ジムに通っているのに理想のボディになれないのはなぜ?
ボディも個の美しさを問われる時代。スキニーでもプラスサイズでも、美しさの可能性は皆、同じだ。また、痩せてはいても姿勢が悪くだらしなく見える人もいれば、肉付きはそこそこ良くてもフェイスラインがシュッとしていてウエストはキュッとくびれているメリハリボディの持ち主がいることも確か。美しさはウエイトに左右されない、という考えは次第に浸透しつつある。だが、美しいボディラインの差は、体重ではないとしたらいったい何に左右されているのだろうか。
「日々、一つひとつの所作や動作にこだわっていれば、特別な運動をしなくても体は自然と変わります。日常生活動作の集大成が、今のあなたの体だからです。アン・ハサウェイやリアーナ、ジェニファー・ロペス、アシュリー・グラハム、ジェニファー・ローレンスのような、痩せていなくても無駄な脂肪を感じさせず洋服を格好良く着こなす女性というのは、皆、自然と普段から良い筋肉の動かし方をしているのです」と、身体調律家でパーソナルフェイストレーナーの木村さんは分析する。
年齢も体型もさまざまな彼女たちに共通するのは、美しい立ち姿、すっきりとしたデコルテのライン、キュッとしまったウエスト、プリンと上がったヒップだ。彼女たちのような、あるいは自分が理想とするボディを手に入れたいと思ったとき、たいていの人が起こす行動は、ジム通いを始めたり、パーソナルトレーナーのもとトレーニングを始めたり、といったところだろう。だが、せっせとジムに通い体を鍛えたりしたけれど、なかなか思うような効果が見られなかった。そのせいでだんだん足が遠のいてしまった……。そんな経験がある人も、少なくないのではないか。
「みなさん、筋トレをすれば自然にスタイルが変わると信じきっていますが、もっと大事なことは所作にこだわることです。美しく引き締まったボディの秘訣は、日常生活に潜んでいます」と木村さんは続ける。
鍛えるよりも毎日の動作を見直してヒップアップ!
前述のセレブたちのような、ボリュームがありながらキュッと上がったヒップに憧れるとする。木村さん曰く、彼女たちのようなボディラインを目指していくらスクワットなどでお尻を鍛えるトレーニングに力を入れても、動かし方にこだわらず闇雲に行うとあまり期待する効果を得られないのだそう。
「彼らはしっかりお尻を鍛えていますが、それ以前にお尻が上がるような姿勢や重心をとっているんです。DNAで受け継がれる体型の特徴の影響も大きいので、我々アジア人が丸いヒップを目指すなら意識的に姿勢や日常動作からこだわる必要があります」
普段の筋肉の使い方から見直さないと、いくら鍛えても思うようなボディにはなれない。それどころか意図しないところに筋肉が付いてしまうと、木村さんは話す。
「例えば、猫背の人が姿勢を美しくしようとして、そのままの猫背ポジションで背筋を鍛えると、“猫背をキープするための背筋”が鍛えられてしまい、背中がどんどん分厚く丸いフォルムになってしまうだけです。特に女性は運動歴のない人も多く、見よう見まねでトレーニングをして思わぬところがゴツくなったり、怪我をしてしまったりすることもあります。まずはなりたい体になるための“基礎筋力”がついていないと思うように結果が出ないし、その姿勢でトレーニングを取り組めているかどうかが、理想像のボディへ向かう鍵を握っています」
美ボディのスイッチは「つま先」にあり
その“基礎筋力”をつけるには、日常的にどんなことに注意して体を動かせばいいのか。木村さんからのミッションは、たった二つ。「つま先重心を心がける」と「呼吸を大切にする」だ。まずは、つま先重心について。
「黒人の方に代表される狩猟民族の系譜の人々やアスリートの多くはつま先重心で、一方、日本人を含む農耕民族の系譜の人々はかかと重心が多いと言われています。いいか悪いかは別としてモードモデルのような洋服を美しく着こなせる体型を目指すならば、重心の位置をつま先にシフトする必要があると私は考えています」
かかと重心になっている人の特徴として、土踏まずがペタッと落ちて足指が浮いていることが挙げられる。「重心がかかと過ぎると膝が過伸展したままロックされ、床から受ける力がお尻まで到達しないためヒップに力が入りません。と同時に、膝下のスネ・ふくらはぎが内旋してスネの外側が出っ張った、俗にいうXO脚の状態になります。この内旋により土踏まずのアーチは崩れ、床に押しつけられた足指は反り返り、外反母趾や浮指のようなポジションを取り始めるわけです。この状態での歩行やトレーニングは、膝周りの筋肉活動がメインになりますのでヒップアップはのぞめず、広がったお尻とがっしりと発達した太ももや膝周り、曲がったスネが完成するというわけです」
正しい“つま先重心”をマスターするコツを伝授
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「姿勢は全身でとるもの。そのスタートは床と接している足裏、特につま先側なんです」と木村さん。どのように立つのがいいのか。姿見を用意してトライしてみよう。
「(1)まずは土踏まずを床から浮かそうとしてみてください。足指が床に触れようと力が入るのが分かると思います。小指側の側面はヒップにつながる筋膜連動があるので、ここを意識できると自然とお尻に力が入るんですよ。(2)次に両膝が足首の真上に乗るように立ちます」。普段、膝が過伸展している人はこれが難しい。
「(3)さらに膝の上に鼠径部、肺、上顎を積み重ねてみてください。足裏、特につま先側と外側で地面を蹴っていてお尻に力が入るだけでなく、自然と呼吸も深く、顎の食いしばりが改善されていることに気が付く人もいるでしょう」
普段、かかと重心で立っている人は、いつもに比べお尻の上のほうに力が入り、かつ目線が上に、お腹はかなり縦に伸びているのを実感できるはずだ。また、ここまで前に体重を乗せるの?と驚く人もいるかもしれない。だが、この重心のかけ方を自分の基本姿勢として体に覚えさせるのが重要なのだそう。何より、つま先重心で立つと、鏡に映るその姿はすでにバレリーナのごとく伸びやかで、見ていて気持ちが良いものになっていることに気づくはずだ。
ちなみにかかと重心の姿勢だと、どのようなボディになりやすいかというと以下の通り。
- つま先が上がり外反母趾
- 脛が引っ張られてO脚
- 膝に力が入って前太ももに余計な筋肉が付く
- お尻に力が入らないので垂れる
- 背中が丸まり猫背
- 両肩が内側に入り込み巻き肩
- 肘が伸びて猿手
- 首が前に倒れてストレートネック
- 顎の筋肉に力が入り歯の食いしばり
- 顔が下を向くのでフェイスラインのたるみ
どれも避けたいことばかり。つま先重心の生活、今日からすぐに始めたいところ。料理をするとき、歯磨きをするとき、ドライヤーで髪の毛を乾かすとき……日常生活で立つたびに姿勢を意識してみよう。最初はお尻や腹筋が筋肉痛になるかもしれない。でもそれは、使うべき筋肉が鍛えられている証拠。何より、エクササイズをしたときと同じような“体を使った感”がある。
>>呼吸と座り姿勢を変えれば、フェイスリフト&目ヂカラUPに!? “基礎筋力”をつけるための二つ目の条件「呼吸を大切にする」については続編をチェックして。
話を聞いたのは……
木村祐介
身体調律家、所作研究家。“ファンクショナル・ビューティー(機能的な美しさ)”を永遠のテーマとし、2023年にサロン「TONAFU-調-」を代官山、京都、金沢の3拠点で立ち上げ。表現や美の最前線にいる役者やダンサーたちとのセッションを通じて、運動力学や機能解剖学を基としたメソッドを独自に考案。
@kimura__yusuke
Text: Kyoko Takahashi Editor: Rieko Kosai