそらく、オートクチュールというアートと表裏一体となったファッションの中で、そのミニマムなビューティーのあり方がより研ぎ澄まされて見えたのだと思う。ストイックに創られた芸術に身を包み、その経験値がそのまま表れてしまうような無垢な状態なのかもしれない。

2023-24年秋冬、フェンディのオートクチュールコレクション。 Photo: Gorunway.com

フェンディのわずかにゴールドを感じるソフトマットなアイシャドウや、ヴァレンティノのテカリすれすれのグロウなヌードスキンなど、ありのままのパワーを引き出すメイクアップ。スリークにヘアをまとめたルックがいつも以上に多かったのも特徴だ。特に、40代後半から50代、60代のモデルからパワフルな美しさを受け取ってしまう。彼女たちの堂々とした姿を見ると、「エイジングサインなんてどうてもいいではないか」という気持ちにもなる。その気持ちが一瞬だけだったとしても、そう思わせてくれること、思えることは、ビューティー哲学を構築していく上で必要不可欠なことだ。

今回クチュールのショーを実際に取材したVOGUE JAPANのエディター、岡部はこのように語っている。「まさにオートクチュールのドレスのプリーツと同じように、正しい位置に入ったシワは、何もないフラットな肌よりも魅力的に見える」。どんな生き方で、どんなチューニングをするかは自分次第。だから、今一度自分の“そのまま”と向き合いたい。今日という日をどう過ごし、どういたわっていくか。そんな日々の蓄積がきっと自らが納得する美しさ、オリジナルの個性をポジティブに作り上げていくのではないだろうか。

Editor: Toru Mitani