BEAUTY / EXPERT

睡眠の質は最初の90分で決まる! より良い眠りのための3つのルール。

寝る時間をたっぷり確保するより、眠りはじめの最初の90分を、いかに質のいいものにするかが良い眠りのための絶対条件なのだそう。スタンフォード大学で睡眠研究を続ける医師の西野精治先生が、今日から実践できる良い睡眠のためのヒントを伝授する。

良質な睡眠で脳と体の疲れをリカバー。

Photo: Evgeniia Rusinova / Getty Images

アクティブに過ごした昼の疲れを修復することは、睡眠の大事な役割。睡眠研究のスペシャリストである西野精治先生が説明する。「睡眠中には、脳内に沈着する老廃物の除去、いわば脳のデトックスも積極的に行われています。脳は体の中で最も活発な臓器なので老廃物も多く、それが溜まると日中の集中力の低下やイライラにも。睡眠不足は過労に直結するので、仕事の効率が落ち、生活習慣病のリスクも増加」。睡眠時間が世界で一番少ない日本人。コロナの影響で生活スタイルが変わり、睡眠時間は増加したのに寝る時間が後ろにずれ、質が低下した人が多いという。朝目覚めたときに疲れが残り、すっきり感がないなら放置は禁物。脳と体の疲れをリカバーする適切な睡眠を大至急手に入れて!

POINT1  眠りはじめの90分が睡眠の質を左右する!

夜10時~午前2時が肌のシンデレラタイムと呼ばれたこともあったけれど、それは誤解。「何時に寝ようと、眠ってから最初の90分に訪れる一番深い眠り=ノンレム睡眠を逃さず、ぐっすり眠ることが重要。逆に言えば、早くベッドに入っても、入眠直後の眠りが浅いと効率よく疲れが取れません。ノンレム睡眠には、脳と体の休息、記憶の整理・定着、ホルモンバランスの調整、免疫力アップ、脳の老廃物を取る、という働きがあります。この90分に成長ホルモンが大量に分泌するので肌ダメージの修復も」

ここで、寝つきをよくし、黄金の90分のクオリティを上げる5つのTIPSを紹介しよう。

●夕方を過ぎたら仕事のペースをスローダウン。
時間に追われてタスクを処理していると、自律神経の交感神経が優位になり脳が覚醒モードに。夕方になったら緊張をしいる作業を避けゆったり過ごす。残った仕事は明日の朝に。

●寝る90~120分くらい前にぬるめの入浴を15分。
深部体温を下げて脳をリラックスさせるための入浴法。38~40℃のお湯に15分程度入るとゆるやかに体温が上がり、90~120分後に深部体温が下がるので、入眠しやすくなる。

●首と目を温めてリラックススイッチをオン。
副交感神経を優位にしてリラックススイッチを入れる簡単で効率的な方法が、目のまわりと首を温めて血管を拡げること。寝る前に蒸しタオルを10分ほど当てるのもおすすめ。

●嗅覚は味覚の4倍敏感。脳に直接届く香りの力を利用。
味覚や聴覚、触覚とは異なり、ダイレクトに脳に届く嗅覚。ただしどんな香りも入眠効果は絶対ではない。記憶とも結びつきやすいので自分にとって心地よい香りを見つけたい。

●眠りやすくなるポジティブルーティンを作る。
眠る前のスマホはブルーライトより興奮するコンテンツに注意。音楽、香り、飲み物などこれをやればよく眠れるという成功パターンを組み合わせて、ポジティブルーティンに。

POINT2  質の悪い睡眠は、疲れを超えて感染リスクにも。

長時間眠っても疲れが残る、日中眠くなる。それはもしかすると、眠っている間1時間に15回以上呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群の可能性も。「顔が平たく顎が引っ込んでいるアジア人は気道が狭く、痩せ型でも睡眠時無呼吸症候群になりやすい傾向が。自覚がない人が多いのも特徴。2021年に睡眠医学とITテクノロジーのイノベーションカンパニーであるブレインスリープが行った調査では、コロナ感染者の約35%が睡眠時無呼吸症候群という結果も。コロナに感染しなかった人での睡眠時無呼吸症候群の割合は2.7%なので、10 倍以上の差。睡眠の質が悪いと免疫力が低下しインフルエンザや風邪のリスクも上がります」

POINT3  朝のルーティンでアクティブな一日を始める。

目覚めてからどう過ごすかで、その日の元気度は大きく変わる。「まずは太陽の光と朝食で体内時計を調整。自律神経を整え代謝を上げる朝食には、ダイエット効果があり、睡眠時無呼吸症候群のリスクも減らします。深部体温を上げて覚醒スイッチをオンにすることも大切。汗をかかない程度の軽めの運動、短時間のぬるめのシャワー、冷水で手や顔を洗い皮膚温を下げて深部との体温差を大きくするのもおすすめ。朝食には温かい味噌汁やスープを添えて、コーヒー、紅茶は冷たいものよりホットを。集中して新聞や本を読み、ノルアドレナリンやヒスタミンの分泌を促すと脳がシャキッとします」

話を聞いたのは……
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠・生体リズム研究所所長。医師、医学博士。過眠症の一種、ナルコレプシーの原因を解明した睡眠研究の第一人者。『スタンフォードの眠れる教室』など著書多数。

※『VOGUE JAPAN』2022年8月号「疲れない脳」転載記事。

Text: Eri Kataoka  Editor: Yu Soga