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欧州の迅速なウクライナ兵器供給は不可能、政府と企業が押し付け合い

  • 需要急増の欧州防衛業界、生産拡大には及び腰-需要消失を懸念
  • 企業は長期契約締結など要求、一部の政府は慎重姿勢
ドイツ防衛企業ラインメタルの工場で、155ミリ砲弾を製造する技師(6月、ドイツ・ウンターリュース)
ドイツ防衛企業ラインメタルの工場で、155ミリ砲弾を製造する技師(6月、ドイツ・ウンターリュース) Photographer: Axel HeimkenA/AFP/Getty Images

「以前は、時間はあったが資金がなかった。いまは資金はあるが、時間がない」。英防衛大手BAEシステムズのスウェーデン子会社責任者のトミー・グスタフソンラスク氏は現状をこう表現した。

  ロシアのウクライナ侵攻開始から1年半近くがたち、欧州の防衛関連企業には弾薬や携行型ミサイル、軍用車両まであらゆる軍需品の注文が押し寄せている。そこでジレンマに直面する。ロシアとの戦争や緊張が永久に続くと見込んで生産を拡大する賭けに出るか、過去数十年にわたって国防費削減を続けた各国政府から長期的なコミットメントが得られるまで様子を見るかという問題だ。

  このジレンマは、全体で年1200億ユーロ(約18兆7000億円)前後の売り上げを稼ぐ欧州防衛業界の全企業を覆う。ウクライナは弾薬や防空システムなどさらに多くの兵器を緊急に必要としており、欧州各国の兵器備蓄も少ない。ウクライナに対する持続的な兵器供給を可能にするとともに自らの安全保障を強化するため、欧州各国はのんびりとした国内の防衛産業を再び活性化しようとしている。北大西洋条約機構(NATO)は30日未満で臨戦態勢に入れる「即応部隊」の規模を現在の7倍となる30万人としたい考えだが、それには使用する用意の整った質の高い兵器が大量に必要だ。

  欧州各国はレイセオン・テクノロジーズやロッキード・マーチンなど米国の兵器メーカーとの取引が長い。米国の軍需産業は強力とは言え、単独で世界の全ての需要を満たすことはできない。米国も弾薬備蓄が減っており、それが理由で米政府は民間人への危険もあると懸念されるクラスター爆弾をウクライナに供給すると決定した。バイデン米大統領は欧州に域内防衛でより大きな責任を担うよう促し、ドイツやフランス、イタリアなど域内大国も米国の軍事サプライチェーンに対する依存を引き下げ、国内企業の育成を図りたい意向だ。

  NATO加盟国は11日にリトアニアのビリニュスで開かれる年次の首脳会議で、兵器の欧州共同調達計画を支持する見込みだ。この計画はまた、それぞれの国の兵器で共通の弾薬が確実に機能するよう標準規格の採用を各国に呼び掛ける。

  ただ、これを誰が主導するかを巡り、欧州各国政府と防衛企業の間に緊張がある。受注残が増え始めているとは言え、新工場が稼働する3年から5年後には需要がなくなっていることを恐れる企業側は生産拡大に及び腰だ。欧州各国は国防計画を撤回した前歴があり、国防費を国内総生産(GDP)比2%以上とするNATOの目標を再三にわたって履行していない国も多い。

Most NATO Members Don't Meet Defense Spending Targets Yet | NATO expenditures as a share of GDP, 2023 estimates
 
 

  欧州のある外交官によると、一部の国は将来に必要かどうか確信が持てないとして兵器調達の長期契約締結をためらっているという。このため企業側の不安は根拠がないものではない。

  企業側は熟練労働者や主要部品の不足に直面しつつ、自らの投資による生産の合理化や拡大を可能な限り行ってきたと、欧州航空宇宙・安全保障・国防産業の業界団体、ASD幹部のアンドレア・ナティービ氏は主張。将来の政府需要に関する透明性を企業は求めていると語った。

  「言葉に続いて、行動を確認したい。実際の行動だ」とナティービ氏は述べ、政府がとり得る措置として長期契約に加え、生産拡大への直接的な資金援助やエネルギーへの優先的なアクセス付与などを挙げた。

  業界への支援拡充でさらに踏み込んだ措置を受け入れる政府も一部にあるが、納期短縮などを中心に企業も負担を背負うべきだとの見解も当局者にはある。BAEシステムズでは需要増加のほか、今年前半の半導体不足やその他の物流上の問題を原因とするサプライチェーンの障害で、一部の戦闘用・軍用車両の納期までにかかる時間はロシアによるウクライナ侵攻前の3倍余りに伸びた。車両をきょう発注したとしても、納入は2030年以降になる計算だという。

  リトアニアのグレタ・モニカトゥチクテ氏は防衛企業について「現在は利益を上げ、大きな追い風を受けている。従って、業界の発展に投資するリスクも同様にとるべきだ」と語った。

原題:Europe Can’t Supply Ukraine With Weapons Fast Enough, Here’s Why(抜粋)

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