爆買い不在でも好調なインバウンド、背景に円安や滞在長期化
横山桃花-
訪日客の消費単価がコロナ前から3割増、高級品が人気
-
インバウンド関連株にさらなる上昇の余地も
外国人旅行客が日本国内で消費する金額が、コロナ前と比べて増えていることが分かった。団体旅行が制限されている中国からの観光客は鈍いままだが、円安や滞在期間の長期化を背景に中国以外からの観光客の消費金額は上昇傾向にある。
観光庁によると、2023年1-3月の観光・レジャー目的の訪日外国人の旅行消費単価は18万6813円と、19年の同じ期間から3割ほど増加した。だが、日本政府観光局によると、5月の中国本土からの観光客は19年の2割程度にとどまる。同様に東南アジア諸国に旅行する中国人も、19年に比べると14-39%程度とさえない。
関連記事:旅行忘れた中国人、東南アジア成長の足かせに-日本では新たな動きも
こうしたことからインバウンド消費を支えるのは主に中国以外からの観光客で、背景に円安があるとの見方がある。フィリピンから来日したアルバート・リシンさんは、ブルームバーグの取材に、「免税や円安で自国の85%ほどで買える」と話す。7日間の滞在で、友人のためにブランド品などを200万円分ほど買ったという。
6月の免税売り上げの客単価を19年の同月と比較すると、高島屋では77%の伸びとなった。IR担当者は円安の影響もあり高額品が売れていると分析する。J.フロントリテイリングでは68%増加した。コーポレートコミュニケーション室IR推進担当は富裕層の個人客が多く、ラグジュアリー系が買われていると話す。
加えて、旅行客の滞在期間が延びていることも、消費金額の増加につながっているという見方もある。観光庁の調べによると、23年1-3月の訪日外国人の平均宿泊日数は12.7泊と、19年同期間の8.5泊から長期化している。
野村証券の美和卓チーフエコノミストは「航空運賃の上昇で滞在期間あたりの往復の交通費を安くしようとコスト判断が働いているのでは」と話す。
経済効果
三菱UFJモルガン・スタンレー証券は1-3月期の実質国内総生産(GDP)の1.6%成長のうち、1.1%ポイントがインバウンド需要によるものだと計算する。
今後、中国本土からの消費が復活すれば、さらに押し上げ効果は大きくなる可能性もある。李智雄チーフエコノミストは、現在の外国人観光客らの消費傾向に言及して、「爆買いをしているかというと、中国人観光客とは比較にはならない」と話す。
インバウンドの拡大が進めば、関連株のさらなる上昇という可能性も出る。JPモルガン証券の村田大郎アナリストは、中国本土以外の観光客による消費単価の上昇を、株式市場は織り込んでいないと指摘する。同氏によると、三越伊勢丹ホールディングスなどは市場の期待予想がいまだに低く、株価に上昇余地がある。
ただし、中国からの団体客に対して制限が解除される時期については不透明感が根強い。李氏はそのタイミングについて、中国政府が「国際政治上のどのタイミングで用いたいのかにある」と指摘。日中の首脳会談が実現するなどすれば、解除の可能性は浮上すると期待する。