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BAD BINCH TONGTONG──巨大なフォルムに目が釘づけ! 重力に抗する数学的アート【次世代ブランドを探せ!】

重力に逆らうような、浮遊的なシルエットを得意とするバッド ビンチ トントン(BAD BINCH TONGTONG)。中国出身のデザイナー、テレンス・ヂョウは、大学で数学を専攻したという異色の経歴を持つ。彼が大胆なデザインを通じて発信したいメッセージとは?

タコ足のようなデザインのルックは、チェコスロバキア版の『VOGUE』で クリス・ジェンナーも着用した。

「最大の目標は、デザインの境界線を超えて、何千、なん億もの人々にインスピレーションを与えること」──こう語るバッド ビンチ トントン(BAD BINCH TONGTONG)のデザイナー、テレンス・ヂョウは、すでにファッション界に大きな衝撃を与えている。中国出身で現在ニューヨークを拠点に活動するが、高校を卒業後、一度は数学の道を歩んだ。

しかし、幼い頃からデザインへの関心が高く、大学2年生の時にパーソンズ美術大学に転入している。そのユニークな経歴を活かし、巨大で立体的、そして重力に逆らうようなシルエットの表現法に辿り着く。圧倒的な存在感を放つ作品は、カミラ・カベロやロードなど、多くのセレブを魅了している。2022年3月に初のNFTコレクションを発表し、同年9月にはNYFWに初参加するなど、今後も精力的な活動から目が話せない。

── デザイナーになったきっかけを教えてください。

大学では数学を専攻していましたが、幼い頃からアートやクリエイティブなことに興味があったので、2年生の時にパーソンズ美術大学に転入しました。デザイナーとは、ユニークなものを創造することによって世界に影響を与える人々のこと。私にとっての最大の目標は、デザインの境界線を超えて多くの人々にインスピレーションを与えることです。

物理的な概念がインスピレーション源

── 重力に逆らうような、立体的なシルエットが印象的です。主なインスピレーション源は何ですか?

私は、物理的な概念に興味があります。人類は宇宙のことを、魅惑的に感じながらも、恐怖心を腹む複雑な感情とともに見てきたように思います。デザインとは、私にとってこのような感情を考察し、表現する手段。私の作品の中に、「Gargantua 2.0」というものがあるのですが、それは私の好きな映画『インターステラー』(2014)に登場するブラックホールの「Gargantua」に由来しています。「Gargantua 2.0」にインスパイアされたデザインを数多く発表しましたが、その大胆なシルエットがファッション関係者の目に留まったと思います。

──パワフルで規格外のシルエットは、どのようなテキスタイルや素材を使って実現しているのでしょうか?

トップシークレットです。

──今後のデザインに取り入れたい、実験的な表現方法はありますか?

私は実験的であることを目標に掲げていません。実際、私は自分のデザインや創作を「実験的」と言われるのがあまり好きではありません。実験的とは、未完成で探求している状態を意味します。私のデザインは、単に浮いている訳ではないんです。一つ一つの作品は完全なビジョンを表現していて、最高かつ脆弱な自己を観客に見せることを目指しています。  

──今シーズンのお気に入りのルックとその理由を教えてください。

 これまでの作品は全て、私にとっては赤ちゃんみたいなもの。“全員”を平等に愛しています。

──キャリアのターニングポイントは?

私のキャリアのターニングポイントは、自分の考えをデザインで表現しようと決めたことです。自分のブランドや会社を作るという決断をしたことで、今まで見たことのないものを作るという責任とパワーを自分に与えられたと感じています。 

──服の製作に加えて、ブランドビジネスも展開しています。その両方を担う現代のデザイナーとして、どのような困難がありますか?

デザインとは、社会が生む答えのない問題に対する回答だと思っています。ビジネスとは、そのプロダクトやソリューションの規模を拡大し、周囲の人々にインパクトを与えること。つまり、ビジネスとデザインは重なり合う部分が多いのです。多くの人はこの2つを相補的ではなく、二項対立的なものとして捉えますが、私はこれをチャンスだと考えています。

──多くのセレブリティやミュージシャンがあなたのデザインする服に魅了されています。著名人が着用することをどんな風に受け止めているのでしょう?

バッド ビンチ トントンを始めた理由の一つは、人々に自己表現の手段を与え、それを促すことです。自分自身のユニークなスタイルや個性を通して、私のブランドを選び、私が作るアイテムを着用して自己表現をしている人たちに感謝しています。私は「誰が」デザインを身につけるかではなく、「なぜ」彼らが私のデザインに惹かれるのかに興味があります。

── 5年後、10年後のビジョンを教えてください。

正直なところ、現在にしか目を向けていないので、未来のことはあまり考えていません。だから、5年後、10年後のプランもありません。今、ユニークな作品を作ることができる環境に恵まれているので、その製作活動のすべてが誇りです。

Photos: Courtesy of BAD BINCH TONGTONG Interview & Text: Sakurako Suzuki  Editor: Mayumi Numao