『RRR』のラーム・チャラン主演! 映画『ランガスタラム』レビュー──ランガスタラムはこの世の縮図にほかならない!

インド本国では2018年に公開され、インドの代表的な映画賞であるフィルムフェア賞や南インド国際映画賞などの主演俳優賞を軒並み獲得。ラーム・チャラン自身が「役者人生の転換点」「最高傑作のひとつ」と語る作品が、『RRR』の大ヒットを受け、7月14日(金)より日本公開される。その見どころは?
『RRR』のラーム・チャラン主演! 映画『ランガスタラム』レビュー──ランガスタラムはこの世の縮図にほかならない!

「この世は芝居の舞台 俺たちゃみな人形さ」

『RRR』の大ヒットで、古参のインド映画ファン、テルグ語映画ファン以外にも一躍おなじみの存在となったラーム・チャランの、インド本国では2018年に公開された主演作品。「役者人生の転換点となった」と自身が語るこの映画で、チャランは、『RRR』で演じたラーマ役とはまったく違う、純朴さと粗野な面とをあわせ持つ農村の青年を生き生きと演じる。

スター俳優一家に生まれたラーム・チャランが、農村の青年を好演

1980年代、インド南東部の農村、ランガスタラムに住むチッティ・バーブ(チャラン)は、機械で農地に放水する「エンジニア」として生計を立てている。生まれつき耳が聞こえにくいのだが、さほど気にすることもなく、両親や妹、仲間たちとともに、のびのび明るく暮らしていた。ある日、ラーマラクシュミ(サマンタ)という名の若い娘にひとめぼれ、猛アタックを開始する。

ラーマラクシュミを演じるのは、タミル語・テルグ語両映画界のトップヒロイン、サマンタ(左)

一方、村は「プレジデント」と呼ばれる地主兼村長(ジャガパティ・バーブ)の長期独裁状態。プレジデントは貸付金の過剰取り立てで私腹を肥やしていた。勤め先のドバイから一時帰国した、チッティの兄のクマール(アーディ・ピニシェッティ)は、村の窮状を目にし、30年間誰ひとり立つことのなかった、村長選の対抗馬として名乗りを上げる。州議(プラカーシュ・ラージ)の支援も取り付けるが、プレジデントは反抗する者の命を奪うことさえ辞さない男だ。

兄を命がけで守ろうとするチッティ。一方、ラーマラクシュミとようやく恋仲になったのに、権力者プレジデントに反旗をひるがえしたことで、結婚話は暗礁に乗り上げてしまう。はたして若者たちと村の運命は──?

悪役もお得意の名俳優、ジャガパティ・バーブ演じる「プレジデント」

村の名前である「ランガスタラム」は、テルグ語で「舞台」を意味する言葉だそうだ。チッティが最初に歌い踊る曲に、「この世は芝居の舞台 俺たちゃみな人形さ」というシェイクスピアみたいなフレーズが出てくるが、言い換えれば、ランガスタラムはこの世の縮図にほかならないということだろう。明らかに搾取されているのに、現状を変える必要があると誰の目にも明らかなのに、みなが現状維持を選択してしまう──もちろんいろいろな理由が組み合わさった結果そうなってしまうのだが──映画前半のランガスタラム村の状況には、既視感を感じて「うわあああ」となってしまう人も多いのではないか。

チッティと兄のクマール(右/アーディ・ピニシェッティ)

また、難聴という「しるし」を持ち、たったひとりで大勢を叩きのめしてしまう現実離れした強さを持つチッティは、伝説に登場する英雄のようでもある。先ほど挙げた歌のフレーズに見られる「すべては運命の導くまま」的な世界観と、ヒンドゥー教の最高神ヴィシュヌの妻である女神ラクシュミの名が、彼の恋人の名前のなかに含まれていることとがあいまって、『RRR』同様この映画も、ある種神話のような性格を帯びる。

冒頭、チッティは毒ヘビを追いかけている途中でラーマラクシュミに出会う(そのとき彼女が水浴中だというのも神話っぽい)のだが、プレジデントの本名のなかには、どうやら「ヘビ」を意味する言葉が入っているらしいから、この映画は、壮大なヘビ退治の物語だと言い換えることもできそうだ(……が、はたしてほんとうにそれがこの映画のすべてであるのかは、みなさん結末まで観てお確かめください)。

実を言えば、この映画を真の意味で理解するには、インド特有の事情、とりわけカースト制度について、肌感覚でわかっている必要があるのではないかとちょっとだけ思うのだけれど、ともあれ最低限の知識さえあれば、映画として充分楽しめるだろう。ついでに言うと女性キャラクターの扱いについても、男女の自由恋愛よりも「家」の名誉のほうが優先される、インド特有の事情を考慮に入れる必要があるかもしれない(時代設定が1980年代だからなおさらだろう)。後半は、政治参加や教育機会へのアクセスなど、女性の社会進出を肯定的にとらえる要素が少しずつだが増えていく。

自在に動き回るキャメラが視覚的な驚きと喜びを約束する。アクションシーン、および、歌とダンスのシーンももちろんお楽しみだ。ラーム・チャランは『RRR』同様、この映画でもダンサーとしての圧倒的な力量の高さを示す。何より彼のダンスには華があり、いつまでも見ていたい気持ちにさせられる。

『ランガスタラム』

7月14日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
© Mythri Movie Makers
配給:SPACEBOX
公式ホームページ:https://spaceboxjapan.jp/rangasthalam/

篠儀直子(しのぎ なおこ)

翻訳者。映画批評も手がける。翻訳書は『フレッド・アステア自伝』『エドワード・ヤン』(以上青土社)『ウェス・アンダーソンの世界 グランド・ブダペスト・ホテル』(DU BOOKS)『SF映画のタイポグラフィとデザイン』(フィルムアート社)『切り裂きジャックに殺されたのは誰か』(青土社)など。

編集・横山芙美(GQ)


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『バーフバリ 伝説誕生』(2015)と『バーフバリ 王の凱旋』(2017)を手がけたインド映画界の巨匠、S.S.ラージャマウリ監督による最新映画『RRR』が10月21日(金)より全国公開中だ。来日中の監督に、翻訳者で映画批評も手がける篠儀直子がインタビューした。