【エンゼルス・大谷翔平】番記者が語る“オオタニ”の素顔とは?──『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』

7月12日、MLBエンゼルス・大谷翔平の番記者が1460日間密着して書き綴った『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』(徳間書店)が刊行される。発売を記念して、著者のジェフ・フレッチャーに『GQ JAPAN』が訊いた。
【エンゼルス・大谷翔平】番記者が語る“オオタニ”の素顔とは?──『SHOTIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』

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大谷翔平のキャラクターがよくわかる!

メジャーリーグ、エンゼルスの大谷翔平は発言が超優等生で、いわゆるリップサービスもない。野球以外のことにもまったく興味がないそうで、インタビュアー泣かせで知られるアスリートである。

そんな大谷の番記者が書き綴った新刊ということで、『GQ JAPAN』のスポーツ担当としては、「あの大谷が何を話すのか?」、当然期待は膨らんだ。そこで発売前のゲラを確認してみると、本書は大谷のインタビュー本ではないようだ。所属チームのGM、元監督、チームメイト、他球団の選手のコメントを通して大谷のキャラクターを浮かび上がらせるのが特徴で、本人の直接インタビュー以上に、彼のキャラクターがよくわかる、大変面白い内容に仕上がっている。類似本との違いは、証言者の質、と言っていい。最大の理解者であり、大谷の二刀流を全面的にサポートしたエンゼルスの前監督、ジョー・マドンの特別寄稿はその好例だ。

『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』の著者、ジェフ・フレッチャーは、アメリカ・アナハイムを拠点とする「オレンジカウンティー・レジスター」紙の記者であり、メジャー取材歴24年、米野球殿堂入りを決める投票資格をもつジャーナリストだ。2013年からはエンゼルスを担当。MLBルーキーイヤーから4年、約1460日にわたり大谷翔平を密着取材した“オオタニ番”ということになる。今回は敵地・ヒューストンでの取材を終えたばかりのジェフさんをインタビュー。アメリカと日本をZoomで繋いで、オオタニ番だからこそ知りうる二刀流成功の真相を訊いた。

──地元紙「オレンジカウンティー・レジスター」で2013年からエンゼルスを担当し、大谷はMLBルーキーイヤーから4年間にわたって密着。ジェフさんはアメリカでもっとも大谷を取材している、いわゆる番記者です。

はい、MLBでの全キャリアを追っていることになります。

──球場入りしてから試合後まで、記者としての1日を教えてください。

試合の4時間前には球場に着いて、クラブハウスに直行します。そこで約1時間、選手やコーチ陣にインタビュー、監督とも話します。たいていは、ダグアウトで話を聞きます。それから10~15人が集まるメディアセッションに参加。プレスボックスに戻って、試合がはじまる前に記事のドラフト(第1稿)を書きます。試合をみて、内容や結果を踏まえて、試合終了直後にまたクラブハウスで監督らに話を聞きます。そこから記事を更新して、試合終了から1時間以内には第2稿を仕上げる、といった流れです。

──締め切り時間に合わせて、現場から原稿を所属社に送るのですか?

決まった締め切り時間はありません。試合が終わるタイミングでは紙媒体用の締め切り時間は過ぎていますので。記事はオンライン版に掲載されます。すべてを盛り込んで、できる限り早く記事を仕上げるようにしています。

──ところで、大谷翔平は優等生発言が多く、なかなかキャラクターが見えにくいタイプで、インタビュアー泣かせでも知られます。番記者であるジェフさんから見てどんな人ですか? 彼のキャラクター、素顔がわかるエピソードと合わせて教えてください。

物腰が柔らかく、おもしろい人です。チームメイトとも積極的に話していますし、クラブハウスではいつもリラックスしています。バッティングフォームなどチームメイトのモノマネをしたり、私にジョークを言ってきたりすることもありますね。ただ、フォーマルなインタビューとなると、短く、シンプルで、事実だけをそのままストレートに言ってくるような受け答えです。まるで、早く取材終わってくれないかな、といった感じですね。

──インタビューがあまり好きではないというのは本当なんですね。

できる限り早く、“野球に戻りたい”のではないでしょうか。取材でメディアと話しているよりもトレーニングや準備に1秒でも多く割きたいと思っているようです。

──非常に興味深いエピソードです。

そういう取材対応は珍しいことではありません。彼だけではないです。多くの選手にとって、メディア対応は楽なことではありません。彼らの仕事は野球をすることです。「余分な仕事が増える」と考える選手もいるでしょう。メディア対応はするけれど、たとえばやらなくてもいいという選択肢があったら、後者を選ぶと思いますよ。

2018年4月3日のエンゼル・スタジアム、本拠地での初打席でホームランを放った大谷翔平がベンチに戻るも、チームメイトたちは全員が無視。「サイレント・トリートメント」と呼ばれる、いたずらだ。(写真・田口有史)

大谷とエンゼルスの相性

──大谷がエンゼルスを選んだ理由の1つに「フィーリング」というものがありました。いま振り返って、両者はどの部分でマッチしたと思われますか?

快適に感じられるかどうか、ではないでしょうか。すべての職業と職場がそうであるように人間関係は重要です。最初にエンゼルスを選んだときは快適さを重視したと思います。入団から4年の間にかなりチームのメンバーは変わっていますが、私が見ている限り、新しいメンバーとも仲良くしているようです。それと、エンゼルスは彼にとても多くの「スペース」を与えていますね。彼のやりたい通りにプレイできるような環境を整えています。とくに昨年は転換期でした。大谷が休みたくない日でも欠場させるなど、その前のシーズン(2020年)は制限がたくさんあったのです。昨年はだいぶ緩和されて、スケジュールは本人に任されていました。

──大谷が自身で判断できることが多いと。

そうです。「疲れているだろうから」と半ば強制的に休ませるようなことはなく、本人が疲れていない、彼がプレイできると言ったら出場させるようにしています。

──そういったことは、MLBでは珍しいことなのですか? エンゼルスと彼の間だけの特別なことなのですか?

日本からMLBに来るとき、北海道ファイターズから「大谷は休みが欲しいとは自分から決して口にしない」と報告があったそうなんです。それもあって、登板日の前日は打たない、それと登板の翌日も打たない、投げる当日は打たない(ピッチャーとして出場する同じ日に打者にはならない)という方針となりました。大谷は納得していなかったかもしれませんが、とにかく球団はそれが最善と考えたわけです。けれど、その方針での二刀流はうまくいかなかった。期待するような成績を残せず、ケガもあったので、2021年のシーズン前にいったんすべてを白紙にしたのです。彼の思うようにやらせてみようと。その結果は周知のとおり。大成功でした。

──MLB取材歴24年のジェフさんが、はじめて大谷を見たときの印象を改めて振り返ってください。

才能にあふれている、とても良い選手だと思いましたね。ただ、才能があることと、よいパフォーマンスをしてMLBで結果を残して認められることは別モノです。れっきとした違いがあります。2018年、スプリングトレーニングで見たときは「もう少し練習が必要ではないか」と感じました。アメリカのメディアの何人かが言っていたように、「マイナーリーグでスタートをさせるべき」とまでは思いませんでしたが、「準備ができていないのではないか」と感じたのは事実です。ただ、シーズンがはじまって、我々の認識が間違っていたことを彼は証明してみせましたね。

──著書には鮮烈な活躍を見て単行本の執筆をはじめた、とあります。じっさいに執筆を決めたきっかけは何だったのですか?

開幕後の2週間、彼はバッターとしてもピッチャーとしても、とてもパフォーマンスがよかった。そのころ、ある出版社から「時期尚早かもしれないが、2018年はスペシャルなシーズンになるかもしれない。残りのシーズンも追いかけて本にしませんか?」と連絡をもらったのがきっかけです。番記者としてはとてもうれしい提案で、5月には4分の1を書きあげていました。ただ、6月になると肘のケガもあって、二刀流の「投手・大谷」に待ったがかかってしまいましたよね。そこから数年、単行本のプロジェクトは寝かせたままになっていたのですが、2021年になると大谷はケガから完全復活しました。ご存知の通り、二刀流で多くの記録を塗り替えたこともあって、複数の出版社から刊行の声がかかりました。

ギャラリー:大谷翔平──ゲームチェンジャー
二刀流でセンセーションを巻き起こした大谷翔平。アメリカの野球が偉大だったことを思い起こさせ、野球がこれからどう変わっていくのかを示唆してくれる唯一無二の存在に、キャリアと野球への思いを訊いた。

2021年の大成功の理由

ここで、2021年の大谷翔平の記録を振りかえってみたい。1918年のベーブ・ルース以来、103年ぶりとなる2ケタ勝利&2ケタ本塁打にはあと1勝届かなかったものの、打撃部門では46本塁打&100打点&26盗塁、投手部門では9勝&防御率3.18&156奪三振を記録。大谷翔平は、ベーブ・ルースを軽く超える内容で二刀流を完遂したことになる。

──日本ではいまでこそ「二刀流」を大絶賛しているのですが、球界OBをはじめ、反対の声が多かったのが事実です。MLBのルーキーイヤーに肘を故障したときには「それ見たことか」という声も目立ちました。“オオタニ番”であるジェフさんはどう思いましたか?

2020年に再びケガをしたこともあって、多くの人は大谷の二刀流に懐疑的になっていたと思います。個人的には、エンゼルスはもう一度彼にチャンスを与えるべきだと考えていました。それでも結果が出なければ、別のプランを考える。エンゼルスも同じように思ったのでしょう。もし彼が失敗していたら、以降のMLBで二刀流はできなかったかもしれません。大谷自身も重要な年だと理解していたようで、2021年の開幕に向けて、健康で強い体を作ろうとしていたことがみてとれます。二刀流をつづけるためには2021年の結果が何よりも重要であること、そしてよいパフォーマンスをしなければならないことをよく理解していたと思います。

──US版『GQ』の独占インタビューで聞き手のダニエル・ライリーは、大谷をステロイド・スキャンダルで人気が失墜していた「MLBの救世主」と評しています。

確かに大谷は人気があるし、野球ファン以外の新しい層を引き込んだのは事実です。そして野球は大谷が大好きです。その証拠に、彼のためにMLB機構がルールを変えたぐらいですから。能力を受け入れ、引き出すためにまったく新しいルールを導入したのです。昨年のオールスターでは、「1番DH」としてスタメン出場し、特例として先発投手もつとめました。オールスター史上初となる投打の二刀流出場です。

──アメリカでここまで受け入れられた要因はどこにあると考えますか? そして、ここまでの人気を獲得すると想像していましたか?

100年に一度の逸材が誕生すれば、それは大きなストーリーだし、少なくともこの100年の間に彼のような人はいなかったのですから、人々が関心をもつのは当然のことです。正直、大谷がここまでの偉業を成し遂げるだろうとは想像していませんでした。

──著書のドラフトを拝読しました。本書は大谷翔平のインタビューではなく、関係者のコメントで構成されているのが特徴です。これだけ近くにいる番記者のジェフさんでも、大谷の個別取材は難しいのでしょうか?

とても難しいです。大谷はインタビューが好きではないですし、自分をオープンにすること、プライベートを明かすことも好みません。基本的に試合のことや日常のことを話せるのは試合の前後のみ。もちろん、もっと詳しく掘り下げて訊きたいとは思いますが、個別取材の機会は限られています。ですので、本書では日本の野球界も含めた関係者のコメントを通じて、彼のパーソナリティが伝わるように書きました。

──番記者としては、選手との適切な距離も必要です。

私にジョークを言ってきたり、身近な存在として認識してくれているとは思います。史上初の二刀流出場ということもあって、2021年のオールスターでは30以上のメディアが彼を取り囲みました。そのなかで唯一私が見慣れた顔の記者だったのでしょう。彼自身が自分をリラックスさせるためだったのか、私の肩をつかんだりしておどけていましたね。メディアの数も含めてやっぱりオールスターは特別な場所ですから、私を見つけてホッとしたのかしれません。そういった意味では近しい関係とも言えるでしょう。

──それでも取材対象としては、とても難しい相手なのですね。

ええ、ほかの選手とは、ロッカールームなどでゆうに10~15分間、家族のこと、自由時間に何をするか、別の日の試合のことなど、プライベートに踏み込んだ話をしますからね。大谷とは、そういうことは滅多にないですね。

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Jeff Fletcher
ジェフ・フレッチャー 

1969年生まれ、カリフォルニア州ロサンゼルス在住。エンゼルス番として10年目を迎えたオレンジカウンティー・レジスター紙の記者。アメリカでもっとも大谷選手を取材している記者として、日本のテレビ番組にも出演多数。2015年からはアメリカ野球作家協会のロサンゼルス支部長を務めている。